農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業
詭弁の極み、農業バラ色論2015年10月14日
小内敏晴・JA佐波伊勢崎理事
多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載していくことにしている。
今回は、JA佐波伊勢崎(群馬県)の小内敏晴理事のご意見を掲載する
◆聴く耳持たぬ反対封じ
大方の予想通り、慎重であるべきはずの日本は、最後までの国益を追求するどころか合意へのイニシアティブを取ったようである。自民党は2年前の衆院選で「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り交渉参加に反対する]との公約を掲げ衆議院選で圧勝したが、この時から胡散臭いと感じていた。
民主党が掲げた政策だったが、要はアメリカからの圧力であり、中野剛志氏や鈴木宣弘氏が理論整然とISD条項やラチェット規程などの危うさを訴えても、また大陸農業とわが国農業の本質的違いを説明しても聞く耳を持たない異常さだった。また1200万人の反対署名を集めたJAグループには、長年の信頼関係を裏切るバッシングを指示。およそ民主国家にあるまじき露骨な組織干渉を行い、事実上の反論封じを行うなど、浅ましい限りだった。
農業分野で申し上げると、その影響についてすべてが楽観的な解釈で、あげくには高齢化や後継者不足は農協・農業界の努力が足りないと断罪するありさま。「社会的共通資本」(宇沢弘文氏)である農協の解体指示に至っては正気を逸していると言わざるを得ない。
高齢化や後継者不足も、農業が儲からないからの一言に尽きる。なぜ儲からないか。長い間他産業発展のため、政策的に低位に置かれたためである。
◆飼料用米の努力も水泡に
話を元に戻そう。風雲急を告げる世界情勢の中で、国の存亡をかけた故のブロック経済への参加だとすれば、それを国民に丁寧に説明することが国の使命である。その中でギリギリの国益を追求し、そのために農業界に理解を求めたなら、承服できないにせよまだ分かる。だが、TPPが締結されれば、やり方次第ではバラ色の農業を確立できるかのごときは、詭弁の極みである。
TPP大筋合意を受け、農業分野についての大手メディアのコメントは「円安によりその影響は軽微である」といった実にノーテンキなものが多い。ある新聞などは「食品値下げに期待 消費者の選択肢拡大」などと第一報を報じている。「失われた20年」の間、強烈な円高で苦しめられたことは忘れてしまったようである。
稲作農家は昨年の米価下落を受けて需給調整のため飼料用米への転換を急いでいる。その目標値は110万トンである。110万トン生産するためにどれほど水田を必要とするか。なんと14万haである。1ha100万円の転作奨励だと1400億円の財政負担を伴う。もちろん毎年である。これを食する畜産が壊滅的打撃を受けるとすれば、この努力も水泡に帰す。
米はもちろん、豚肉、牛肉、かんきつ類など、これほどの譲歩しながら代わりに何を得たのか。象徴的な自動車業界はどうか。どうも域外からの部品調達による「原産地規定」に苦しめられそうである。
◆途上国の産業の衰退招く
なにより、日本はこれまでWTO の「自由・無差別・互恵」の理念を交渉の根本としてきた、これは東アジア諸国の中で比較的早く経済成長を達成したがゆえの途上国への配慮であったと考えている。
大筋合意に至ったTPPが発効すれば、ますます比較優位な国の産業は低位国の産業を衰退に追い込み、生存権そのものを簒奪する恐れがある。内とそれ以外を峻別する世界経済の流れに抗するには、せめて自国農民と国民の食糧自給権を守るためには、どうすべきか重い十字架を背負わされた思いである。
(関連記事)
・【緊急提言】 TPP「大筋合意」の真相と今後の対応 食料・農業の未来のために 戦いはこれから (15.10.07)
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