農政:シリーズ
【世界の食料・協同組合は今】ドイツの新技術開発と社会経済制度の調和 酪農現場の無人化を先行(1) 農中総研・小田志保氏2024年12月2日
農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回は「ドイツにみる新技術開発と社会経済制度の調和」について、酪畜現場の自走式バーチカルミキサー車を中心に小田志保主任研究員が解説する。
環境先進国ドイツは、2045年のカーボンニュートラル達成に向けて、温室効果ガス排出の削減に取り組む。農業部門については、「気候保全プログラム2030 Klimaschutzprogramm2030」のもと、面積あたり乳用牛等の飼養頭数制限等を進めている。取り組みのひとつが、牧場内での飼料の調整をスマート農業技術で精緻に行い、無駄を省き、環境負荷軽減を進めるもので、具体的な手段が無人で走行する自走式バーチカルミキサー車である。同様の技術は日本でも開発されているのに、社会経済制度との兼ね合いでその可能性を制限されている。ドイツは実用段階での関連規制との調和を見越し、新技術開発を進めてきたと思われる。
1.無人で走行する自走式バーチカルミキサー車とは
【画像】無人走行する自走式バーチカルミキサー車のStrautmann Verti-Q 1701 SF(出典 Strautmann社Web)
自走式バーチカルミキサー車とは、写真のような農業機械である。日本でよく目にするのは、飼料を攪拌(かくはん)する大きなバケツのような作業機(バーチカルミキサー)を、トラクターがけん引するタイプであろう。トラクターによるけん引ではなく、人が乗用するタイプを自走式と呼び、いずれも粗飼料を細断したり、それを濃厚飼料と攪拌したりすることで、牛による餌のえり好みや食べ残しを防止する役目を担う。
では、無人で走行する自走式バーチカルミキサー車Selbstfahrende Futtermischwagenとは何か。これは自走式バーチカルミキサー車が、ICT技術やGPS等による自動走行や自動作業制御を備えたものである。人は乗用せず、バンカーサイロから飼料を削り出し、背中に背負ったバーチカルミキサー部分で飼料を調整し、できあがりを牛舎の飼槽に配送する。こうした一連の作業は、車外から作業者がタブレット端末等で管理する。事前に作業経路や配合レシピを設定しておくと、作業者は都度の細かな操作から解放され、労働は軽減される。
ニーダーザクセン州の農業委員会(Landwirtschaftskammer)は、この無人の自走式バーチカルミキサー車について、九つのメーカー別に比較している。そこでは農機の重量や攪拌方式等の評価もあるが、本稿では作業の精緻さの向上に寄与する、スマート農業関連の項目を抜粋し表出した(表)。
【表】無人の自走式バーチカルミキサー車の機能等の比較
まず、九つのメーカーの製品はいずれも電子計量機が標準装備されており、混ぜ合わせる飼料を種類別に計量できる。そして、プログラム機能から、記憶している8~150の配合レシピ(注=一つの配合レシピは、8種の飼料の配合割合)を、簡単に呼び出せる。こうしたプログラム機能付きのバーチカルミキサーは日本にもあるが、機体に付属される計量機での操作となる。無人の自走式では、作業者は手元端末で配合レシピを選ぶ。太陽光のもとで画面が見にくくなるといった視認性を考えれば、後者の方が人的なミスは少なく、経営や資源のロス削減が可能と思われる。
さらにこうした作業実績等を、営農・経営の計画や実績管理に反映すれば、さらなる資源の効率的な利用につながる。そのためには、この自走式バーチカルミキサー車からオフィスのPCへ、データを吐き出す必要がある。9メーカーのうち、3社(Marmix社製、Sgariboldi社製、Trioliet社製)はUSBスティックで、1社(BvL社製)はインターネット経由でのデータ転送が可能となっている。
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