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農政:TPP重大局面

日本最大の農事組合法人が誕生 農事組合法人となん(岩手県盛岡市)2013年3月22日

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・集落営農の実践積み重ね
・10年後の地域を考えて
・集落組織も再編
・農家へのメリット還元と担い手育成
・9割の人々の生きがいも生み出す

 岩手県盛岡市で平成18年に設立した任意組合の集落営農組織、都南営農組合がこのほど「農事組合法人となん」として法人化、3月10日に設立総会を開いた。組合員として加入する農家は約900戸で経営面積は900haを超える日本最大級の農事組合法人が誕生した。 農家の高齢化が進み農地の出し手が増える一方、その受け手の担い手は減少することが見込まれるなか、農地の集約と担い手の育成に取り組み「地域農業を次世代にうまくバトンを渡す役割」発揮をめざすとともに、住民全体が農村での暮らしを豊かに続けていける生活福祉活動にも取り組んでいく方針を掲げている。

900haを集約
地域農業の持続性を追求

◆集落営農の実践積み重ね

3月10日の設立総会 岩手県盛岡市の都南地域には1450戸が暮らし、農地面積は約1000haある。
 平成19年からの品目横断経営安定対策の導入に対応するため18年、地域の農家全体が政策支援を受けられるよう任意組織の「都南地域営農組合」を設立した。参加した農家は868戸、作付け面積(水稲・小麦)は770haほどでスタートした。
 6年後の24年度は構成員は856戸、作付け面積は940haとなった。組織の基礎は集落単位の41の農家組合で、いわゆる“集落ぐるみ型”を基本に米・麦の基幹作物の協業化を進めてきた。
熊谷健一組合長 米では特別栽培米に取り組んだほか、昨年からは地元の製麺所と連携し75haで米粉用米を作付けした。これは米粉麺として商品化されている。
 こうした特色ある活動を展開してきたものの、農家の高齢化は進展し農地を維持する担い手が減少する厳しい状況は避けられなかった。営農組合の構成員は一時、1000戸を超えたが、現在は前述のように900戸を下回っている。
 JAいわて中央の元代表理事専務でこの新法人の組合長に就任した熊谷健一さんによれば「そもそも農家戸数は全体で1450戸だから、すでに500戸は土地持ち非農家になっていると考えられる」のが実態だ。年に40?50戸は農地管理を委託する農家が出るというが、高齢化が進み「受け手がいない」という事態も出てきた。

(写真)
熊谷健一組合長


◆10年後の地域を考えて

 こうした状況のなか、営農組合は約1000戸を対象に「10年後には自分の農地をどうしているか?」アンケートを実施した。
 その結果、自ら営農を続けていると答えたのは1割。残り9割は「自分では営農できない」との答えだった。自ら営農する見込みがないという農家のうち3割は「営農組合に農地を任せたい」との意向だったが、そのほかは「親戚に頼めば引き受けてくれると思う」、「土建業者が請け負ってくれるのではないか」などの考えだった。 熊谷組合長は「つまり、将来、それぞれの農地がどうなるか何の保証もないということが分かったわけです」とアンケート結果に危機感を募らせたという。 また、地域の農地は平均して一戸あたり1ha規模だが、その水田は3、4か所に分散して作業効率が悪いという課題も抱えている。兼業化が進むなか、農家は「土日農業」となっていったが、それぞれが農機具を所有するため地域全体でコスト高となっているだけなく、低所得で農機具の更新もできず生産効率は向上しない。
 こうした状況のなかで、アンケートでは10年後には1割しか営農を続けていないという姿が地域に突き付けられたのである。


◆集落組織も再編

 こうした課題を解決するには農地の利用権を設定し、農地集積を図って「受け手」が効率的な営農ができるようにする必要がある。そのため任意組合では利用権設定ができないことから、営農組合は昨年夏から法人化に向けた検討会を立ち上げ、事業内容と運営方法、組織のあり方などを整理し、年末から農家に説明会を開いて同意を得てきた。
 3月10日の設立総会時点では組合員910名でスタート。出資金は1人1万円とした。総会で了承された事業計画では作付け計画面積は米粉用、加工用米を含めた水稲932ha、小麦38haの合計970haとされている。
 この農地面積を基盤に担い手農家は地区ごとにつくられた営農実践班に所属して活動する。
 農家組合である営農実践班は都南地域には41あった。しかし、法人化にあたって隣接する集落との合併を進め、大字単位で15に再編した。この営農実践班がそれぞれの地域での農地集積や農作業計画などの営農活動をリードしていく法人の基礎組織となる。


◆農家へのメリット還元と担い手育成

 6年前の営農組合の設立で構成員農家には、個別経営では得られなった10aあたり3万円のメリットを生み出すことができたという。その内訳は戸別所得補償制度の固定部分の1.5万円と農地・水・環境保全対策の8000円という政策支援と、肥料農薬の一括配送によるコストダウン分と農作業委託の割引分などである。
 法人化にしてもこうした共同購入などで生じるメリットは継続できるほか、農機具の効率的利用と計画的な更新を図るための積立も法人化によって可能になる。農業専従者への雇用・労働保険も適用される。さらに同法人は盛岡市の「人・農地プラン」に位置設立総会には約140人が出席した 今後は米・麦以外の作物の導入や6次産業化なども事業として視野に入れている。
 同法人の地域は紫波町と矢巾町も加えた。理由は地域外からの要望で委託を受けている農家もいるため。今後もそうした隣接地域の農地の出し手のニーズにも応えて広域で農地を守っていく方針だ。 熊谷組合長によれば、営農実践班を5年間で強化し、いずれは別法人として独立するような担い手としての育成を目指しているという。その将来の営農の姿は、地域によっては現在の営農実践班の区域を超えたかたちになることも想定している。

(写真)
設立総会には約140人が出席した


◆9割の人々の生きがいも生み出す

 こうした担い手育成が進めば1割の農家でも地域の農地は維持されることになる。しかし、9割の農家はどうなるのか。もちろん集落の水管理や除草などの作業は担い手農家だけでは行えないことから、高齢農家の含め集落の協力がなければ成り立たないだろう。
 そのうえで、さらに熊谷組合長が構想するのは、高齢者の生きがいを考えた生活活動に取り組むことだ。しかも活動のリード役も営農実践班が担うというのが構想だ。
 農地集積と利用権設定による農業経営の効率化が法人化の目的ではあるが、将来、営農に携わる人が1割に過ぎなくなることも見越して、この地域で豊かに住み続けるには、野菜づくりなどの農業のほか、食文化の伝承や食農教育、環境保全活動など「幸福な集落づくり」が必要になるとの考えだ。
農事組合法人となん組織図 「営農活動と生活活動の両輪で運営していく法人をめざす」というのが熊谷組合長の考え。そのため今年から農家組合(営農実践班)を中心にそれぞれの集落で生活活動を軸に住民への参加を呼びかけることにも力を入れたいという。
 学童農園や食育はまさに次世代づくり。農業の担い手つくり出していくだけでなく、この農村集落に暮らす次世代を育て、地域資源をバトンタッチしていくことも法人の大きな目標だ。
 「農村の共同活動にみられる結いの精神で、地域のみなさんの生きがい、幸せな生活をつくる法人をめざしたい」。
 今後の活動が注目される。

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