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農協改革とJAグループの取り組み 冨士重夫・JA全中専務理事に聞く2014年7月11日

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 JAグループは農協改革について8月上旬から自らの改革として本格的に検討を開始する。議論を進めるには共通の認識が大切だ。論点はどこにあるのか、JA全中の冨士重夫専務に聞いた

事業の実態と役割
徹底検証し議論を

 

――規制改革実施計画などで提示した「農協改革」の基本的な考え方について政府はどう説明しているのか。問題点も含めてお聞かせください。 

 冨士 今回の規制改革で示された考え方は、政権公約でもある農業所得の増大や、農業の成長産業化のために農協制度を見直すというもので、そのためにはJA(単協)の機能強化と独自性の発揮が必要だとの認識に立っています。
 つまり、今回の改革議論は、単協主役論であり、連合会・中央会は単協の機能を補完するという観点から制度を見直すという考え方です。このような議論になったのは、実態をよくふまえず単協の活動を縛っているのが連合会・中央会だという考えを前提にした、まさに最初に結論ありきの姿勢があったからだと思います。
 ただし、JAグループの自己改革を基本とし、それに基づいて政府は法整備を行うということになりました。
 そこで考えておかなければならないのは、今回の取りまとめは実態の検証を一切しないまま行われたということです。改革の切り口は、組織形態の変更、事業方式の転換などですが、そのことについて何が機能を発揮していて、どこの機能が不全であり、何をもっと強化すべきかといった現場の実態をふまえた事業内容についての検証はない。 したがって、われわれはこの検証から徹底して取り組むべきだということです。
 経済事業でいえば作物ごとの販売事業の方式のあり方とか、購買事業の肥料、農薬、飼料といったそれぞれの事業内容を検証するということです。 中央会でいえば経営指導、監査、教育、広報といったさまざまな役割、事業、それらが将来に向かってどうあるべきかという観点からも議論しなければいけません。

 

――見直し事項はいくつもありますが、すべてについて次期通常国会での関連法案提出をめざすわけではないですね。

 ◆協同組合の役割 広く捉えて議論

  冨士 次期通常国会に関連法案の提出をめざす事項と今年度中に結論を得る事項など、大きく5つに分類ができます。(下に概要)このなかには今年度に検討を始めるものの法改正の対象外の事項もあります。

 

――准組合員の事業利用のルール化の問題にはどう取り組めばいいのでしょうか。
 
toku1407110701.jpg 冨士 その問題がまさに「今年度に検討を開始する事項」とされているもので、しかも結論を得る時期については示されておらず、長期課題とされています。ただし、地域に根差した協同組合という観点から准組合員や員外利用といった問題を改めてわれわれとしても議論をしていく必要はあると思います。
 しかも、この問題は同時に組織形態の議論にもつながるということです。今は、職能組合としての農協と地域協同組合としての農協という性格を併せ持ったかたちで役割を発揮していると思います。それを分離し、事業によっては生協や株式会社など形態も選択できるようにすればいいではないかという議論も今回は出てきています。
 地域を支える事業を分けるというのは、専門農協でいいではないかという議論にもなる。信用事業や共済事業の代理店化というのも、見方を変えれば経済事業の専門農協になることを提示しているわけです。つまり、職能組合としての性格を強くしなさい、と。
 一方で、地域協同組合という性格で行きたいというのであれば、生協などになればいいではないか、という。
 そこはすっきりと分けられないのではないかというのがわれわれの基本的な考え方で、農業と地域の両方に根差すことが地域の維持、安定にもつながるというのがわれわれの基本だと思います。
 そうなると単に利用のルールではなく准組合員の議決権や地域住民などがどう経営に参画していくのかという問題も含めて考えなければならないのだろうと思います。

 

◆次期通常国会の焦点はどこに?

――それでは時期通常国会に向けて検討を開始しなければならない事項について論点とともに解説をお願いします。

 冨士 関連法案の提出をめざす事項は、[1]JAの目的規定の見直し、[2]JA・連合会の組織形態の変更、[3]経済連・全農の株式会社化、[4]中央会制度の新たな制度への移行の4つです。
 JAの目的規定の見直しとは、「営利を目的としてその事業を行ってはならない」とする農協法第8条の非営利規定の見直しです。営農・経済事業を通じて組合員に最大奉仕をするという観点から、JAが利益追求を行えるように見直そうということですが、具体的には利用高配当が優先されるのが協同組合の本旨だということを法律にどう盛り込むか、運用上どう徹底していくかが課題だと思います。
 協同組合は出資に対する配当は制限されていますが、利用高配当で組合員に還元していく。農業生産ということからすれば川下からきちんと付加価値をとって組合員に還元していくというのは、まさに利用高配当だということになります。所得増大につながることでもあります。
 ただ、同時にすでにわれわれは「営農・経済革新プラン」を策定・実践に取り組もうとしていますが、法改正の議論と合わせてやはりJA・連合会・中央会は、営農・経済事業の自らの改革に取り組む必要があるということです。
 「JA・連合会の組織形態の変更」では、協同組合という組織形態をほかの株式会社などの組織形態に変更することについて、まずその判断は会員・組合員の自主的判断だということです。その根本原則は担保されていることが大事です。
 そのうえで組織形態の変更の道を選択したときに円滑に、つまり、解散という手続きをしないで資産・負債を引き継いでいくなど、移行規定というものを整理するということです。
 もちろん移行規定の中身に論点がないわけではなく、たとえば、出資金をどう引き継いでいけるのか、協同組合の出資から株式会社の資本に転換するということはどういうことなのかという問題もあります。この種の極めて技術的な事項も含めて検討していかなくてはなりません。
 さらに、組織形態の変更については、あくまで自らの判断で選択することであって、何らかの条件を設定して組織形態の変更が強制されるということがないように制度として担保する必要があります。たとえば、信用事業の譲渡についても、貯金○○億円以下は譲渡して代理店にならなければいけないといった外形基準といったものが盛り込まれると、あくまで自らの判断でという原則に反することになるわけです。

