農政:世界の食料は今 農中総研リポート
【世界の食料は今 農中総研リポート】欧州のアフリカ豚熱との戦い(1)感染力強く厳戒続く 北原克彦理事研究員2024年1月31日
「世界の食料は今」をテーマに農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回は理事研究員の北原克彦氏が「欧州におけるアフリカ豚熱との戦い」をテーマに解説する。
2018年8月に中国へ侵入したアフリカ豚熱(以下「ASF」)ウイルスは、日本と台湾を除く東アジア・東南アジア諸国に感染が広がり、世界の養豚と豚肉貿易に大きな影響を与えてきた。この発端は2007年に黒海沿岸のジョージアに上陸したASF遺伝子型II型ウイルスだ。アルメニアとロシアを経て東欧諸国へ感染が広がり、18年にベルギー、20年にドイツ、22年にはイタリア本土へと感染拡大が続いている(図1)。
ASFは、アフリカのイボイノシシや野性イノシシ、ダニを宿主とする熱性伝染病で、強い伝染性と高い致死率を特徴とする。ASFウイルスは死んだ豚の血液や筋肉内に3~6カ月残存するために、ウイルスに汚染された豚肉加工品を含む食品残さを家畜豚に給餌することによって伝播(でんぱ)する。また、自然環境のなかでも長期間にわたり生存できるため、人や車両を介して感染が広がるリスクがあり、野性イノシシに感染が広がると制御が困難になる厄介なウイルスだ。有効な治療法はないため、侵入阻止と早期の摘発淘汰(とうた)が重要だ。ここでは、近年の欧州を中心としたASF感染状況とその対応をみたい。
デンマークの緊張
23年9月6日スウェーデン国立獣医学研究所は、イノシシの死体からASFウイルスが検出されたと発表した。ウイルスの侵入経路は不明としているが、人為的な要因で持ち込まれたものと推測している。欧州では感染した野性イノシシによって陸路で感染が広がってきたが、スウェーデンは最も近い感染エリアからバルト海を隔てて200km以上もあるからだ。感染区域を設定し、そこでは林業作業、きのこやベリーの採集などが禁止された。
スウェーデンと海を隔てたデンマークでは畜産関係者が緊張している。すでにデンマークは陸路で接しているドイツとの国境に、全長70kmのスチールメッシュフェンスを建設してASFへの備えをしている。一方、スウェーデンとの国境であるオーレスン海峡は、最も狭いところで5kmしかなく、海底トンネルと橋で結ばれており、人の往来が多いためだ。
デンマークは肉豚飼養頭数EU第4位の養豚大国であり、多産系種豚ダンブレッドと豚肉を世界に輸出しているので、ASFが侵入すれば影響は世界に広がる。
隣国のドイツでは、20年9月にASFが侵入し、野性イノシシと家畜豚から発生している。野性イノシシでの感染はドイツ東部に限られているが、EUではスペインに次ぐ養豚大国のドイツも、豚肉輸出の制限を受けるようになった。
ベルギーの清浄化策
18年9月にベルギー南部ワロン地域で野性イノシシからASFが初発生した。ASFパッシブサーベイランス(ASF疑い事例の通報に基づく検査)の一環として、野性イノシシの死体を検査したところ、陽性が確認された。動物衛生を含むフードチェーン全体の管理機関であるベルギー連邦フードチェーン安全庁では、原因が特定されていないものの、「東欧から来るトラックドライバーがウイルスに汚染された豚肉を使用したサンドイッチを高速道路パーキングで投棄し、それを野性イノシシが食べたことにより感染」を仮説の一つとして挙げている。
9月には死体の発見地周辺を制限区域(630平方km)として設定し(その後ASF発生状況に応じて4回見直し)、まず林業・狩猟の森林活動禁止と野性イノシシ肉等の移動禁止を行い、制限区域境界に高さ1.2mのフェンスを全長300kmにわたり設置して野性イノシシの移動を制限した(なお、国境を接しているフランスはベルギー国境に70kmのフェンスを建設した)。そして、狩猟によるイノシシの減数措置と野性イノシシ死体の積極的探索および当局による処理を行い、制限区域内のすべての飼養豚(20農場5222頭)は予防的殺処分をした。
ベルギーは北部フランダース地域が養豚主力産地であり、豚飼養頭数は600万頭を超えているが、ASFが発生した18年9月以降、EU以外への輸出は消滅して豚肉輸出量が半減する影響を受けている。
2018年9月以降、833例の野性イノシシでASF陽性事例が確認されたが、19年8月が野性イノシシ死体の最終陽性例、20年3月は野性イノシシの骨になったものが最終陽性事例となり、以後発見されなかった。家畜豚と野性イノシシへのASFアクティブサーベイランス(集団または地域を指定してサンプリング検査)が継続され、農場のバイオセキュリティー強化に向けて、農場の契約獣医師を通じてバイオセキュリティーレベルの評価を受けることなどが義務化された。
このような対策も奏効して家畜豚での発生は確認されなかった。20年10月にEUへ清浄化申請を行い、11月にEUによる制限区域が解除された。なお、OIE(国際獣疫事務局)も10月にベルギーの清浄化宣言を公表している。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日