農政:守れ! 命と暮らし この国のかたちを
【座談会】危機を正しく認識 協同組合社会へ一歩2015年7月22日
対抗軸明確に
<出席者>
経済評論家・内橋克人氏
全国農協青年組織協議会会長・天笠淳家氏
北海道大学名誉教授・太田原高昭氏
立正大学名誉教授・森島賢氏(司会)
TPP交渉は7月28日から参加12か国の閣僚会合の開催が予定されている。交渉の行方は見通せないものの、日米両政府は早期妥結をめざす姿勢を示しており予断を許さない重大局面を迎えた。TPPは農産物関税だけではなく、広く私たちの命と暮らしに関わる問題を含んでおり、まさに国のかたちを変えかねない。改めて私たちはどう問題を捉えて行動すべきなのか、“農協改革”論もふまえて話し合ってもらった。
(写真)内橋氏は政権交代とともに「協同組合 冬の時代」が始まったと指摘
森島 今日の座談会は「守れ命と暮らし、この国のかたちを」と題して、今月末に閣僚会合が開かれるTPPの問題点を改めて考えるとともに、今回の"農協改革"をふまえ、これから協同組合としての農協がどんな役割を果たしていくべきかなど話し合っていただければと思います。
最初に内橋先生からわれわれを取り巻く全体の状況についてお願いします。
◆共生セクター 社会に不可欠
内橋 「協同組合 冬の時代」が始まったという厳しい認識が必要だと思います。
協同組合は社会の要で、なくてはならない重要なセクターだと私たちは思っているわけですが、まさに国際協同組合年だった2012年が終わりに近づいた、あの年の暮れに生まれた安倍政権。その経済政策には3つの大きな欠落部分があることを最初に指摘しておきたいと思います。
第1は言うまでもないことですが、所得再分配政策にまったく関心がないこと。具体策もなく、意思もないということです。
2番目は、多元的経済社会と私が呼んできた問題に関わることです。それは社会は競争セクターだけではなく、協同や参加を原理とする共生セクターがなければならないということです。競争セクター一辺倒で成り立つ世の中は、日本においてもどんな悲惨な歴史を繰り返してきたか。
しかし、ようやく競争セクター、共生セクターが並び立つ普遍的経済社会に向け、国連も国際協同組合年を制定してそれに力を入れた。あの「私たちはよりよい社会を築きます」とのキャッチフレーズは、競争と共生がほどよく均衡のとれた社会を言います。ところが、この視点、宇沢弘文先生がおっしゃった社会的共通資本、コモンズを大切にする視点、これがまったく欠落している。すなわち安倍政権の経済運営とは強者の欲望への寄り添い一辺倒であって、それがアベノミクスだということです。
3番目は協同組合に対する正当な評価です。協同組合のもつ社会的意味、役割に対する、適切な評価の尺度というものがまったく欠落している。JA全中をめぐって巻き起こった現実を総括すれば、一目瞭然ではないでしょうか。
全中はTPP反対を掲げてきましたが、一方、自民党政権はTPP反対のごとく装いながら政権復帰し、その実、TPPの推進役を果たした。実際、最近のTPA(大統領貿易促進権限法)をめぐって、米国議会が大統領にそれを委ねるかどうかでもたついたとき、日本がむしろ推進役を担ってお尻をたたいた。
さらに重要なことは、安倍政権が誕生そうそう真っ先に手を打ったのが規制改革会議の復活だったという事実です。同会議の農業WGの座長には農業者ではなく安倍首相の意を受けたITエンジニアが座りました。
彼は日本記者クラブの講演で何と言ったか。全中は強権を持つ巨大財閥だと。これにつづけて全中は廃止する、(規制改革会議の)答申では廃止という言葉が消え一般社団法人として存続となったけれども、しかし、これはいかようにも読める、と。また、協同組合と協同組合の間には競争が必要だ、と強調していました。私は、協同組合と協同組合の協同、つまり協同組合間協同が大切だ、と。それが今はまだ十分ではないと言ってきましたが、彼は逆に協同組合間の競争、あるいは株式会社化が必要なんだ、と。
