農政:世界の食料・協同組合は今 農中総研リポート
【世界の食料・協同組合は今】次期米国農業法の主な争点(1)4分の3が食料援助に 農中総研・平澤明彦氏2024年6月26日
農林中金総合研究所の研究員が世界の食料や農業、協同組合の課題などを解説するシリーズ。今回は「次期米国農業法の主な争点」をテーマに理事研究員の平澤明彦氏が解説する。
米国では概ね5年ごとに、農業法と呼ばれる法律によって農業政策の大部分を定めている。次期農業法の内容について民主党と共和党の両党から提案が出そろったものの、両者の妥協と法案成立の見込みは立っていない。そのおもな争点について紹介したい。
農業法の更新はしばしば党派対立により遅れる。今回もその例に漏れず、現在は昨2023年9月までで失効した2018年農業を1年間延長してしのいでいる。
4分の3が食料援助に
個々の論点に入る前に農業予算の主な構成を確認しておく。まず栄養プログラム(食料援助)が農業法の予算の4分の3を占めている。これによって都市部および民主党の議員の票を確保し、議会での承認を可能にしている。農業補助金も食料援助も単独では議会で多数を得られないため、1970年代以来こうした協力関係が続いている。残る4分の1が農業関連であるが、そのほとんどは農産物プログラム(価格・所得支持)、作物保険プログラム、保全プログラム(環境対策)が占めている。
食料援助
栄養プログラム(食料援助)の多くを占めるのは補足的栄養支援プログラム(SNAP)と呼ばれる低所得者向けの食費助成である。SNAPは景気が退期すると受給者が増え、景気対策による増額も相まって支出が拡大する傾向にある。近年ではトランプ政権以来のコロナ禍救済策による緊急給付と、2021年の算出基礎見直しによって財政支出額が2倍近くに拡大した。緊急給付の終了により財政支出は縮小しつつあるとみられるものの、共和党(特に財政保守派)は強く反発している。
共和党は農業法で今後の大幅なSNAP支出拡大を防ごうとしている。焦点は助成額の算出基礎となる「倹約的食料プラン(thrifty food plan)」である。これは必要な栄養を家庭で安価に効率よく取るための各種食品とその金額からなる。同プランは1975年の開始以来、それまでに食事指針・食事構成・消費パターンの変化を反映して3回にわたり改定された(1983年、1999年、2006年)が、いずれも物価調整を除き費用中立であった。
しかし2018年農業法が現状の食料価格を反映するよう定めたことを受けて、2021年には民主党政権下で大幅な改定がなされ、栄養バランスに配慮した結果、一人当たりの助成額が1日当たり約5ドルから約6ドルへと2割増加した。現行の規定が続けば、以後5年ごとの改定で助成額がさらに膨らむ可能性がある。そこで共和党は次期農業法で同プランの改定に再び費用中立を課そうとしている。
気候変動・環境対策
農業法で環境対策を担う保全プログラムは現在、気候変動対策のため予算が大幅に増額されている。増額は過去最大規模の気候変動対策を含む2022年インフレ抑制法(IRA)によって措置された。この法律は、民主党バイデン政権が公約として掲げた気候変動対策や社会保障政策の具体化であり、当初の「ビルド・バック・ベター法案」を大幅に縮小して実現したものである。
本来この予算措置は一時的なものであるが、議会の農業委員会では民主・共和両党ともにこれを農業法の基礎予算額(ベースライン)に組込み、将来にわたり農業予算として確保しようとしている。
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