農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】山形・農事組合法人魁 助成金頼り後継不安 ソバ転作で水田守る2025年2月10日
集落営農は水田水稲作が中心だが、中山間地域では大豆・ソバ等の転作を中心としたものも散見される。その一例を、積雪2mを超す豪雪地帯の山形県尾花沢市にある農事組合法人・魁(さきがけ)にみる。
法人の生い立ち
魁は、最上川の支流・丹生川右岸の旧宮沢村大字正厳(農家100戸、200ha程度)を基盤にする。まず2007年に品目横断的政策絡みでソバ転作のための農用地利用改善団体が設立された。しかし全員参加の集落営農方式では意思の統一・迅速さで難点があり、農業委員や現組合長のリーダーシップで、ソバのコンバイン導入の補助事業を受けつつ、2009年に、3ha規模の農家5人によるソバ転作の作業受託組織・正厳営農組合を立ち上げた(ソバ水田転作25ha、畑のソバ作1ha)。
しかし構成員は誰も農業後継者をもたず、いずれ雇用が必要になるということで、普及所等の勧めを受けて、2015年に農事組合法人化した(ソバ水田転作71ha、畑ソバ11ha)。株式会社化したい意向もあったが、キャッシュフロー上の不安から農事組合法人とした。
水稲についても、2016年から、農地中間管理機構を通じて構成員の水田を借りることから開始し、それに伴い補助事業で米乾燥調製施設を導入した。
注.法人資料による。ミニトマト面積を除く。
拡大するソバ転作
以降の作付けを図1に示した。とくに2021年以降にソバ水田転作の伸び率が高く、2024年には水田245ha、畑27ha計272haの経営に至っている。その8割は大字内からである。水田は1980年代に30a区画化しているが、排水条件は悪く、ソバ転作を通じて改良してきた。今までのところ、土地条件の悪さを理由に断ったことはない。
特筆すべきは、畑地も受け入れていることである。水田集落営農では、畑は受け入れないケースがほとんどだが、ソバ転作を主とする魁の場合は、畑賃借も可能であり、地域の農地の荒廃を防いでいる。
魁は2017年にはミニトマト238平方mをはじめたが、ソバ転作が急拡大した2022年653平方mをもってやめている。園芸作物は黒字化困難のうえ、労力的に無理になった。豪雪地帯故に冬場の就農確保は困難だ。
ソバ転作の全作業受託に当たっては、魁がまずソバ代金と直接支払交付金を受領し、そこから作業受託料を差し引いた額(水田活用交付金相当)を地権者に支払っている。また10a当たり小作料は基盤整備水田1・5万円、未整備水田1万円、畑3000円である。水管理、除草は全て魁が行う。水利費(管理費部分)4000円は地権者が支払う。
2022年度の収入構成は、水稲32%、ソバ9%、ミニトマト0・5%、助成金等の雑収入58%である。
水張り問題と畑地化
目下の問題は5年に一度の水張問題である。ソバ転作田は湿害を防ぐため場所を固定させている。水張を避けソバを作付けし続けた場合は、経過からすれば魁が例えば水田活用交付金相当を支払う必要も出てきうるが、ソバ代金では到底支払えない。この問題を地権者にも考えてもらった結果、64ha(ソバ転作田の4割弱)が畑地化促進事業で畑地化することになった。市での一般的な方式により、交付金7900万円のほとんどが法人を経由して地権者に行った。
水張り問題にはブロック・ローテーションで対応する集落営農組織もあるが、ソバ・大豆作等については「せっかく土を作ったのに、一からやり直さなければならない」としている。魁としても、畑地化の推進よりも、ソバ生産を継続できるように、畑作物の直接支払交付金(ゲタ)の引き上げを望んでいる。畑地化した農地については、当面5年は助成・支援金があるが、その後は畑小作料(3000円)相当になるのかも知れない。
なお採算米価は1・7万円としている。今年は高米価だが、「それで借金を返して離農しよう」という農家も多く、「離農見舞金」だという声もあるそうだ。
法人は、国県の補助事業で前述の乾燥施設のほか、育苗ハウス、ソバ・水稲のコンバイン、色彩選別機、ドローン等をほぼ2~3年ごとに導入している。
横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
人材確保と定年制
構成員は現在は9人に増えている。80代2人、70代3人、60代2人、50代と40代各1人で平均68歳だ。構成員には農協OBが2人いる。また新しく参加した者には「父の死亡で自分一人では家の農業をできなくなったので」という者が複数いる。
法人化の翌年から60歳の大字外の1人を期間雇用している(冬季は別会社で就業)。その他に田植え時に女性2~3人を雇用。また2020年に従業員1人(現在40歳)を入れている。神職の者で魁に入ってから機械作業も習得している。
魁は2024年に75歳定年制(75歳以上は従事分量配当から時給へ転換)を導入し、現組合長から適用することとした。人事計画では2026年に4人、29年に1人、34年に2人の補充が必要になる。
できれば従業員ではなく構成員を増やしたいとして、2023年に1人(42歳)増やした(この人も父の死亡が一つの契機)。また従業員が構成員となって組合長を務めることもあり得るとしている。今回、他の法人からもそういう話を聞いている。これまで東北では「トップは構成員から」の意向が強かったが、変わりつつあるのかもしれない。
広域的な人材確保
魁のソバ作付け面積は伸びており、規模拡大は人材確保次第である。JAグループ山形地域・担い手サポートセンターが立ち上げた県地域営農法人協議会の2023年の意見交換会で、魁の組合長は自らの経験を踏まえつつ、農村RMOをたちあげて、地域起こし協力隊OB、U・Iターン、マルチワーク等の人材確保をしたいとしていた。RMOの立ち上げはまだだが、大字を超えた広域的な集団的努力で、中堅人材を内外から確保していこうとしている。
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