こうした認識のもと全中を手始めに農協改革、市場主義的再編を迫る。政権交代ととともに協同組合にとってまさに冬の時代が始まっていたということです。このことをどう受け止めるのか。少なくとも今回の改革に対して過剰な適応を競うのではなく、JA自身が求めてきた改革と、政府が迫る改革、つまりアベノミクス成長戦略における改革とは質的にまったく違う、そこのところをはっきり識別することが大切だと思います。
(写真)内橋克人氏(経済評論家)
◆新安保法制とTPPは一体
内橋 もうひとつ重要なことは、TPPを環太平洋パートナーシップ協定などと呼んでいますが冗談ではない。正確に環太平洋戦略的連携協定と呼ぶべきです。そのなかには2つの連携があって、1つがTPP、つまり、モノやサービスの完全自由化ということです。もう1つ、重要なことは安倍政権が焦りに焦っている例の新安保法制。つまり、軍事です。軍事と経済、環太平洋戦略的経済連携協定と環太平洋戦略的軍事連携協定、この2つを一体的に押し進めようというのが真意だということです。この2つを分けてTPPはTPP、新安保法制は安全保障問題ととらえがちですが、本当は一体だということです。
実は、政権交代直前、ジャパンハンドラーと呼ばれる米国のアーミテージ元国務副長官による第3次レポート(対日要求)が突きつけられています。そのなかにはっきりとホルムズ海峡における機雷掃海のことが出てくる。今回の安保法制問題で突然のごとく安倍首相が持ち出しましたが、そっくり同じ言葉が、この対日要求書にはすでに明白に出ていたということです。日本単独で機雷掃海を、とまで要求しています。むろん、同時にTPPを推進せよ、と。ですから日米軍産複合体を最終的な目標として進めている。
こういう構造への認識、全体的な深い理解が必要なのであって、そのなかで協同組合が担うべき新たな役割、新たなミッションはどうあるべきか、考えていく。強者の欲望に寄り添うアベノミクス、さらには社会全体がアベノミクス化していく、その途上にある日本社会という厳しい問題意識の共有を協同組合の方々には強くお願いしたい。
そのうえで、協同組合間協同によって協同組合自身が新たな基幹産業を立ち上げていく。事業性と運動性をきちんと両立させながら、そういう理想、あえていえば理念型経済の実現に向けて本気の改革に挑む。協同組合への市民の期待もそこにあると思います。
◆TPP反対の運動再構築を
森島 内橋先生の分析と提言をふまえて議論を進めていきたいと思います。まずは北海道ではTPPとどう向き合ってきたのかなどをお話いただけますか。
太田原 マスメディアではTPAが成立したことから、TPPそのものの妥結が最終段階に入ったという報道がされていますが、私はそうは思いません。TPA法案が実は僅差で可決したことを見ても、TPPについてはアメリカのほうこそ尻に火が点いたということだ見ています。アメリカの人たちは、TPPについて最初はあまりよく分からなかったらしいです。そこに火をつけたのは明らかに日本の反対運動です。アメリカでは労働組合を中心にTPPとは何なのかと議論するなかで自分たちの問題であると認識し、さらに労働組合だけではなく消費者、環境団体などもTPP反対に回ってきて、かりに合意があったとしても本当にアメリカ社会が認めるのかどうか、微妙なところに来たと思います。
それから、日米は閣僚会議で大筋合意することを望んでいるようですが、12か国全体での合意はそんな簡単なことではないと思います。事務レベルでもほとんど詰められていないわけですから。交渉を重ねるにつけ、各国ともTPPはアメリカの多国籍企業の利益本位だということがよく分かってきて、国単位で抵抗が強くなってきている。とくにベトナムやマーレシア、ペルーなど途上国とのかい離はあまりにも大きい。
ですから、今いちばん困るのは、マスコミ報道に乗せられてだいたい先は見えたとか、決まったと思い込まされることです。やはり日本のTPP反対運動を今こそ強めていかなければならない。この中心を担ってきたのが農協組織です。改めて運動の再構築をきちんとしなければなりません。
