農政:欧米の農政転換と農民運動
【欧米の農政転換と農民運動】抗議活動と農民団体・EU農政 農政改革議論なお途上(1)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年6月7日
欧米の農業事情に詳しい駒澤大学名誉教授の溝手芳計氏に欧州農民の抗議活動と農民団体、EU農政事情を寄稿してもらった。今回は「欧州ビア・カンペシーナの運動に注目する」としている。
団体間で主張の違いも
ベルギー・ブリュッセルの欧州連合本部前に集結したトラクター(2024年2月26日)(European Coordination Via Campesina (ECVC)のウェブサイトより)
農民の抗議活動は終わっていない
今年1~3月に大きく燃え上がった欧州農民の抗議活動は、その後下火になっているかのように見える。だが、実際には、三つの意味で終わっていない。
まず第1に、ウクライナに国境を接する国々において、ウクライナ支援=同国産穀物輸入への関税減免措置の継続反対の抗議が激しく展開しているからであり、第2に、極右グループが、6月の欧州議会選挙に狙いを定めて、もう一度大規模な抗議活動を組織すると宣言しているからだ。第3に、農民たちの抗議活動が各国政府や欧州連合(EU)を大きく揺さぶり、農政改革議論に火が付いたからである。
今、街頭活動が消えたベルギーのブリュッセルで、農業団体、各国政府、欧州委員会・欧州理事会・欧州議会の間で農政転換をめぐる闘いが繰り広げられている。
ここでは、EUにおける農民の抗議活動とEU農政改革の動向について検討する。欧州農民運動の諸潮流の動きに着目し、とくに中小農業者・農業従事者の国際組織であるビア・カンペシーナ欧州調整局(ECVC)に注目し、その主張や政策提案を紹介したい。
抗議活動を組織したのは誰か―極右勢力の策動からECVCの結集呼びかけへ―
農民運動の各潮流の紹介をかねて、この間の抗議活動の経過を簡単に振り返っておきたい。
欧州の農民運動には、大きく三つの潮流がある。第1は、主流をなすCopa―Cogeca系統の農業団体であり、強力なロビー活動を通じてEU農政総局はもとより加盟各国の農政当局にも大きな影響力を持っている。第2は、世界的な農民運動であるビア・カンペシーナに結集する農民団体で、欧州レベルではECVCを結成して運動を進めているが、Copa―Cogecaグループにははるかに及ばない。第3は、各国の極右勢力と連携するもので、EUレベルの組織はないが、極右が伸張するのと歩調を合わせて急速に影響力を増している。
当初この冬の農民の抗議活動に火を付けたのは、第3にふれた極右勢力であった。昨年11月に起こったオランダでの窒素肥料使用削減政策に対する抗議活動は、「農民防衛隊」(FDF)の煽動で始まった。フランスでも、1月、2月の抗議活動で目立ったのは、黄色い帽子をかぶった「農村連携」(RC)という右派農民団体であった。
第1に掲げたCopa―Cogecaは、グループ全体としては、直接行動への関与には消極的である。個別加盟国レベルでは、「ドイツ農業者同盟」(DBV)が農業用ディーゼル課税減免の段階的撤廃に反対する抗議活動を組織し(1月)、フランスの抗議活動で「農業組合全国連盟」(FNSEA)が存在感を示したし、さらに、ポーランドなどでCopa加盟組織が国境封鎖の先頭に立っている(5月上旬の現在も)。しかし、EU当局に向けてブリュッセルやEU全域で抗議活動を組織した形跡は見られない。
これに対して、2~3月に行われたブリュッセルでの3度にEU当局向けに政策要求の実現を迫る大規模な街頭活動を呼びかけたのは、2番目に説明したECVCであった。ECVCは、EU農相理事会会合の開催日程に合わせ、2月1日、同月26日、3月26日に、関係組織にブリュッセルに集結せよと動員をかけ、EU当局に交渉を求めた。
環境対策の後退が目立つEU当局の対応
こうした抗議活動に対して、フォン・デア・ライエン率いる欧州委員会が対応に追われている。ここでは、環境保護型農業推進、農産物貿易政策、フードチェーンにおける農民の立場強化の3点に大別して、その対応を整理する。
環境農業政策への不満に対しては、①2023年CAP改革で強化されたコンディショナリティ(直接支払い受給要件として一定の環境対策実施を求めるもの)につき、実施方法や時期等を柔軟化する、手続きを簡略化し、10ha未満の小規模農民の要件から外す②農薬の50%削減施策提案を取り下げる③新型ゲノム技術の解禁、普及に理解を示すというものである。
貿易政策としては、①メルコスール(南米南部共同市場)とのFTA協定批准を強行しない②ウクライナ支援の穀物輸入優遇を見直すことで対処した。また、農産物流通の取引関係の是正については、制定済みの不公正取引慣行に関する指令(具体的な制度の構築は加盟国に委ねられる)の実施を強化することとしている。
重要な記事
最新の記事
-
米農家(個人経営体)の「時給」63円 23年、農業経営統計調査(確報)から試算 所得補償の必要性示唆2025年4月2日
-
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(1)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
-
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(2)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
-
変革恐れずチャレンジを JA共済連入会式2025年4月2日
-
「令和の百姓一揆」と「正念場」【小松泰信・地方の眼力】2025年4月2日
-
JAみやざき 中央会、信連、経済連を統合 4月1日2025年4月2日
-
サステナブルな取組を発信「第2回みどり戦略学生チャレンジ」参加登録開始 農水省2025年4月2日
-
JA全農×不二家「ニッポンエール パレッティエ(レモンタルト)」新発売2025年4月2日
-
姿かたちは美しく味はピカイチ 砂地のやわらかさがおいしさの秘密 JAあいち中央2025年4月2日
-
県産コシヒカリとわかめ使った「非常時持出米」 防災備蓄はもちろん、キャンプやピクニックにも JAみえきた2025年4月2日
-
霊峰・早池峰の恵みが熟成 ワイン「五月長根」は神秘の味わい JA全農いわて2025年4月2日
-
JA農業機械大展示会 6月27、28日にツインメッセ静岡で開催 静岡県下農業協同組合と静岡県経済農業協同組合連合会2025年4月2日
-
【役員人事】農林中金全共連アセットマネジメント(4月1日付)2025年4月2日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年4月2日
-
【スマート農業の風】(13)ロボット農機の運用は農業を救えるのか2025年4月2日
-
外食市場調査2月度 市場規模は2939億円 2か月連続で9割台に回復2025年4月2日
-
JAグループによる起業家育成プログラム「GROW&BLOOM」第2期募集開始 あぐラボ2025年4月2日
-
「八百結びの作物」が「マタニティフード認定」取得 壌結合同会社2025年4月2日
-
全国産直食材アワードを発表 消費者の高評価を受けた生産者を選出 「産直アウル」2025年4月2日
-
九州農業ウィーク(ジェイアグリ九州)5月28~30日に開催 RXジャパン2025年4月2日