農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業
「TPP大筋合意」とは何たることか!抗議する!!2015年10月15日
福岡県稲作経営研究会
顧問井田磯弘
髙武孝充
会長高田和浩
多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載していくことにしている。
今回は、福岡県の生産者んの組織である福岡糸島稲作経営研究会のご意見を掲載する
なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。
tpp@jacom.or.jp
◆国会決議は守られたのか
わたし達は福岡県の糸島稲作経営研究会の会員で米麦を中心とした専業農業者である。2014年発足30周年を迎えた歴史を持つ。今回のTPP交渉については、最初から反対の立場を貫いてきた。そして自民党の選挙公約(2012年12月)、衆参両院農林水産委員会決議(2013年4月)に僅かな望みをかけながら注視してきた。今回の大筋合意には全く裏切られたと考えている。
安倍首相は10月6日の記者会見で「我々は国会決議を守った。農業者に不安があることは十分承知している。若者はこのチャンスを活かして欲しい。さらに、政府全体で責任を持って万全の措置を講じていく」と述べた。
まず、第一に農業分野に関する「国会決議を守った」ことの意味は「聖域なき関税撤廃はせず、関税ゼロとはしていない」を指しているのだろう。第二に「万全の措置を講じていく」とは収入保険を早期に導入して農業経営を安定させるということだろう。第三に国会決議にもあった「食の安全・安心及び食料の安定生産を損なわないこと」は触れなかった。おそらく記憶にないのであろう。
果たして国会決議等を守ったことになるであろうか?
◆計り知れない経営への影響
私たちは米麦専業であるからこれに限って具体的にいうと、
1)米はミニマムアクセス(=76万7000トン)のほかにアメリカとオーストラリア向けに当初5万6000トンから13年目以降は7万8400トンの追加輸入枠を与え、ミニマムアクセス枠内部でも6万トンを事実上アメリカ向けとなる中粒種・加工用限定種とした。
2)麦はWTOのカレントアクセスのほかに、アメリカ、カナダ、オーストラリア向けに小麦で当初19万2000トンから7年目以降25万3000トン、大麦で当初2万5000トンから9年目以降6万5000トンの輸入枠を与え、さらにこれら国家貿易全体に対する関税にあたる実際のマークアップを9年間で45%削減するとした。
小麦を例にとると実際のマークアップが1kgあたり18~20円であるから9円前後になる。ゼロではないから言葉上国会決議等を守ったというが、私たちの経営には計り知れない影響を心配している。
実際に麦は生産条件不利補正交付金がないと経営は成り立たない。この財源さえ削減される可能性がある。
◆「収入保険」は万全の措置か
自民党は今後10年間で全農地の8割を担い手に集積するとして農地中間機構を各都道府県に作った。また、コスト4割を削減して競争力のある農業に改革するという。あまりにも抽象的で農業生産現場では誰も信じていない。安倍首相に代表されるように全く現場を知らない者が描いた餅である。これがTPP対策であれば具体性がなく、農業農村の所得を10年で倍増するというのも空々しく聞こえる。おそらく実現はしない。
次に、「万全の措置」として考えられている収入保険は果たして経営の安定に対して万全か?これは98年産米から導入された稲作経営安定制度以降、趨勢的に米価が下落するなかで、補てん基準価格が下がって毎年見直しの連続であったことを記憶している。また、政府3、生産者1の割合で拠出金を造成するとしているが10%以上下落した場合は財源がもたない。当年産価格と補てん基準価格との差額の9割補てんであるから政府の財源は67.5%(9割×4分の3)である。こうした仕組みでは補てん金収入が経営安定に寄与しないことは経験上百も承知だ。さらに、「食の安全・安心及び食料の安定生産を損なわないこと」についてはどうか。TPP交渉参加直前にアメリカにたいしてBSE要件を緩和した。遺伝子組み換え食品の表示問題も国民に不安を与えている。これらについて政府は何もコメントしていない。
今後、協定文の確定、それに対する国会承認の議論が始まる。この秋の臨時国会開催に政府・与党は消極的な態度である。公約違反、国会決議違反を追及されるのが怖いのだろう。忘れないで欲しい。来年は参議院選挙である。うやむやでは終らせない。
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