(写真)農協組織が中心となってTPP反対運動の再構築を
◆離農する理由「将来が不安」
太田原 というのも、TPPは何も決まっていないではないかといいますが、すでに影響は大きいからです。たとえば昨年、北海道の酪農家だけで200戸離農しました。これが今のバター不足の背景ですが、離農したのは高齢者や借金を抱えた酪農家ではなくて、ばりばりの中堅農家です。その理由はひとつしかない。将来不安です。TPPによる将来不安で足下の明るいうちに、借金ができないうちに、やめたいということです。こういうかたちですでにマイナスの影響が出ている。全国的にそうではないかと思います。
一方で稲作農家はどんどん離農しているような状況ではありません。実は北海道の稲作農家はがんばってきました。20年前は北海道の米はほとんど売れなくて人気がありませんでしたが、今では特A品種が3つもあります。新潟県と1、2位を争うところまできた。画期的な成果だと思っていますが、国は北海道でうまい米ができるはずがないとあきらめていました。それに抗して道立農業試験場に農協組織が1俵300円を集めて資金援助して新品種開発をしてきた。その意味では北海道の稲作については非常に明るい展望が見えてきたところです。しかし、そこに米価の大幅下落があって、しかもTPP交渉では主食用米の特別輸入枠5万トンだ、10万トンだといった話がでてきていますから、これも将来不安になります。
農協改革に関連していえば、政府は農家所得を引き下げて来た元凶は農協だといいますが、北海道からすれば引き下げてきたのは政府であって、それに逆らってがんばって引き上げてきたのが農協だということが非常によく分かると思います。
北海道はとくに重要5品目すべての産地であり、基幹作物です。そのためにオール北海道で反TPP運動を展開してきたわけで、それを今の段階で頓挫させるわけにはいきません。
(写真)太田原高昭氏(北海道大学名誉教授)
◆TPP推進は農業をつぶす
森島 それでは天笠会長、お願いします。
天笠 民主党政権時代に菅総理がTPP参加検討を表明して以来5年、青年部の盟友はつねに農政運動を繰り広げてきました。国会議員への要請や議員会館前の座り込みなどを行ってきましたが、今回、そのしっぺ返しが農協改革なんだとみんな思いました。非常に悔しかったのは、今までずっとTPP反対運動を繰り広げてきたわけですが、昨年末の衆院選のときは、TPP反対の旗を掲げようとするとかなりの圧力があったことです。
われわれ若手としては、私たちの子ども、孫まで持続可能な農業を続けて国土を守っていきたいと考えています。畑にはそこに歴史と伝統と文化、すべてが蓄積されている。土壌のなかにはそのすべてがある。それを引き継いでいきたいと思っています。
しかし、産業競争力会議をはじめとする官邸主導の政治の力は本当に強く、実は26年度は一度も農政運動ができませんでした。昨年、農協改革が焦点になってからは、それぐらいの圧力がありました。
そのなかでわれわれの農協を守っていけるのかと考え、JA全青協として独自に意見書も出しました。自主自律の協同組合であるなら、われわれ青年部の意見を組み入れてほしいということです。
その意見として強調したのは、農協はあくまでも営農経済が中心だということです。そこをわれわれは前面に出し、農協改革のなかでもう一度そこを意識づけして、今回の改革を自己改革として位置づけることができるように取り組んでいこうではないかということでした。
ただ、結果としてみれば萬歳会長も准組合員問題か、全中か、という選択肢のなかで、やはり准組合員問題を選ばなければ地域の農協は守れないという苦渋の決断をされたということだと思います。秋に行われるJA全国大会の議案は相当な議論が必要だと思いますが、何よりいちばん大事なことは全国に690あまりあるJA組合長の采配です。それによって地域の組合員、准組合員の方々が農協を向いてくれるようになり、そこで准組合員も農協を応援するパートナーとして考えてくれるようになるのではないかと思います。単位農協というのは出資者も利用者も地域住民ですから、その原点に立ち返ることが必要ではないかと思っています。