 

――組織形態の変更のなかでも、全農については株式会社化についてとくに焦点を当てているということですか。

 冨士 経済連・全農についても株式会社に転換することを可能にするよう環境整備をすることについては変わりはありませんし、あくまで自らの判断による選択です。
 しかし、規制改革実施計画にはさらに「独禁法上の適用除外がなくなることによる問題の有無を精査し、問題がない場合には株式会社化を前向きに検討するよう促すものとする」となっている。

 

◆中央会の役割 組織で理解を

 冨士 つまり、ここでは逆に、なぜ株式会社に転換しないのか? それはどういう理由なのか? を明確にすることが求められているともいえます。つまり、経済事業の事業戦略、先にも指摘した作物ごとの販売事業方式などを具体的に詰めていって、それで株式会社化が必要か、必要でないかを判断する必要があるという考え方です。もちろん株式会社化が強制されることがないように制度として担保しなければなりませんが、一方では経済事業に対しては事業戦略、事業内容が問われています。

 

――最大の焦点である中央会については「制度発足時との状況変化をふまえて、新農政の実現に向け、JAグループ内での検討もふまえて法改正を行い、新たな制度に移行する」とされました。論点はどこにあるべきでしょうか。

 冨士 今回、この問題は昭和29年に中央会制度が発足したことが強調されて、その当時は農協は1万2000ほどあって経営危機も頻発していたので行政の下請け機関的に強い権限を与えたというような言われ方をしています。
 しかし、それは本当なのかどうか、農協法が施行されたのは昭和22年ですから、29年までの間はどうだったのかといった歴史的な問題を整理することや、一方で現在の実態をふまえれば中央会の監査・経営指導はますます必要になっているのではないかといった検証が必要です。
 今回は、ただ単に昭和29年に当時の状況に合わせて特別に制度化されたものなのだから、中央会はもういらないのではないか、といった程度の議論しかしていません。農協の経営危機が問題だったといいますが、再建整備法や整備促進法は中央会発足以前に施行されていて、それに基づいて自主的な組織としてつくった全国指導連が指導していた。しかし、それでは不十分だということから中央会制度が導入されたという経緯もあります。

JAグループ改革に関する体制等の構想

 

◆組合員の思いを組織づくりに

 冨士 また、現在の役割、機能も検証する必要があります。中央会監査と公認会計士監査とはどう違うのか。公認会計士監査は素晴らしいというが、その趣旨は不特定多数の株主に対する決算証明であって、数字だけ合っていればいい。
 これに対して中央会監査は協同組合として組合員のための業務運営がなされているかどうかをチェックするものですし、財務諸表だけでなく業務全般を監査するという監査と指導を一体的に実施しています。
 総合事業を前提とするのであれば、JAは金融や保険事業、さらに肥料・農薬など生産資材の購買事業から農産物の販売事業まで、極めて多種多様な事業をやっているわけです。そうしたJAを監査、経営指導するJAの業務に精通したプロ集団としての中央会の監査制度は有効に機能しています。しかもコストも安い。こういうことを立証し説明していく必要があると思います。
 また、JA合併が進み貯金額が2000億、3000億円になったから大丈夫ではないかということではありません。経済はグローバル化されて外部的な要因で一気に経営危機に陥るといったリスクも高まっている。
 組織・事業における総合調整機能もあります。単協は総合事業を展開していますが、県連・全国連は事業連ですから、そういうなかで事業が縦割りに展開されていくという傾向が強くなってきており、県域・全国域で中央会が事業・組織横断的な機能を果たし、組合員や担い手農家に対してやるべきことはこういうことではないか、という問題提起をすることはますます重要になっているのではないかと思います。
 こうした大事な役割を果たしている中央会の機能を一つひとつ検証して必要性や位置づけを明確にしていくことが求められていると思います。

 

規制改革実施計画で示された見直し事項

[1]【次期通常国会に関連法案提出】
○JAの目的規定の見直し
○JA・連合会の組織形態の変更
○経済連・全農の株式会社化
○中央会制度の新たな制度への移行

[2]【今年度中に結論を得る事項】
 (法改正必要かは現時点では不明)
○JAの信用事業代理店方式等検討
○JAの共済事業の検討
○JAの経済事業の検討

[3]【今年度中に結論を得る事項】
 (法改正の対象外)
○JA理事への認定農業者等の登用
○他団体とのイコールフッティング

[4]【今年度に検討を開始する事項】
 (将来的な法改正事項)
○信連・農林中金・共済連の株式会社化

[5]【今年度に検討を開始する事項】
 (法改正の対象外)
○JA准組合員の事業利用のルール化

 

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