農政:トランプの世界戦略と日本の進路
米国大統領トランプに戦略はない 「ディール」に飽きた後の気鬱 武道家・思想家 内田樹氏2025年4月3日
トランプ米国大統領の国内外への“注文”が止まらない。米国ファーストの関税政策をはじめウクライナ、ガザ問題での外交姿勢、政府職員の解雇など枚挙にいとまがない。
4月4日には各国に相互関税を課すと演説し「日本は米に700%の関税かけている」と根拠なく言い立てた。本紙ではシリーズ「トランプの世界戦略と日本の進路」で有識者らにその狙い、日本の課題などを論じてもらう。今回は、思想家、武道家など〝多彩な顔〟を持つ内田樹氏に寄稿してもらった。
武道家・思想家 内田樹氏
「トランプの世界戦略と日本」という論題を頂いたけれど、そもそも「トランプの世界戦略」とは何かが分からない。「戦略」と呼べるようなものが果たしてトランプにあるのか。わかっているのは、米国の統治システムが急速に壊れ始め、国際社会における地位が低下していることである。いずれカウンターの動きがトランプの暴走を止めるだろうとは思うけれど、それが「いつ」で「誰」がその任を担うのか、今は分からない。
思いつき関税政策
トランプは思いつき的で懲罰的な関税政策で世界の経済を混乱させている。各国で「米国売り」が始まった。連邦機関のいくつかは廃止された。主要な省庁もトップにはトランプの側近たち(その多くはその職位にまったく不適切な人物)が送り込まれた。トランプの違法行為を捜査していたFBI捜査官や検察官は解雇された。学内で「イスラエル批判、パレスチナ支持」の運動をした学生を処罰しなかったという理由でコロンビア大学に対する政府助成金を止めるという恫喝(どうかつ)をかけた(大学は屈服した)。トランプを批判した南ア大使は追放され、学会出席を予定していたフランス人研究者は携帯電話にトランプを批判するメッセージがあったという理由で入国を拒否された。
すでにカナダやドイツや英国は何があるか分からないから米国への渡航をしばらく控えるように自国民にアナウンスを始めている。株価は下がり、外国為替市場ではドル売りが始まり、高関税のせいで国内では物価が高騰している。低所得者のための医療保険制度メディケイドへの助成も減額された。「ファースト」で優遇されるはずだった国民がトランプのおかげで失職したり医療を打ち切られたり物価高で苦しんでいる。一方、トランプ支持者の超富裕層はさまざまな優遇措置の恩恵に浴している。これからはもうグローバル・リーダシップを執らない。米国だけが世界秩序の安定のために身銭を切らなければならないというのは不当である。米国は米国だけを守る。他の国は自分で自国を守れ、というのがトランプの「世界戦略」である(これを「世界戦略」と呼ぶことはためらわれるが)。
期待できぬ「復元力」
確かに米国人はしばしば不適切な人物を大統領に選ぶ。アレクシス・ド・トクヴィルは第7代大統領アンドリュー・ジャクソンと面談した後に、「粗暴で凡庸で、その経歴のうちには自由な人民を治めるために必要な資質を証明するものは何もない」と酷評しているが、そのジャクソンを米国人は二度大統領に選んだ。
不適切な統治者を選んでしまうのは「民主政のコスト」だからこれは仕方がない。ただ、トクヴィルは不適切な人物が統治者になっても、統治システムは簡単には壊れない米国の復元力は高く評価した。「公務員が権力を悪用するとしても、権力を持つ期間は一般に長くない」からである。でも、この復元力はトランプ政権にはたぶん適用できない。統治機構をイエスマンで埋め尽くした後、おそらく彼は「緊急事態」を宣言して、大統領選をしているような余裕は米国にはないと言い張って、その地位にとどまり続けると思う(退職後に無数の罪状で訴追されることは確実だからだ)。
米国は「民主主義指標(完全な民主主義がプラス10、完全な独裁制がマイナス10の21段階で評価する)」で今すでにプラス5という「内戦ゾーン」に入っている。おそらく次の評価ではもっと低い評点がつく。いくつかの州では連邦からの独立運動が始まっている。カリフォルニア州は連邦からの独立を支持する州民が今や32%に達している。独立すれば人口3900万人、GDP世界五位の「大国」になる。トランプの下にいるよりカリフォルニアの方が「米国らしい」と思う人たちは大挙して西へ向かうだろう。映画『シビル・ウォー』はカリフォルニアとテキサスを含む19州が連邦から脱盟して連邦政府と内戦するという話だが、もはやこれも荒唐無稽な話ではなくなった。
安保要求丸呑み必至
日本について書く字数がなくなってしまった。喫緊の問題はトランプが「日米安保条約の廃棄」というカードをちらつかせて、安保条約を廃棄して欲しくなければ、米国の兵器を大量購入すること、「思いやり予算」を増額すること、在日米軍基地を「米国領土」とすること、自衛隊を米軍の統制下に置くことなどを要求してくるということである。自民党政権はトランプの要求を丸呑(の)みするしかないだろう。戦後80年「日米同盟基軸」以外の安全保障政策について何も考えてこなかったのだから仕方がない。
それ以上に困るのは、トランプが「ディール」に飽きて、日米安保条約を本気で廃棄した場合である。日本人は自前の国防構想としては戦前のものしか知らない。だから、形状記憶金属のように大日本帝国の「劣化コピー」に帰着するしかない。つまり、「金のある北朝鮮」「国土の広いシンガポール」になるということである。「それのどこが悪いの?」と言う人たちが今の日本人に相当数いる(もしかしたら多数派かも知れない)ことが私を気鬱(きうつ)にさせる。
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