そしてTPPについては7月末の閣僚会合で大筋合意かと言われていますが、われわれとしては総理が農業を守るといった以上は、まず総理に説明責任を果たしてほしい。TPP交渉担当の甘利大臣にも説明責任を果たしてほしい。今年全国で盟友は3000人減りました。それは太田原先生の指摘のように、やはりやめざるを得ないということです。
今農業をやめれば借金をしなくてもいい、と。そんな苦渋の決断でやめていく農家も多い。安倍総理にはそういう現実を見ていただきたい。あなたがTPP交渉を推進しようとしていることは、農業つぶしですよ、と。それは生命の存続ではなく、生命を止めてしまうようなスタンスではないか。同時にわれわれがこのような要請をする国会議員の力が弱くなっていることも非常に問題だと感じます。
(写真)天笠淳家氏(全国農協青年組織協議会会長)昭和47年群馬県太田市生まれ。平成21年群馬県農協青年部協議会委員長、26年JA全青協副会長、27年5月から会長。経営は水稲、小麦など。
◆「新ルール」で制度が変わる
天笠 また昨年は、大きな米価下落がありました。地域によっては1俵4000円も下がるなかで、年を越せない農家も非常に多かったと思います。大きな農家であればあるほど打撃を受けたのは当たり前である一方、政府は規模拡大を押し進めてきたし、さらに進めることによって10年後に所得倍増だといってきました。しかし、われわれからすれば今後TPPを加速させるためのワンステップとして米価を大幅に下げたのだと見えます。米価水準は概算金が問題だという言い方もありますが、政府の生産調整政策に問題があると思います。人口減少しているなかで生産調整があって米価が決まるというのが原理だと思います。守るべきものは守るといっているのであれば、しっかりと米対策を考えていただきたい。
われわれの組織は運動体だと思っていますから、北海道から九州まで盟友を集めていろいろな運動を展開しようと思っています。そのなかでまずは国民のみなさんに現状を知っていただきたいと考えています。
内橋 TPPについて理解を深めるために改めて強調したいのは、協定が締結されればモノやサービスが完全自由化に向かうだけでなく、より重要なことは社会のルールが変わるということです。
それを理解するため私はいつも日本の林業がたどってきた運命について話しています。日本は森林大国です。先進国ではフィンランドに次いで第2位。その日本がどうして国産木材の自給率がやっと26%なのか? 一時は19%に落ちたこともあります。
まず、1964年に木材輸入の自由化が行われた。日米安保条約と歩調を合わせて...。安保条約は軍事だけでなく経済協定でもある。その安保改定によって1976年には日米林産物委員会が設置されました。
そこで何がなされたかといえば、建築基準法を変えた。JASも変えられました。それで新たな規格になったのが2×4(ツーバイフォー)工法です。アメリカの2×4に日本建築資材規格が変えられてしまった。その結果、それまでの日本材を使った建築業がどんどん倒産に追い込まれ、1年で3000社以上倒産した年もある。アメリカの巨大な建材資本、合板とか単板メーカーによる輸入ラッシュです。日本の住宅建築のあり方が2×4に変わっていったという、ルールの変更ですね。それとともに日本林業が衰退の運命をたどる。日本の林業は森林の維持が困難になるほどの窮地に追い込まれ、結果、いま全国各地で土砂災害が絶えない。
森林のつぎは米、やがて農業全体の番ではないか。関税引き下げだけではなく、建築基準法が変えられたようにルールの変更がもたらされるわけです。ルールの問題としては、まさに国民皆保険制度をはじめ医療、福祉、介護の制度も変えられていくでしょう。これがTPPの本質であり、さらに先ほど指摘したようにホルムズ海峡に自衛隊が出て行けるようにする新安保法制が一体的に進められる、そういう総合的な認識が必要です。
