農政:花開く暮らしと地域 女性が輝く社会
昭和女子大学総長・坂東眞理子氏に聞く 女性活躍 偏見・意識の壁崩せ(1)2025年1月29日
日本は人口減少による労働力不足が深刻化し、政府は女性の活躍推進に力を入れる。だが、2024年のジェンダーギャップ指数は世界118位と低迷し、特に政治・経済の分野が遅れている。この状況をどう突破すべきか、政府機関で男女共同参画に取り組み、農林中金の経営管理委員を2017年から務める昭和女子大の坂東眞理子総長に聞いた。聞き手は千葉大客員教授で元JA全農専務の加藤一郎氏。
「らしさ」より「人」として
ばんどう・まりこ 富山県生まれ。1969年東京大学卒業、総理府入省。 内閣広報室参事官、統計局消費統計課長。埼玉県副知事、ブリスベン総領事、2001年内閣府男女共同参画局長などを歴任。
04年昭和女子大学大学院教授・女性文化研究所長、07年学長、14年理事長、16年に総長、現在に至る。
著書に『女性の品格』『70歳のたしなみ』『女性の覚悟』など多数。
加藤 坂東総長が執筆された『女性の品格』(2006年発刊)を読ませていただきました。日本が本当に男女平等を実現するための課題と、それを乗り越えるためには何が必要でしょうか。
坂東 『女性の品格』の読者は80%以上が女性でしたが、読んでくださった男性の方々からは「これは女性の品格だけでなく、男性の品格や人間の品格にも通じるのではないか」という感想をいただきました。
第1次安倍内閣当時には「ジェンダーバッシング」という動きがあり、ジェンダーフリーや男女共同参画は男らしさ、女らしさを否定し、男性も女性も同質だと強調する誤った考え方だとずいぶん批判されました。
しかし、人間としては男性も女性も共通する部分が多い。たくさんの優れた男性と仕事をさせていただいたなかで、思いやりや相手の立場に対する共感、コミュニケーション能力、ちゃんと相手の考え方を聞いて理解する。いわゆる女性らしさと言われるような能力を持っていらっしゃる男性も多くおられました。
一方、決断力や責任感、実行力など、いわゆる男性的と思われている能力を持っていらっしゃる優れた女性も多いです。お互いの良いところを伸ばし、評価して、悪いところがあまり害を及ぼさないようにすることが両者にとって必要だと思います。
女性に関して、2年ほど前に「アンコンシャスバイアス」という言葉が世間に広まりました。アンコンシャスとは自分で自覚していない思い込みや偏見です。例えば、視野が狭い、感情的で理性的でない、細かいところばかりにこだわり大局的な見方ができないなど、"女性だから"という偏見です。男性が女性に対してこうした偏見を持つことも問題ですが、一番の問題は女性たち自身が「私は女だから無理しなくていい、頑張らなくていい」と、自分で可能性を縛り、女性自身が女性に対する偏見に縛られていることです。人間としての可能性を生かし、しっかり生きようと強調したかったのです。
加藤 坂東さんが2017年から経営管理委員を務めておられる農林中金では、2人の女性常務が誕生し、女性管理職比率の数値目標も策定されました。私がJA全農専務当時に導入した総合職制度で入会された女性から本所次長クラスが誕生しました。JA全農も以前は結婚、出産して一度退職し、職場復帰する際には非常勤でした。現在は元のポジションに戻れます。きっかけは農林中金の変化もあったと思います。男性職員が中心をなすJAも変化する時代に入りました。
坂東 以前は民間企業や公務員の採用担当の方は就職の際、「成績も態度も女性のほうがいい」と言いました。しかし、「あえて成績の悪い男性に下駄をはかせて採用しています」とも。「女性は若い頃には優秀で意欲が高いのに、5年・10年たつと輝きが失せてしまう。男性は頼りないけど、5年・10年たつと少しずつ成長してくる。女性はまじめに勉強するから成績はいいけど、男性は地頭がいい」とおっしゃる人事担当の方もいました。
日本の組織は入ってからの人材育成で、男性と女性には大きな差があります。女性を育てるため、雇う側、管理職の方には女性に三つの「キ」を持ってくださいと言っています。まず、「期待」してほしい。頑張って組織を支えて未来を担う、その力をつけてほしいと。男性には多かれ少なかれ期待しているのに、女性には無理せずにそこそこやってくれればいいと考えている。子どものいる女性に、「子どもさんが待っているからは早く帰ったほうがいいよ」と期待しないで余計な配慮をする。
二つ目は、「鍛える」です。怒鳴ったり怒ったりするのではなく、難しい仕事や責任ある仕事を経験させることです。
その上で、「機会」を与える。今、日本の企業の多くは女性に機会を与え、女性の管理職や役員を増やそうとしています。しかし、その前に「若い時、採用した時から期待して鍛えなければ育ちませんよ」と言っています。
女性の側も仕事の面白さや組織を動かす醍醐味を発揮することを経験する前にあきらめてしまう。「ここで頑張ってもしかたがない」と思う女性が昔は多かったのです。今、この部分が少し変わり始めてきているところです。
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