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農政:シリーズ

【世界の食料・協同組合は今】ドイツの新技術開発と社会経済制度の調和 酪農現場の無人化を先行(2) 農中総研・小田志保氏2024年12月2日

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農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回は「ドイツにみる新技術開発と社会経済制度の調和」について、酪畜現場の自走式バーチカルミキサー車を中心に小田志保主任研究員が解説する。

【世界の食料・協同組合は今】ドイツの新技術開発と社会経済制度の調和 酪農現場の無人化を先行(1)から続く

【画像】農林中金総合研究所 主任研究員 小田志保氏【画像】農林中金総合研究所 
主任研究員 小田志保氏

なお、公道走行について、2社(Kuhn社製とStrautmann社製)では標準装備で時速25㌔の公道走行が可能だ。その他でも、390ユーロ~8850ユーロ(6・4万円~144・3万円〈注1〉)のオプションを付ければ同じ時速で公道走行できる。さらに時速40㌔での公道走行も、オプション付きで可能となる。

ここから、こうした大型農機が距離の離れた地域に複数の牧場を有する経営体での利用や、地域内の複数の経営体でのシェアリング、または関連作業を受注するコントラクター組織の発展がうかがえる。通常、農機は牧場内に保管されていることが多く、牧場間移動の際に人が乗用し、ある程度の走行スピードを必要としているのは、牧場間移動が必要となる組織・所有形態であるからだ。9社の標準装備での価格帯は8万3000ユーロ~19万7500ユーロ(1353万円~3219万円)で、高価格帯ほど設備投資の負担軽減が求められるのであろう。

2. ドイツにみる社会経済制度に調和した技術開発の進め方

農機の自動走行技術の開発は日本でも進んでおり、ここで紹介したような飼料調整にかかる作業の自動化に必要な要素技術は、国内の農機メーカーも保有していると思われる。国はスマート農業の現場実装を強く進め、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のもと、無人でほ場内を自動走行するロボットトラクターが開発され、既に市販されている。ロボットトラクターに関しては、ドラマ「下町ロケット ヤタガラス」でご存知の方も多いのではないか。

残念ながら、日本では無人の農機の公道走行は、道路交通法で許可されていない。従って、ほ場内は無人で運用できても、ほ場間移動では人の乗用がマストである。何枚かのほ場が一カ所に集積していたとしても、ほ場間の公道ではその都度、人が乗り降りせざるを得ず、労働安全性や作業効率性の面で課題と思われる。

一方、ドイツにも公道走行には日本と同レベルの規制はあろうが、牧場内は私有地であり、無人での自動走行技術や自動作業制御に係る規制はなさそうだ。もちろん牧場間移動の際は有人だが、ほ場であれば農機の運転手はほ場内を無人で自動走行している時間にそのそばで農機を監視するしかない。ほ場内で有人無人の2台の農機が協調作業する場合でも、その2台をほ場まで移動させるには2人が必要だ。しかし、牧場内であれば無人の農機の作業を監視しながらも、例えばその後をついてほうきで餌を寄せる等、有人無人での協調作業のメニューは数多くありそうだ。

日本でも酪農畜産の労働力不足が叫ばれて久しく、搾乳や飼槽での餌寄せではロボットの導入が進んでいる。しかし、こうした大型農機の無人化は、筆者は浅学にして目にしたことが無い。一方、主に耕種を対象に技術開発が進んできたロボットトラクターは、公道走行が規制され、その能力発揮にまだ時間を要している。

「ドイツの科学力は世界一」というのは、とある有名なアニメのセリフだが、科学力だけではなく、ドイツは現場実装された際の社会経済制度との調和まで見据え、新技術の開発を進めているように思われてならない。日本は大いに参考にすべきと考える。

<注1>日本経済新聞webの為替情報(2024年11月18日)を活用。

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