(写真)組合員目線の農協改革と協同組合間協同の実践が課題
◆第1次産業は地域経済の柱
森島 北海道ではオール北海道でTPP反対運動を展開してきていますが、その経過について太田原先生から改めてお話しいただけますか。
太田原 TPP反対のオール北海道体制の特徴は、道経連(北海道経済団体連合会)が加わっていることです。経済界も農林水産業がつぶれたらまさに地方経済はあり得ないという認識を持っている。しかし、これはにわかに言い出したわけではありません。
北海道の経済界がいちばん危機感を持ったのは拓銀がつぶれ北海道開発庁がなくなったときです。このままでは北海道の経済はもたないという危機感があって、道経連として北海道経済をどうするか独自の研究をやったんですが、その方法が面白かった。
北海道の人口は500万人だから、世界をみればこのぐらいの人口の国で一流国はたくさんあるではないかと、そこに視察に行くという極めて実践的なことをした。オランダ、デンマーク、フィンランドなどに行き、そこで発見したのが、どの国も第一次産業がベースになっていることでした。しかも、1次産業で培った技術が先端技術になっていた。たとえば、世界的に有名な携帯電話会社のノキアはフィンランドの企業です。なぜフィンランドで携帯電話が発達したかといえば林業国ですから、山仕事に無線電話が必要だったからです。それから今や日本でも増えている風力発電の風車は、みなデンマークからの輸入です。
内橋 デンマークの風力発電は協同組合が行っていますね。あの国のエネルギー自給率は今や200%近くになっているのではないでしょうか。食糧は300%です。
太田原 風車1基を建てて回すとちょうど酪農家4軒分の電力を生み出すという話でした。だから酪農家4軒が集まって協同組合をつくり発電すればいい。それでどっと普及していき、ついに輸出産業にまでなったということです。
これらの国の視察から第一次産業を大事にし、そこに立脚していかないと地域経済は成り立たないという考えを北海道の経済団体は持つようになった。そこで農業団体と密接に連携し、たとえば道産米の愛食運動は、企業の社長さんたちが駅前に立って、みなさん北海道米を食べましょう、と呼びかけた。こういったことをずっと積み上げてきて、今のTPP反対オール北海道体制になっているわけです。
(写真)森島賢氏(立正大学名誉教授)
◆北欧の諸国は協同組合国家
太田原 そこで思うのは、あのとき北海道が視察した北欧諸国はよく福祉国家と言われますが、実は協同組合国家といったほうがいいのではないかということです。たとえば、日本では生協のマーケットシェアは3%ぐらいですが、フィンランドは40%です。だいたい数10%というレベルで協同組合が生活のあらゆる分野に入っています。だから生活のなかで、協同、助け合いが協同組合の事業を通じて当たり前のことになっています。
それがあるから高福祉政策のために高い消費税を負担することに大きな抵抗がない。ですから協同組合国家といったほうが、なぜあれだけ高度な福祉政策がとれるのかがよく分かると思います。
ですから内橋先生の問題提起にあるように、競争、競争の新自由主義では絶対にそうはならないわけで、むしろ協同組合セクターががんばることによって、そういう未来像が描ける。ただ単に農協の組織防衛のためとか、農産物の自由化から守るためというだけではなくて協同ということをどう社会の基軸にしていくかが大事なことだと思います。
内橋 デンマークの場合、私が提唱してきたFEC(フード、エネルギー、ケア)の自給圏を地域、地域で形成していくわけですね。とりわけ一定地域内でのケア自給がユニークです。すべて協同組合が主体的に関わっています。
日本がいきなりそうなるというわけにはいかないと思いますが、私は新しい基幹産業としてFEC自給圏を形成し、雇用も生みだす。そのためにも協同組合間協同が求められると思います。それは産業連鎖、Aという産業の廃棄物はBという産業の原料になる。Bという産業の廃棄物はCという産業の原料になる。こういう新たな産業連鎖をさまざまな協同組合間協同によって形成していく、そういうつながり方ですね。
