農政:地域と暮しを守る
【インタビュー】漁業再興へ 浜を守る協同組合運動 岸宏・JF全漁連代表理事会長2013年9月30日
・漁協、原点に返る
・汚染水、国の責任で
・TPP、漁業存続が大前提
・基軸は漁業者の立場
魚価の低迷と燃油高騰に加え福島原発事故による汚染水漏れ問題など、漁業・漁村を取り巻く状況は厳しい。今年6月に就任したJF全漁連の岸宏新会長は「浜を守る漁協の原点に返ることが窮状を切り開く道」と強調する。現状と課題を聞いた。
◆漁協、原点に返る
――日本の漁業の現状と漁協の課題をどうお考えですか。
魚そのものの消費が非常に減退しているという問題があり、震災からの復興という大きな課題も抱えています。さらに漁業後継者が減少してきている。その上われわれは魚価の形成機能を基本的に持っていないため、魚価が低迷しているということも漁家経営に大きく影響しています。加えて円安誘導の政策で燃油価格の高騰も追い打ちをかけています。
私は戦後の混乱期と同じといってもいいほどの時代認識を持っていますが、おしなべて漁業、漁村そのものの体力が落ちてきている。
ならば、どういうかたちで漁業を再興していくか――。われわれは農協と同じで、浜を原点とする協同組合運動です。農協が農村を守るように、われわれは漁村集落をきちんと守っていく。漁業者が希望を持ちながら生産活動をやっていく。そのために漁協、各県漁連、全漁連という組織がある、という原点にいま一度立ち返って、漁業の今後の道しるべをきちんと持ちながら、まず自らが努力していくことが求められていると考えています。
――具体的にはどんな取り組みが必要なのでしょうか。
私の持論は「魚を獲らない漁業者は漁業者じゃない」と同じように、「魚を売らない漁協は漁協ではない」ということです。魚を売る力を漁協が持って、漁業者の経営体質を強くしていくことが求められていると思っています。
◆汚染水、国の責任で
――福島原発からの汚染水漏れが大きな問題になっています。国にはどんな対応を求めますか。
原発は国策ですから、われわれもやむを得ない苦渋の選択として、それぞれの漁村が原発を受け入れてきた経緯があります。私自身もそうです。単協の組合長として地元の原発建設にイエスといった一人です。
ただ、それはやはり国家というものがあったから。つまり、国がやることだから安心だろうということでみな受け入れてきたのであって、一民間会社を信用して受け入れる人などいないと思います。
そのなかで今回の事故については、われわれはもともと国がしっかり前に出て対応すべきだと要請してきました。今回の汚染水問題も政府が前面に出るという話になってきたわけですが、私は当然だと思います。
そこでまず第一は汚染水をきちんと処理する仕組みを一日も早くつくっていただきたい。
それから廃炉するにしても何十年もかかる話で、かといって漁業は営々と継続していくわけですから、一日も早く漁業者が安心して出漁できる状況をつくっていただきたい。さらに風評被害や諸外国の輸入禁止などの問題もありますから、国としてきちんと数値を示し、国の内外で情報発信しながら風評被害が出ないよう努力を継続してもらいたいと考えています。
国が前面に出て対応することは、われわれも要請してきたことですから評価しています。後は対応の中身です。いかにスピード感を持ってやるか。2014年度に東電は汚染水を全部処理するといいますが、本当にできるのか、注視していきたいと思います。
◆TPP、漁業存続が大前提
――一方、TPP(環太平洋連携協定)交渉では漁業補助金も交渉事項になっているといわれます。TPP交渉についてのお考えをお聞かせください。
TPPはわれわれも非常に大きな関心を持っています。漁業補助金が資源管理の観点から取り上げられているということですが、漁業補助金と資源管理の問題はイコールではないと思います。
漁業補助金は漁業をきちんと存続させていくためのものであって、資源保護の問題は別にそれぞれの管理方法で努力しているわけです。
漁業というものは農業と同じように公益的機能を持っています。たとえば国土保全のための国境監視機能、さらに食料供給という大きな視野で日夜努力しているわけです。それを守るため、漁村集落を守る施策を国が打ってしかるべきでそれが漁業補助金だと思います。
一方、漁業の場合は農産物にくらべて市場開放されてきた経緯がありますが、TPPでは逆に外に出る道も拓けるという面もあるかもしれません。しかし、交渉についての情報開示がなされていませんし、なによりも漁業が存立できるということを大前提にした議論でなければならないと思います。基本的には漁業補助金や関税問題等聖域が守れない限りTPPに私は反対です。
漁村を守るということは国を守るということです。農業もそうですが第一次産業が国を守っている。この点についてわれわれはもっと訴え、国民の理解を広げるようにしなければなりません。
◆基軸は漁業者の立場
――改めてJFグループが取り組もうとしていることをお聞かせ下さい。
私は系統運動というものが上部団体に行くにつれ、漁業者の本当の思いとかい離してきたのではないかという思いを持っていました。もっと漁業者の立場に立った発想を基軸にしながら系統運動を展開すべきだと思います。
われわれは行政の下請けではありません。漁業者が獲ってきた魚を売るなど漁業者がよくなるための組織なんです。
逆に行政にきちんともの申すのがわれわれの立場です。
原点は魚を獲る、魚を売るということでそこに返ってもう一度系統運動の本質を見つめながら展開していくことが、今の窮状を切り開くキーポイントになると思っています。
――会長としてご多忙の日々。健康管理はどうされていますか?
魚を食べて軽く一杯、ですかね(笑)。魚を食わなければいけません。
それも自分で作らなければなりません。トビウオのすり身? あれは究極のライフワークですね。作ることも健康維持の秘訣なんです。
【略歴】
きし・ひろし
昭和19年島根県生まれ。関西大学経済学部卒。平成元年島根県漁連常務理事、5年御津漁協代表理事組合長などを経て、18年漁業協同組合JFしまね代表理事会長、22年全国漁業協同組合連合会理事、25年6月同代表理事会長。
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