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農政:田代洋一・協同の現場を歩く

【田代洋一・協同の現場を歩く】JAしまね 地区本部の"補完"必須 「地域に農協」初心貫徹2024年9月30日

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JAしまね(2015年合併)は、人口減の著しい中山間地域等から農協がなくならないよう、県信連や全農県本部も含めて「足元の明るいうちに」、要するに「黒字のうちに」合併を追求してきた。

強い地区本部制

黒字の農協が合併に踏み切るのは難しい。そこで、「一つの農協でも降りたら取りやめる」申し合わせで徹底的に話し合って合併にこぎつけた。そのような経緯を踏まえて、島根では旧11農協単位の地区本部制をとり、地域性に十分に配慮することにした。すなわち地元の組織代表が常務として地区本部長になり、切磋琢磨(せっさたくま)するため地区本部別損益が追求され、前年度の剰余金からキープされた原資1億円を、地区本部の実績等に応じて「業績還元」する。還元金は個人配分はせず地区の行事等に利用する(個人には総合ポイント制が用意)。このような地区本部制は不変の「憲法」とされた。

しかし一般論としてだが、地区本部方式が強すぎれば合併効果の発揮は薄れ、また特に中山間地域等では地区本部間格差が強まりかねない。統合と分権のバランス取りは難しい。

信用事業を直撃

しかし2019年から減益が著しくなった(図1)。この間、貯金額も農産物販売額も2~3%増で、農協事業が減ったわけではない。原因は図2にみるように信用の事業利益減である。

協同の現場を歩く【図1】.jpg

協同の現場を歩く【図2】.jpg

信用の事業利益は、劣後ローンの出資金化(出資配当は事業外収益へ)、奨励金金利の引き下げ、特特配の減で計18億円減にのぼる。島根県の場合、県信連を取り込んだ合併をしたため、農林中金の諸措置が単協であるJAしまねに直に及ぶわけだ。

果敢な挑戦

それに対してJAしまねは、信用共済事業、営農経済事業で各10億円以上のコスト削減を図ろうとした。①信用共済事業については事業本部制に転換し(地区本部の金融共済部の廃止)、また常勤理事の減員と報酬カット②金融支店をほぼ中学校区単位に統廃合③肥育事業から撤退し、繁殖牛の増頭に④農機事業は全農とともに別会社を設立して移管⑤高齢者福祉事業は相手先を見つけて移譲⑥観光事業は廃止等々。以上の結果、図2でも生活関連の赤字は大幅減、農業関連事業の赤字は微減だ。

なお、職員数は2016年度末3644(正職員2139)人が2022年度末は2888(正職1644)人に2割減。正職減少の主因は応募者減で、また20、30代の退職が多い。

以上について若干付言する。①については同一商品を扱いとりわけ指揮命令系統の単純明確さが求められる信用共済事業について、そもそも<本店―地区本部―支店>体制はなじまない。「憲法改正あり」ということだ。また企画・管理部門も三つ程度へのブロック化も検討している。②については中山間等では遅れる地区本部もあるが、中学校区という歯止めは重要だ。③の肥育は職員労働ではなく農家が手間暇かけてやるべきだという理由。④農機は専門性が高い。別会社化は自動車燃料についても検討中。⑤については、昔は農村では施設に預けるにはちゅうちょがあり、「農協がやるから」という意義があったが、今はそれも薄れた。

徐々に統合効果

それぞれに深慮あっての改革だが、同時に、農協としては「こういう時代に農協がもうかってもだめだ」という思いで、統合効果を追求している。

・資材価格高騰に対しては2022年度1・5億円、23年度2・7億円の支援をした。資材についてはリージョナル・ホームセンターと業務提携し、JAマークの資材の店舗内展開を図るようにした。苗ものや鶏ふんの販売先も拡大できた。「地方の組織が一緒になって頑張る」構えだ(日本農業新聞2024年3月29日)。

・分荷権については、ブドウ、メロン、白ネギ、タマネギ、ミニトマト(アンジェレ)、キャベツ等を本店統一。営農指導も県域推進品目は地区本部またぎの推進、営農指導員はせめて3品目はわかるようにしてブロック制も検討。県OBの技監3人を果樹・野菜・水稲に置く。

・県一本のタマネギ調整保管施設を10億円かけて建設(運賃プール計算)。合併後初めての試みになる。白ネギ苗、園芸育苗、タマネギについては、地区本部間で集出荷施設の共同利用化を進めている。

・県から就農支援センター業務の移管を受けて新規就農者対策を進め、新規就農は年間160~170人になり、中四国では高知に続いて第二位。第三者移譲を含む経営継承にも注力している。

1県1JAの評価

県1JA化して10年。なかばに信用事業で大波をかぶったが、事業の一つ一つを慎重吟味しつつ、果敢に挑戦してきた。そのなかで「不変の憲法」だった地区本部制も、変えるべきと判断したところは変えてきた。そして徐々に地区本部間の業務連携、県統合施設化が進んできている(管理職の地区本部間異動は延べ10人に)。

総代会への事業報告は「県域共通」と「地区本部別」の2本立てだが、後者によると島嶼(とうしょ)部の一地区本部は事業利益が2年連続ゼロだ。事業外収益で経常利益、当期剰余金は確保されているが、事業経営体としては厳しい。そういうところも含めて「地域から農協を無くさないように」と言う初心が貫かれている。1県1JA化の評価として大切な点である。

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