◆建て前論排し本音の議論を
太田原 協同組合の重要性をご指摘されました。しかし、今回の農協改革問題については市民サイドからの関心はまったくありませんでしたね。TPP問題についてはこれまでも非常に関心があって勉強しようという動きがあったのですが...。農協が攻撃されているということは、このままでは生協も攻撃されるという話をしたことがありますが、まさか、という反応でした。
内橋 今回の農協改革は、県組織と地域農協がこれからがんばれば所得が向上する、という。逆にいえば全中があるから単位農協が活躍できなかったんだ、と。そういう理屈ですね。これこそ協同組合つぶしそのものです。今回、政府の全中改革に抗う協同組合間協同の力がなぜ湧き起こらなかったのか、私には不思議。非常に大きな疑問です。
太田原 一般市民から見て農協は自民党とともにあったし、農協側もいろいろな問題があっても自民党に頼れば何とかなるという姿勢が戦後ずっと続いてきたわけです。今回はその自民党から攻撃されている。これは非常に大きな変化なんですが、農協も、あるいは生協などの周辺も含め、これまでの惰性のなかでまだ考えているところがあるのではないかという危機感が私にはあります。
内橋 国際協同組合年を機に協同組合がまとまろうという動きにはなりましたが、それは結局、イベントに過ぎなかったのではないか。本当の意味での協同組合間協同に向かっていたのかどうか。農協改革もその弱点をうまく突かれた、ということではないか。ものすごく深い本質問題があって、そこを避けて、いくら建前を論じても人々の心を打つことはないでしょう。結局、自分で選んだ議員、政党によって自分の首を絞められるということになっている。根本的な本音の話、これを一度やらないと立ち向かえないのではないか。それこそが協同組合の危機だと思います。
天笠 農協改革の議論のなかでは賦課金のことが上納金などと報道されました。われわれもそれは違うだろうと思ったわけですが、農協組織への理解を得るにはまず地域住民から信頼されなくてなりません。全中改革についても正直いえば現場は冷たい反応でした。ただ、農政運動のまとめ役が失われつつあるということについて、次の展開をきちんと考えている人がいるかどうかということだと思います。それを考えると、内橋先生がおっしゃるように協同組合間協同にしっかりと取り組むことが必要なのかと思います。
そのためにも広報活動が大事だと思います。JAグループも各連合会がコマーシャルを持っているわけですが、なぜそこは1つにならないのかということも提起していますが、少しづつ変わってきているようです。もっといえば地域の農業者たちにCMに登場してもらって訴えていけばいい。農協とは地域の農業者、住民の協同組合だという原点に返ったPRも必要だと思います。
太田原 組合員目線の農協改革にはまさにそれが必要で、国民にどう呼びかけるか、そこが極めて重要です。
内橋 いま、強権支配がこの国を覆っています。対抗軸をつくれるのは協同組合です。協同組合社会に向けて一歩を踏み出す。強く求められている使命ではないでしょうか。
天笠 北海道は実は109JAのすべての組合長が青年部出身なんです。それが素晴らしいところです。農業をやっている組合員がトップになる。これからはそこをみなさんと共有したいと思っています。
今日は、歴史も含めて学ぶべきことはしっかり学ぶことが大事だと思いました。そのうえで今後は先々を見据えて自分たちがどう活動できるか、次世代を担う人間としてこうした問題意識を必ず外に発信して、協同の力でやるしかない。国民のみなさんに周知徹底するための広報をすることも重要な課題だし、それも運動体としての力だと考えています。
森島 ありがとうございました。
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