農政:世界の食料・協同組合は今 農中総研リポート
【世界の食料・協同組合は今】次期米国農業法の主な争点(2)気候対策で予算綱引き 農中総研・平澤明彦氏2024年6月26日
農林中金総合研究所の研究員が世界の食料や農業、協同組合の課題などを解説するシリーズ。今回は「次期米国農業法の主な争点」をテーマに理事研究員の平澤明彦氏が解説する。
【世界の食料・協同組合は今】次期米国農業法の主な争点(1) から
気候対策で予算綱引き
農中総研理事研究員 平澤明彦氏
問題は追加された予算の使途である。IRAは資金を気候変動対策に用いるよう規定しているが、共和党はこれを変更して畜産の環境規制対応など、各種環境対策に広く活用、つまりは流用することを提案している。民主党はそれに反発し、規定のとおり使途を気候変動対策に限るよう主張している。
さらに、上院農業委員長(民主党)はこれを機会に保全プログラムの主要施策を恒久化し、5年ごとの農業法による承認を不要にするよう提案している。また、作物保険プログラムにおいても環境・気候対策に資する活動を優遇する。
農務省の財源調達裁量
農務省の農産物信用公社(CCC)は、財務省から年間3000億ドルを借入れる権限があり、その資金は災害支援や余剰農産物の買い取り、補助金や農家への貸し付けに用いられてきた。しかしトランプ政権以来、この資金を想定外の大規模な支出に充てることが常態化している。具体例としては中国との貿易戦争による農産物売り上げ低下の補てん、コロナ下の農業者救済、最近では気候スマート農産物パートナーシップ(2022年)が挙げられる。
共和党は農務省が事前に議会の承認を得ることを義務付けようとしているが、民主党は気象災害など緊急時の対応に支障が出るとして反対している。
価格・所得支持
近年の生産費上昇を受けて、農産物プログラム(価格・所得支持)のてこ入れが検討されている。表に示したとおり、両党の案を比較すると共和党のそれは手厚い(主要作物の政策価格引き上げなど)。上記の財政支出抑制(SNAPとCCC)により財源を調達したとみられ、さらに議会予算局からは大幅な財源不足を指摘されている。トンプソン下院農業委員長は、当面この法案の成立の見込みが低いとしても11月の国政選挙には役立つであろうと発言しており、選挙対策という色合いも否めない。
以下、両党に共通した改正の方向を確認しておく。まず、主要作物の価格・所得支持は、作目ごとに不足払い(PLC)と収入ナラシ(ARC)の選択制である。全体の支援水準は参照価格によって定められる。不足払いは農産物価格が参照価格を下回ると発動される。参照価格は収入ナラシでも、保証収入を算出する際の下限価格として用いられる。参照価格は、直近数年間の農産物価格が高い場合は一時的に引き上げられる(実効参照価格)。次期改正ではこの参照価格と実効参照価格をいずれも引き上げようとしている。また、収入ナラシについても保証収入と補償上限(補償対象となる収入減少の最大幅)を引き上げる。それに加えて、この制度の対象となる過去の作付け実績(基礎面積)についてある程度更新を認める方向である。
主要作物の価格が極端に低くなった時には、販売支援融資(MAL)による価格の補てんが行われる。不足払いや収入ナラシと異なり、翌年度まで待たずに受給可能であり、受給額の上限がない。その基準となる融資単価も引き上げの方向である。
それ以外の主な相違点としては、共和党案は、米国の農産物貿易赤字拡大に対応するため貿易促進助成の倍増を盛り込んだ。また、カリフォルニア州法による動物福祉規制の影響が他州に及ぶことを防ぐため、州をまたぐ取引で他州の干渉を受けずに家畜を飼養・販売できるようにする規定を設けた。
おわりに
このように両党の対立は広範にわたっている。しかも選挙を前にして妥協を探る動きはいずれからもない。共和党案は財源不足問題に加えて、食料援助や気候変動対策を抑制するため、法案成立に必要な広範な議員からの支持を得られない懸念がある。選挙前の審議期間は残りわずかであり、このままでは選挙後の年内に法案を成立させる展望も描き難い。
もし年内不成立となった場合、年が明ければ議会の情勢も変わる。ベテランの上院農業委員長は選挙不出馬のため交代する。選挙によって政権や農業委員会(上院・下院)委員長の所属党に変化があれば交渉の進め方や場合によっては法案の内容も変化するであろう。
とはいえ農業団体は、本来の成立期限から半年以上遅れたとはいえ両党から提案が出てきたこと自体が次期農業法の成立へ向けた前進であると評価している。見解の相違が詳細に明示されたことは妥協への第一歩ということであろう。
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