農政:欧米の農政転換と農民運動
【欧米の農政転換と農民運動】環境重視と自由化の矛盾 イギリス農民の怒りの正体と運動の行方(2)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年4月26日
随時紹介している「欧米の農業政策と農民運動」。今回は「さらに燃え上がる欧州農民の抗議――怒りの正体と運動の行方を探る(英国の動きを通じて)」として2回目の登場となる駒澤大学名誉教授の溝手芳計氏に解説してもらった。
通商交渉に関わる利害関係――財界、食品産業 vs 農民(+国民?)
FFA NIがロンドンの巨大トラクター抗議活動に参加(FFA<Farmers For Action>のFacebookより)
通商交渉に際しては、財界筋全体はもとより、食品産業界(欧州のEuropeanFoodDrinkや英国のFDF)も、食品輸出拡大に資するとして、FTA推進にまわっている。経済全体に占める食品産業と農業との位置をみると、GDP構成比(英国2021年度、食品産業6・2%に対して農業0・6%)で見ても、外貨稼ぎにつながる輸出額(英国2022年度食品・飼料・飲料輸出額中、高度加工品[≒加工食品]38%に対して非加工品[≒農産物]19%)でみても、食品産業の比重が圧倒的に高い。通常の経済的観点から見れば、産業政策当局や通商政策当局が、農家の利益よりも食品産業を含む財界筋の利益を優先するのも不思議ではない。
しかし、国民の利益は、金銭的利益だけではない。確かに食料品の低価格化はひとつの魅力であろう。だが、食の安全・安心、温暖化対策、自然景観や生物多様性、動物福祉といったかけがいのない生活条件がクローズアップされているのが、今の世界である。それを、さまざまな市民運動の展開が示している。国民の多面的な声を反映する公正な進路を選ぶのか、経済成長に捕らわれた将来を選択するのかが問われている。同様にそれは、農民の抗議においても問われることになる。
以上を念頭に置いて、改めて、EUと英国の抗議活動とそれに対する政権の対応を見てみよう。
農民の運動と政治の対応――英国とEUの対比
駒澤大学名誉教授
溝手芳計氏
近年の英国農民運動は、無原則な自由貿易政策に対して、環境保全型農業を推進しても採算がとれるように、英国農業を守る貿易政策を要求してきた。3月25日の国会包囲トラクター・デモは、そのクライマックスであった。キャンペーンは、①環境等に配慮しない低品質農産物輸入の禁止②輸入原料の加工品に対する国産品表示の禁止③問題のある貿易協定の廃棄――を求めるもので、環境団体や動物保護団体などを初めとして国民から強く支持されている。
また、1月には、食品サプライチェーンにおいて農業に不当な犠牲を押しつける大規模小売店に対する規制を求る請願署名が10万人を超え、改善に向けた対策が始まろうとしている。
これに対して、EU本部のあるブリュッセルでは、抗議活動が過激化する一方で、環境保護に反対する極右勢力が力を増し、EU当局の対応も、環境保全型農業推進に向けた農政転換のトーンダウンが目立っている。マクロン仏国大統領がメルコスールとのFTA推進にブレーキをかけるなど、首脳陣に変化の兆しも見られるものの、これまでのところ、通商政策の転換やフードチェーン内における農業の立場強化などで明確な成果につながっていない。そうしたなかで、農政転換を支持してきた環境保護論者からも農民に対する失望の声が漏れ聞かれるようになった。
ターゲットを鮮明にし国民との連帯を重視してきた英国の運動と、強い「怒り」に駆られて始まった大陸の運動とで、かなりの違いが生じているように思われてならない。今後の推移から目が離せない。
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