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農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業

怒りと光2015年10月20日

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小松泰信岡山大学大学院環境生命科学研究科教授

 多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載していくことにしている。
 今回は、岡山大学の小松泰信教授のご意見を掲載する。

◆蔑ろにされた国家の主体性と多様性

 「私はTPPに大反対です。それは農学部の教員であることや農業協同組合論を専攻しているからではありません。もし、TPPがわが国の農業に少なからぬメリットをもたらすとしても断固反対します。それぐらい多くの重大な問題点を抱えているからです。とくにその精神が、国家の主体性と多様性を蔑ろにしているからです。象徴的なのが、関税撤廃とISDS条項です。まして、農業にも多大なデメリットをもたらすことが容易に想定されるわけですから、賛成する理由はどこにも見あたりません」。
 これが機会あるごとに発してきた、TPP反対表明である。
 さらに、なりふり構わぬ「違憲」安保関連法の成立以降は、「とにかく安倍さんのすすめることは全否定すべきです。日本のことも日本国民のことも、もちろん農業・農家・農村、まして農協のことなんか歯牙にもかけていない、米国政府やグローバル企業の走狗による痴言ですから」と言うことも忘れずに付け加えている。
 彼の痴言の一つに、「時間がたてば、国民の理解が広がる」というのがある。だから、国民の理解がなくても、自分が正しいと思うものはやる、ということのようだが、民意無視も甚だしい。"最高責任者は私です"と耳を疑う発言ができる人ならではの言ではあるが、無恥は拡大再生産される。この痴言病が閣僚にも伝染したのか、TPP大筋合意に関連した森山農相の「私は国会決議は守れたと、実は思っている。ただ、今から対策をしっかりしていって初めてそのことが成就すると思う」という、国会決議軽視の言葉は、憲法を平気で蹂躙する集団の一員にしか発せられないものであろう。"恥ずかしながら守れませんでした。力及ばぬ苦渋の決断でした。だから、これからしっかりと対策をとっていきますから、ご協力いただきたい"と、本音のルビを振りたいところである。

◆「最後は金目」ですか?

 だとしても、軽々に許すべきではない。自国のために懸命に交渉に当たる某国に対する「頭を冷やしてもらいたい」や、他国よりも一足先に交渉を終え「大筋合意の見通し」と、確信犯的フライング発言を垂れ流した亡国の甘利大臣の言動からは、アメリカへの譲歩でお役ご免、というシナリオが透けて見えてくる。そのシナリオの続きは国内対策。
 日本経済新聞10月15日号によれば、"農業団体は表向き抑制的だ。...農水省幹部はTPP交渉が大筋合意する直前こう忠告していた。「安倍さんを怒らせたら農業対策費が1円も出なくなるぞ」。農業予算を目の前にぶら下げられては正面から批判しにくい。"とのこと。
 官邸と官僚が与太者以下であることを示すこの内容が真実だとすれば、聞き捨てならない問題発言である。対策費ゼロ状態が何をもたらすか、官邸や官僚に味わってもらうことも一考の価値あり。ところで、石原伸晃の迷セリフ「最後は金目でしょ」が思い出されるが、農業団体の皆様、やはりそうですか?
 もしそうだとすれば、あなた方も同罪です。

◆一人ひとりの怒りを結集

 最後に、TPP参加後の対応について書いた拙稿の一部を紹介する。
 "...自問の結果として出てきた戦略が、食料生産のプロとしての強みを最大限に生かした「強みこそ武器」というもので、さらにそこから提起されるのが、ソフトとハード、両面からなる戦術です。
 まずソフト戦術は、国外からいかなる農畜産物が来ようとも、多くの国民に支持され、選ばれ続ける農畜産物を生産するという、オーソドックスな誠実かつ愚直な戦い方です。
 他方、「伝家の宝刀」を抜くことが、ハード戦術です。TPP賛成論者や無理解な国民に対して、農畜産業なかりせばという状況を現実に示すべく、全国の農畜産業者がゼネラルストライキに突入することです。まさに平成の兵糧攻めです。
 ストライキが死語となりつつあるわが国では、過激かもしれませんが、農産物の生産額が年間4.1兆円程度減少し、食料自給率が40%から14%程度に減少するという、農林水産省による影響試算を国民に体験してもらうことも、有事への備えとして不可欠なことでしょう。
 もちろん、宝刀を錆び付かせないためにも、そして竹光ではないことを世に知らしめるためにも。"(「ホウトウ」『わいわいがやがや』JA岡山職場内報、2011年、vol.7)
 農業に携わる人々は、泣き寝入ることなく本気で怒るべきである。農業団体は一人ひとりの怒りを結集する努力をすべきである。怒りの向こうに、一条の光が見いだせることを信じて。

 なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。

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