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農政:世界の食料は今 農中総研リポート

【世界の食料は今 農中総研リポート】エガリム法によるフランス農協への影響① 小田志保主任研究員 2023年12月28日

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「世界の食料は今」をテーマに農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回は主任研究員の小田志保氏が「エガリム法によるフランス農協への影響」をテーマに解説する。

食料・農業・農村基本法の改正に伴う議論のなか、フランスのエガリム法が注目されている。2023年8月の適正な価格形成に関する協議会会合でも、同法の説明があった。京都大学名誉教授・新山陽子氏等の尽力で日本での認知度を上げた同法<注1>は、日本での生産資材価格の変動を織り込んだ価格形成の仕組みづくりで参考にされている。現在は、飲用牛乳ワーキンググループで乳価交渉等に関し、議論が進む。

同法は、生産資材価格の変動を、川下での販売価格に連動させるものである。資材価格の変動は、フランス国立統計経済研究所(INSEE)の「IPAMPA指数<注2>」で分析されることが多い。第1図はすべての農業資材の「総合」の指数を示したもので、21年以降の上昇が顕著である。同指数は、酪農なら牛乳のほか、羊乳や山羊乳というように、品目別に356種類ある。

IPAMPA指数(農業資材価格総合)IPAMPA指数(農業資材価格総合)

同法は、フランスの農協にどのような影響をもたらしたのであろうか。農協系統の乳業メーカーは小売業と交渉しやすくなったと評価する<注3>。一方、マイナスの影響も懸念されている。

以下は、フランス農協中央会(La Cooperation Agricole)の税務法務担当部長マリーヌ・ノセル(Marine Nossereu)氏から得た情報である。なお同氏を紹介してくださった、ボルドー大学のマリリン・フィリッピ教授には謝意を表したい。

1. 巨大化するフランスの農協

22年のフランスには農協が2,000超あり、いずれも品目ごとの専門農協である。フランスでは、農家の75%はなんらかの農協に加入する等、EU加盟国のうち農協制度の発達がみられる<注4>。

農業・食品産業の売上高の4割は農協系統が占めており、総額880億ユーロに達している。この額には農協子会社の食品メーカーの販売額を含む。こうした食品メーカーには大企業も多く、フランスの食品製造業を売上高順に並べると、農協系統のアグリアル・グループ(3位)やソディアール(5位)は上位<注5>に位置する。また、それらは輸出にも積極的である。

2. エガリム法の農協事業への適用

エガリム法は18年公布の1法から23年公布の3法まであり、農業漁業法典や商法典等の改正を行う。農業漁業法典は農家の農産物出荷にかかる取引を、商法典等は食品メーカー等と小売業の取引(注 「一般販売条件書(CGV)」の策定)を規制するものである(第2図)。

食品のサプライチェーンの各段階の取引にかかる規制とエガリム法の適用範囲

フランスの農協の事業範囲は、サプライチェーンの集出荷から加工・卸売販売までである。従って、この両方の段階でエガリム法が適用される。

農産物の出荷段階では、所有権移転を伴う場合のみ、同法が適用される。フランスの農協は法的には買い取り販売、すなわち組合員の農産物出荷は所有権移転を伴うとみなされており、適用対象である。なお、団体交渉等のためにEUが設立を支援してきた「生産者組織(POs)」は所有権移転を伴わない委託販売なので、適用対象外とされている<注6>。

さらにエガリム法は、農協の組合員との取引に関する各種取り決めについての透明性を強化した。同法のもと、農協は、内規や年次報告書等、また出荷規定と出荷実績が違った場合の課徴金等に関し、組合員向けに情報の明確性や透明性を高めることを求められた。

具体的に、19年7月以降は法令<注7>(Ordonnance 2019-362)のもと、農協は組合員への農産物代金の精算の際に、生産資材価格の変動を反映することとなった。農協の理事会が農産物代金の決定を行うにあたって関連する価格指標を参照し、総会(総代会)では、価格指標を基にどのように農産物価格を決めているかを、組合員へ説明するようになった。

同時にこの法令は、利用高配当等の決定にかかる詳細な情報の組合員に向けた開示を決めた。また、監査や組合設立にかかる権限をもつ農業協同組合高等評議会(HCCA)の権限が強化され、組合員は農協との取引にかかる監視をHCCAへ要求できるようになった。

【世界の食料は今 農中総研リポート】エガリム法によるフランス農協への影響② へ

<注>
1.例えば、「農業と経済(2023年冬号)」。
2.https://idele.fr/ipampa。なお、適正な価格形成に関する協議会第1回の資料には、「生産コスト指標は、専ら専門職業間組織が作成・公表」するとあるが、正確ではなく、多くの専門職業間組織は担当する品目のIPAMPA指数をそのまま公表している様子である。
3.フランスソディアール酪農協取締役フレデリック・ショソン氏へのヒアリングに依拠(https://www.nochuri.co.jp/publication/other/research/9393.html)
4.La Cooperation Agricole, L'essentiel 2023 Cooperatives agricoles &agroalimentaires
5.CoopFr「Survey of Cooperative Summary(2022 Edition)」
6.エガリムII法に関するQ&A(https://agriculture.gouv.fr/egalim-2-une-faq-pour-repondre-aux-questions-des-professionnels-et-des-citoyens-sur-la-nouvelle-loi)に依拠。
7.国会から期間限定で、委任された特定の事項にかかる立法権に基づき政府が制定するもので、法律と同じ効力を有する。(一財)自治体国際化協会「フランスの地方自治(平成29年改訂版)」
8.農中総研(2023)に依拠。

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