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農政:2013年を振り返って

福島原発事故から1000日 農業の再建へ模索の1年  JA福島中央会会長・庄條徳一会長に聞く2013年12月20日

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・安全性の確保に全力
・水稲に復権の“兆し”
・全域の汚染マップを
・バイオ燃料の作物も
・所得の確保が大前提

 東日本大震災・東京電力福島原発事故から3年目が経つ。特に、いまだ先の見通しのたたない原発事故は、被災地域はもとより、日本の社会にも大きな影を落としている。それに追い打ちをかけるように5年後の米の生産調整廃止問題が浮上し、大きな危険性をはらむTPP参加交渉が年を越した。原発事故・放射能汚染対策に全力を挙げたJA福島中央会の庄條徳一会長に農業と地域の再生・復興の取り組みを中心に今年を振り返り、来年への課題を聞いた。

風評被害の払拭、農地確保へ
「“豊穣の大地”、澄んだ空気を取り戻す」

◆安全性の確保に全力

JA福島中央会会長・庄條徳一会長――震災・原発事故から3年が経過しようとしていますが、いまの心境を聞かせてください。
 振り返ると、原発事故発生当時は何をやり、どのように対応したらよいかという状況でしたが、徐々に落ち着いてくると、我々JAの使命は、やはり福島県の農業再生・復興だということをあらためて心に刻んでいます。全国のJAからも物心両面の支援や励ましの言葉いただきました。それに報いるには一日でも早く農業を再建させることです。その決意で、JAグループの総力を挙げて、この3年間取り組んできました。
 我々だけの力には限度があり、復興に向けて国や県に支援を求め、賠償金を東京電力に要求してきました。しかし除染は、遅々として進まないのが現状です。なかなか「3.11」以前のような、豊穣の大地と澄んだ空気は戻ってきません。ただ、若干明るい材料として、川内村や広野町で水稲の試験栽培が始まり、また県北地方で2年間作れなかったあんぽ柿の出荷が検査機器を入れることでできるようになりました。復興の兆しが見えてきたかなというところです。
 事故発生当時から農畜産物が売れないという問題がありました。いわゆる風評被害です。我々がいくら安全ですと言っても消費者の理解は得られず。それでは科学的に数値で示そうという結論に達し、県産の米をはじめ牛肉、野菜、果樹等の全品を検査して、食品の安全基準をクリアしたものだけを流通に乗せるようにしました。
 また、米生産農家や組合員農家のため、これまで29回の東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策協議会を開き、補償を東電に請求してきました。その結果、1700億円の請求に対して昨年末で1500億円、90%近い補償金を受けました。これで当面の生活は何とかしのぐことができましたが、3年を過ぎると、本来の農業ができるような営農指導を強力に進めて福島県農業、ブランドを再構築しなければなりません。

(写真)
JA福島中央会会長・庄條徳一会長

◆水稲に復権の“兆し”

仮置き場が決まらず道端に積まれた汚染土壌のフレコン――ある程度、復興の軌道が見えてきたというところですか。
 そう思っています。農産物の検査体制が整いました。米は全袋、牛も全頭、果樹や野菜も流通するものはすべて検査し、安全性については自信をつけました。後は消費者に安全性を理解してもらうようにすることで、我々もトップセールスなどで懸命にPRしてきました。
 しかし、全袋、全頭検査していると説明しても、言葉だけではなかなか消費者に理解してもらえませんでした。このため卸、市場関係者、消費者、生協の皆さんに来ていただいて、実際に検査しているところを見てもらいました。「本当にこんなことまでやっているのか」と、強い印象を与え、一層の安全性確認ができたようです。来年は、さらにたくさんの人にきてもらおうと考えています。それによってより理解が深まり、風評被害払しょくのスピードが増すのではないかと期待しています。

