農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】長野県・伊那市の集落営農法人 区域またぐ集約も課題2024年9月20日
長野県の伊那市の東春近は、明治7(1874)年に「村」になったと村史にあるので、明治22(1889)年の町村制に基づく〝明治村〟合併の前からの「村」であり、西春近村も同様だろう。各村の下には8~9の集落があり、そのいくつかは藩政村と思われるが、現在は「集落」「区」と呼ばれている。
横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
集落か明治村か
両村ともかつては青年団活動等が盛んな地域であり、ともに農協があった。天竜川の河岸段丘の村々で、ほ場整備もなされたが10~20a区画が多い。
伊那谷の各自治体等は、2007年からの品目横断的政策をにらみつつ、農業振興センターを立ち上げて、地域に組織化対応を呼びかけた。小規模兼業農家が多い地域ならではの自治体農政の展開である。
地域では「集落」と「村」のどちらで対応すべきか活発に議論された。西春近村は小さな「区」では対応困難ということで、村一本で任意組織の営農組合を立ち上げることにした。それに対し東春近村は、既に2004年に田原(藩政村)が法人化していたこともあり、残る7集落ごとの「営農組合」を立ち上げることにした。
その後、任意組織の法人化が要請されるようになり、西春近はそのまま法人化し、東春近も、小さな集落ごとの法人化は困難なことから、田原を除く全域で法人化することにした。地域では侃々諤々(かんかんがくがく)のやり取りがあり、振興センターは粘り強く地域の結論を待った。そして今日から見れば〝明治村〟エリアでの対応は正解だった。
両法人について簡単に表にまとめておいた。ほぼ似たような状況だが、「はるちか」はほ場整備で畑も水田化したが、「にしはる」は畑が残った。水田の作付けはほぼ同様で、「はるちか」は、主食用米61ha、もち米11ha、飼料米9ha、小麦19ha、そば22ha、そのほか白ネギ、キャベツ、ナガイモ、トルコギキョウ等である。「にしはる」の水田は主食用米46ha、小麦10ha、大豆3ha、育苗0・6ha、ソバ29ha等で、畑ではソバ16haのほか、白ネギ、タラの芽、柿、ジュース用トマト、キャベツを作付けしている。
両村とも認定農業者等は品目横断的政策に個人対応するとし、基本的にそれ以外の農家で組織している。現状の組織化率は「はるちか」では農家5割、面積23%、「にしはる」では農家6割弱、面積16%(水田23%、畑10%)である。また東春近村では各藩政村に「田原」(84戸、45ha)、「ミナミアグリ」(藩政村の半分60haを引き受ける1戸1法人)、「車屋」等の法人も展開している。
現代版「結い」
農作業は、「はるちか」では理事15人(2人欠員)等の組合員10~15人、臨時雇用17人等でこなしているが、2019年、2021年に各1人を雇用(現在60代前半、1人は組合員から、1人は非農家)、直営で30ha程度をこなすようになった。職員(直営)は増やす方向だ。
水管理とけいはん草刈りは請負制(10a当たり5000円と6000円)で、地権者の3分の1程度は自分で行っている。総会資料では「年とともに請負作業のできる組合員が減ってきております。できるだけ多くの方に請負作業をお願いします。軽作業だけでも受けてもらえるとありがたいです」と訴えている。
「にしはる」では、作業受委託方式をとっている。作業を地権者が行うのが5~6割、地権者が自分で耕作者(近所の人)を見つけるのが3割、「にしはる」が耕作者を斡旋するのが1割(田植は2~3割、トラクター作業は2割)である。けいはん草刈りは1時間1000円、水管理は1ほ場6000円の料金で、地権者、近所の農家、「にしはる」の草刈り専門班が作業受託する。「にしはる」も2022年1人(43歳、東京出身)、24年に1人(20歳、地元農家出身)を雇用し、いろいろ試行しているが、「はるちか」のような直営には踏み切っていない。
両法人とも実質的に村内「作業受委託」(現代版「結い」)で行っており、その報酬を「従事分量配当」で行うか、作業料金支払いの形をとるかの違いである。経営的には、水田活用交付金、ソバ等のゲタ直接支払いへの依存度が高い。「にしはる」は収入保険に加入し、過去2年は支払いを受けている。
小作料引き下げ
「はるちか」では2018年から、水田20a超8000円(以前は1万円)、10~20a5000円、8~10a5000円、5a未満は0で、「次に小作料を決める時は覚悟してやろう」としている。
「にしはる」は、それまで平均して水田3500円、畑2700円程度だった小作料を、2024年度以降の更新期に田畑ともにゼロにした。インボイス制度に伴う法人負担が2026~28年度111万円、以降は300万円強になるという計算に基づいてのことである。土地改良区に対する地権者の支払いは相当額になるが、組合員の反応は「仕方ないネ」だった。将来的にはけいはん草刈り等の費用増から管理費をもらうことにもなりかねないとしている。
「結い」の意義
両法人は兼業農家の集落営農(結い)といえる。リーダーたちはみな職場で培った高い実務能力と識見をもっている。そういう理事を各地域から確保できるのは、「明治村」エリアだからこそだ。
他方で、両法人とも活動エリアは〝明治村〟内に限られ、そこには他の法人や認定農業者も存在するので、今後は面積規模の拡大よりも、地権者や地域住民も巻き込んで、「結い」の形で農地とけいはん草刈り等をいかに持続させていくかが課題である。
気になるのは、法人間での情報交換等が意外にみられない点である。そのなかで東春近村では、加工米・飼料用米の乾燥調製、水稲育苗の芽だし苗、ネギ苗、飯米乾燥調製等を法人間で分担し、「はるちか」も依頼している。せっかく「農業振興センター」が存在するのだから、現代「結い」の考え方を、〝明治村〟の一部のそれから村・市レベルへ発展させていくことが地域農政の課題ではないか。
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