農政:創ろう食と農 地域とくらしを
調和・協調による協同組合が支える農業を 森田実・評論家、東日本国際大学客員教授2014年10月30日
・歴史的にもすぐれた日本国憲法
・憲法の基礎にある三つの文書の精神
・日本民族の生き方は平和・民主・平等・地方重視
・競争主義より調和主義
「この国のかたち」
日本国憲法の「平和主義・国民主権・基本的人権の尊重」を基本とする国のかたちが最良です。
歴史的にもすぐれた日本国憲法
「日本国民はどう生きるべきか、どのような国のかたちをめざすべきか」と問われたとき、私は「平和主義・国民主権・基本的人権」を保障する現行の日本国憲法にもとづく国のかたちが最良であると答えてきました。この考え方を変えることなく堅持して戦後67年間生きてきました。これからも命ある限り、この考え方を主張していく考えです。
日本国憲法の第一章は「天皇」です。日本国憲法下の天皇の地位は、「象徴」です。明治憲法下においては天皇は元首であり統治権を総覧する存在でした。しかし日本国憲法においては主権者は国民です。私は、現代の制度の方が明治憲法よりはるかにすぐれていると考えています。象徴天皇制は日本国民が長い間の歴史の中で創った制度です。
日本国憲法第二章は「戦争の放棄」です。最近、「戦争の放棄」を放棄して、米国のような戦争のできる国にしたいという考え方が広がってきていますが、私はこれは大きな過ちだと考えています。「戦争の放棄」は堅持すべきだと私は考えています。
日本国憲法の第三章は「国民の権利及び義務」です。この章の中の憲法第11条は「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」と規定しています。思想の自由、言論の自由、集会・結社の自由などの民主主義的な権利も保障しています。
日本国憲法の第四章は「国会」です。憲法第41条が「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定しているとおり、日本の国家機関の中心は国会です。
日本国憲法の第五章は「内閣」です。第65条は「行政権は、内閣に属する」と規定しています。日本の政治制度は議院内閣制です。
日本国憲法の第六章は「司法」です。司法の独立は保障されています。第七章は「財政」です。財政を処理する権能は、国会の議決にもとづいて行使されなければなりません。第八章は「地方自治」です。地方自治は保障されています。第九章は「改正」。第十章は「最高法規」です。憲法を国の最高法規と規定しています。第十一章は「補足」です。
日本は憲法に関してさまざまな考えがありますが、私は現行の日本国憲法は世界的に見ても、歴史的に見ても、非常にすぐれた憲法だと考えています。日本の戦後の制度は、戦争という人類が犯した大犯罪への反省から生まれた制度です。
(写真)
森田実・評論家、東日本国際大学客員教授
◆憲法の基礎にある三つの文書の精神
日本国憲法以前に日本の国のかたちに大きな影響を及ぼした文書が三つあります。一つは聖徳太子が作成したと言われている「十七条憲法」です。この第一章は「和を以て貴しと為す」です。この考え方が、その後の日本の生き方の基礎になりました。第二章は「あつく三宝(仏、法、僧)を敬え」です。「十七条憲法」は儒教と仏教と日本独自の伝統が、日本という独特の文化的環境の中で融合し調和して作成されたものです。
もう一つは明治天皇が発した「五箇条の誓文」です。以下の五カ条です。
一、広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ
一、上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フヘシ
一、官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス
一、旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ
一、智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ
第三はポツダム宣言です。ポツダム宣言は戦争終結のために連合国が日本に対して発した降伏条件を記した文書です。ポツダム宣言は降伏条件という形で日本が平和、民主主義、基本的人権を守る国になることを求めたものです。日本はこれを受け入れました。
日本国憲法の基礎には、この三つの文書の精神があるのです。
◆日本民族の生き方は平和・民主・平等・地方重視
私は、30年ほど前に、日本の政治思想の基本になっているのは次の五つの格言に示されていると述べたことがあります。二つの項目は重複します。引用します。
一、和をもって貴しと為す(十七条憲法第一条)
一、一隅を照らす者は国の宝である(最澄)
一、広く会議を興し万機公論に決すべし(五箇条の誓文)
一、天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず(福沢諭吉)
一、国家の実力は地方に存する(徳冨蘆花)
格言の第一は平和主義、第二は人道主義、第三は民主主義、第四は平等主義、第五が地方重視を、示しています。この五つの格言に示された、平和主義、人道主義、民主主義、平和主義、地方重視の思想を基礎とすることが、日本民族の生き方だと私は思います。
◆競争主義より調和主義
自然と人間社会の調和をはかることは、人間社会が基本とすべき道だと思います。人類は今日まで大きな過ちを犯してきました。人類は自らの力を過信し自然を征服しようとしてきたのです。しかしこの人類の傲慢な行為は失敗しました。そして人類は反省期を迎えています。人類は自然と共存・共生していく以外の道がないことに気がつかなければなりません。このためにも、都市と農村との調和と共存共栄をはかる必要があります。
資本主義は大きな過ちを犯しました。過度の自由競争主義が暴走し、弱肉強食主義の経済運営が、新自由主義の旗印のもとで強行されたのです。この結果、農業は踏みにじられました。自然は破壊されました。いま反省期です。
この過ちから脱し、人間社会を建て直すためには、新自由主義・競争至上主義を克服する必要があります。
農業においては協同組合主義的な生き方が賢明な道です。農業に必要なのは、過度の暴走原理ではありません。必要なのは調和主義です。過激なグローバリズムは百害あって一利なしです。過激なナショナリズムも有害です。日本国民がめざすべきは、心やさしき平和主義的なグローバリズムです。
ナショナリズムは過激になったら有害です。穏やかな、やさしいナショナリズムは、平和・調和のもとになるものです。
弱肉強食的競争至上主義の経済運営は農業を破壊します。調和、協調を基礎とする協同組合によって支えられる農業が日本の進むべき道だと私は思います。
(特集目次は下記リンクより)
【特集 食と農、地域とくらしを守るために】農協が地域を創生する
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