(写真)
仮置き場が決まらず道端に積まれた汚染土壌のフレコン

◆全域の汚染マップを

汚染マップ作製のための土壌調査――農業の復興にはどのような対策が必要でしょうか
 まず、農地の除染です。いまJA新ふくしまで、福島大学と生協の協力を得て農地の汚染マップを作っています。除染の順序や作付品目など、営農再開の上から重要です。これは視察したチェルノブイリの原発事故から教えられたことですが、JA新福島とは別に全汚染地域を対象にマップづくりを国や県に要請しています。
 営農再開のためには、農地の除染はやらなければなりません。しかし、除染地区で肝腎の住民が戻るかどうかという問題があります。市町村の首長は5、6年で帰還できると言いますが、実際は40、50年かかるところがあるかも知れません。このミスマッチが住民を不安にしています。本当に戻れないことになれば、別のところで第2の人生を考えざるを得ませんが、その時は、住民の大きな移動が起こるのではないかと思っています。
 JAグループとしては、県内に留まっていただければ、加盟JAは変わってもトータルとして支えていけますが、県外に出て行かれると組合員が減り、JAの事業にも大きな影響が予想されます。いま、遅れていた財物補償の基準が出てきました。財物補償が出れば、ある程度決断をせまられることになります。その交渉が始まる26年度前半が、汚染被災地の住民や農家にとって重要な時になります。
 我々は、補償交渉で他の地区に移転しても営農再開できる補償を要求してきました。でも営農するための農地を変えるよう要求してきました。しかし、まとまった農地を手に入れるのは難しく、また改めて営農を再開するには、ある程度年齢が若くなければならないでしょうが、なるべく県内にとどまっていただき、営農指導なり、農地のあっせんなり、その手伝いをしていく方針です。
 我々JAは相互扶助の精神にもとづいた組織です。全国のJAの皆さんの支援に応え何としても福島県農業再建の道筋を構築しなければなりません。それには相当の時・空間が必要ですが、精神的に折れそうな組合員をフォローし、やれるところから取り組んでいくつもりです。

(写真)
汚染マップ作製のための土壌調査

◆バイオ燃料の作物も

福島県産米は全袋検査を行っている――農業と地域の復興にどのような策を考えておられますか。
 ひとつの提案としてバイオマス発電があります。本当に口に入るものが作れないのなら、トウモロコシなどバイオマス燃料を作付けることで農地を守ることができるのではなでしょうか。売電のほか、その熱でお湯を沸かし施設園芸などで使うのです。そこでは新しい雇用も生まれます。今、相馬地区でこの提案をしています。
 原発事故で家族がばらばらになり、地域がばらばらになり、集落や地域コミュニティのよさがすべてが失われようとしています。それを守ることが、われわれJA組織の役割です。農業と地域の復興には10年、20年という長期の構想が必要です。その間、若い人の、自分が生まれ育った地域への愛着心をどう維持させるかが、大きな課題だと考えています。
 第26回JA全国大会の決議にもありますが、組合員の生活・福祉対策も重要です。JAたむらで総合ケアセンターを立ち上げましたが、これらを先鞭として、その地域で安心して暮らし、年をとっていけるようにしなければなりません。他県に行った若い人が戻ってくるようにするには、こうした老後の生活のためのインフラの整備が欠かせません。

(写真)
福島県産米は全袋検査を行っている


◆所得の確保が大前提

――福島県の苦境に追い打ちをかけるように農政転換の動きが強まっていますが。
 TPPへの交渉や水田農業の見直しなど課題山積です。5年後の生産調整廃止も、我々JAが主張しているような農家の所得向上につながるのかどうか不透明なところが多くあり、実際予算化してみないと分かりません。生産調整廃止に向け、飼料用米10a当たり10万5000円の補助金も、金額がひとり歩きしている印象です。
 政策の裏にTPPに参加しても、それに打ち勝つ強い農業という考えがあり、どれほどの農家がそれを受け入れることができるのか疑問もあります。政策に乗ったはいいが、この船はどこに行くのか分からないということのないようにしなければなりません。

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