農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】愛媛県・笑柑園ナカウラ 集落営農で園地維持 高齢化迫り担い手頼み2024年4月17日
集落営農はこれまで水田農業に限られてきた。平場・水利共同体・機械化がその土台にある。そのような条件を欠く作目にはなかなか広がらない。しかし愛媛県伊方町中浦集落の農事組合法人「笑柑園ナカウラ」の挑戦をみると、水田との共通性も見えてくる。
笑柑園ナカウラの設立総会
中浦は、佐多岬半島の付け根に位置する。宇和海に面して海抜280m(最高406m)、傾斜度20~30度の段々畑が広がる。日当たりはよく、四方から吹く風は、防風林で防いでいる。かつてはカンショと麦、出稼ぎの地域だったが、昭和30年代にかんきつ地帯化した。南予用水を利用したスプリンクラー防除によって、農業を続けられる高齢農家も多いが、離農は避けがたく、防除対象面積も当初の20haから13haに減少し、10a当たり経費も2万円から3倍にはねあがった。
園地面積を維持しなければ10a当たり費用がかさむばかりである。そこで、中山間地域集落協定の総会(2019、20年)で法人化に向けての話し合いが具体化した。入り作10戸を含む32戸の集落協定の参加農家にアンケートをとったところ、回答者の年齢は60代以上が5割、うち70代6戸、80代4戸だった。5年後の状況は廃業8戸、縮小6戸で4割強にのぼった。縮小・廃業後の園については、法人への貸し付け4戸、貸与・廃園2戸、廃園1戸だった。
それらを踏まえて2020年9月に法人が立ち上げられた。法人は行動基準に「中浦防除組合の維持」「楽農・笑農・金農」「環境保全」を掲げた。参加は8戸でほぼ見通し通りだった。法人の必要性は理解しているものの、事例がないので「目に見えない」「個人的にメリットを感じられない」という躊躇(ちゅうちょ)があったようだ。そのなかで参加した8戸の内訳は、年齢的には40代、50代が各2人、60代3人、70代1人。うち農業専業が5戸で、耕作面積は64~275aにまたがる。
集落協定での話し合いについては、「集まって話すのが難しくなっているなかで、世代を超えて話すことができた」という声がある。法人立ち上げと技術指導にはえひめ農業経営サポートセンターと八幡浜支局地域農業育成室等の支援が大きかった。
「マルドリ」栽培の高収益モデル園
現在の経営面積は95aで、早生温州46a、南柑20号1aの成園、ポンカンの苗木3a、そして紅プリンセス(愛媛県果試第48号)の幼木15aである。紅プリンセスの内5aは高収益モデル園で、写真のようにマルチをかけてドリップ潅水(かんすい)する「マルドリ」栽培する。これで半分に節水でき、収穫期が3~4月なので労力分散が図られる。新品種については、みんなが様子見している。
新たに借りた30aは25年ほど廃園になっていたもので、傾斜園地作業効率化モデル整備事業を用いて基盤整備し、南柑20号を2024年3月に新植した。
県の事業を活用して基盤整備した園地
借地は期間25年の利用権設定で、小作料代わりに収穫物をもっていくので農地中間管理機構経由はしていない。園内道を付ける場合は契約書に明記する。成園の貸し手は80代、90代で、小面積を作りつつ徐々に貸している。
作業は、構成員8人がそれぞれ自作しつつ、月1~2回、半日か1日フルで出ることにしている。また専業の5戸は日中も臨時に出ることがある。その前提として、法人は40代前半のYさんを雇用した。本人は他産業勤務で、出張が多く、地元でできる仕事を探していたという(農業共済新聞、2023年1月25日)。しかし以前の勤務先との関係で、ナカウラの方は当分は臨時勤務に変更することになった。そこで収穫園が増えた場合どうするかが目下の悩みだ。
収穫園が1haになると経営が回るようになり、1人は雇用できるので、当面はそれを目標にしている。先の臨時雇いの者がフルタイムになると2haは可能になるが、それが限度だという。それに対し今後の園地の出方は不明である。農家は90代になってもなお苗木を植える元気な者もいれば、体がだめになる者もいる。ともかく「法人に預けて園が荒れた」にはできない。
経営収支は、今のところ売上原価に自家労賃は含めずに年20万円余の赤字で、次期に繰り越されている。自家労賃分は「タイムカードに入っている」。
法人は、新規就農につなげる狙いで、補助事業を受けて「ミカン農園体験プログラム」をホームページに載せた。短期と中期の2コースで、作業体験をしてもらう。問い合わせはあるが、申し込みはまだない。他地区では、11~2月のアルバイトの制度で5年通い、農家と意気投合して定着したケースもある。農業のイメージだけではだめで、時間をかけて人と人のつながりを作る必要があるという。
かんきつの収穫
ナカウラは県下初のかんきつ集落営農法人だが、そのチャレンジは地域に広がりをみせるだろうか。ナカウラとしては「無理をせずに畑の維持と、ある程度の収入があることが目に見える形で見せられ、その雰囲気が伝われば成功」と話し合っている。
現状ではモノレール利用が多いが、地域は今、交換分合で道路沿いに集約を図る「地域計画」に取り組み、園内道も入れようとしている。
中山間地域直接支払いの集落協定、一定数の専業農家の存在、行政・農協一体の支援が法人化の背景にある点は水田と同じだ。
(写真は愛媛県八幡浜支局地域農業育成室の提供)
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