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農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業

消費者も何かしなければ2015年10月22日

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小林綏枝(元秋田大学)

 多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載していくことにしている。
 今回は、消費者でもある元秋田大学教授の小林綏枝さんのご意見を掲載する。

小林綏枝氏 TPP交渉が大筋合意したそうな。遂に来るべきものが来たのか。
 とは言え事の重大さに比べてあたりはいたって穏やかだ。「TPP?ああ、決まったみたいね~」「バターが出回るかしら」「食料品が安くなるの」。栄養学を修めた友人も「遺伝子組み換えって何が問題なの、人類は自然に組み換わった食物を食べて来たのに...」。確かに今の所、我国の食をめぐる消費環境はかなり安穏だ。
 しかしこの穏やかな消費環境に至るまでには長い年月をかけた沢山の消費者の苦しみと努力とが重ねられて来た。物やサービスを買って消費するだけで被害を被る。森永ヒ素ミルク事件、カネミライス油事件等、人が今までに経験した事の無い被害である。被害者は原因も治療法も分からず周囲の偏見や差別に苦しみながら戦わざるを得なかった。ようやく原因が究明され、責任が問われ、その対処方法が社会に定着するまでには長い年月が費やされた。
 こうして多様な消費者保護や権利擁護制度が成立し、その下で現在の安穏さがもたらされたのである。

◆新食品表示法

 ほぼ2年前に公布され、この4月に施行された新しい食品表示法は従来の食品の表示に関わる三つの法のうち食品表示基準に関わる部分を一元化したものである。法と法の間の齟齬を整理し、消費者の安全や、表示の適格性確保を目的としている。
 この法への期待は大であったが次の点で不満の残るものとなった。TPP合意との関連で言えば、最も消費者の関心が集まる事項の先送りである。列記すれば、「加工食品の原料原産地表示」「中食・外食へのアレルギー表示」「インターネット販売への取り扱い」「遺伝子組み換え表示」「食品添加物表示」である。
 TPP合意が実行されれば、僅か14%の自給食料の上に輸入食料86%が雪崩れ込んでくる。この輸入食料が加工された場合、どこの何が使われているかを知る事は消費者にとって必須である。「アレルギー表示」も同じ、まして「遺伝子組み換え」や「食品添加物」表示にいたっては、これらを欠いて何が新表示法かといいたい。公布から施行までに2年もあったではないか。いずれも「今後の検討課題」だそうだが勘ぐればTPP合意を見越して制定を伸ばしているとも受け取れる。

◆息巻くアメリカ

 それにしてもあれだけ声高に息巻いていたアメリカの議会筋や業界団体は、TPP合意がなされたらおとなしくなるのだろうか。気がかりである。
 我国の法に基づいてなされた輸入制度、残留農薬や基準を逸脱した牛肉、GMO製品の表示の義務化に対して「非科学的だ」「不当だ」「国際基準を無視する」「米国で安全だから安全だ」等々の罵声を浴びせていたのだから。
 だが我国は自国の法により「ダメなものはダメ」と言い切れた。
 しかし今後はそうは行くまい。彼らはISDSという武器を持ったのだ。「GMO作物」「牛肉の月令制限」「牛肉や米のトレーサビリティ」「セロリやイチゴに対する農薬の残留基準」「冷凍食品に対する細菌含有規格」「防カビ剤を含む食品添加物の小売り時点に於ける告知要求」等々の「不当さ」「非科学性」「不必要性」を声高に叫んで来た彼らが黙するとは思えない。
 その時、我が国政府はどう対応するのか。まさかこれまで消費者運動とともに築きあげた諸規定を反古にするのではあるまい。政府の対応が注目される。

◆同朋を市場に

 TPP規定の中にも濫訴を制限する条項はあるそうだが、その効力のほどは知らない。相手は世界を席捲する巨大資本だ。ひとたび訴えられたならば、その対応には多大なエネルギーが費やされるであろう。
 勿論どんな企業が訴えを起こすか分からないが、オバマ大統領夫人が官邸の庭に作ろうとした有機農業の畑にクレームを付けて止めさせたとか、国民の肥満対策に打ち出された「食べる量を減らす」方針が食品業界の激しい抵抗にあう等にその凄まじさが見て取れる。
 マリオン・ネスル著『フード・ポリテクスー肥満社会と食品産業』は栄養学者を味方に抱え込み、大学の学科を買収し、気に入らぬ相手を名誉毀損で訴えるという食品産業の企業支配を描き出している(村田武『現代の論争書で読み解く食と農のキーワード』)。
 私はこの9月にアリゾナ、ネバダ、カリフォルニア州をバスで旅した。ほぼ20年前、同じく西海岸を旅したが、その時はホームレスの多さには驚いたものの市民の肥満には気づかなかった。しかし今回は違う。町中でも砂漠でも見かける人の殆ど3人に1人が肥満体、それも日本では見かけないような膨らみ方である。驚き呆れて思った。「こういう国民を率いて大統領になろうとする人がいるなんて!」と。
 食品産業にとって同朋は市場、まして太平洋を隔てた島国の民が痩せようが太ろうが、残留農薬を食べようが何と言う事もあるまい。

◆TPP攻勢に抗して

 この間、我国の政財界人の言動を見てようやく気がついた。彼らは農民的経営、家族農業を駆逐しようとしている。「農業は大切、守らなければならない」「日本の農業は優秀」と言う。だが彼らに大切なのは農業であって農家ではない。
 農家には「高齢化しているではないか」「跡継ぎもいない」「生産性が低い」と攻撃を加える。その一方で「高く売れるものを」「輸出用の高品質の作物を」と要求する。農業の経営主体は株式会社でも、差し当たって集落営農でも良い。経営面積の拡大と安い労働力、これが肝心なのだ。
 家族農業を消滅させるため、その基盤たる農協法は既に改正した。農地法も農業委員会もコントロール下に治めた。家族農業の外堀は埋められた。残るは安い労働力の確保だが、これはTPPの効力発揮を待てば良い。
 しかし彼らの思う通りにさせてはならない。
 家族経営は日本の風土や文化と分ち難く結びついている。土地を、水を、山を、資本の簒奪の下に置くわけには行かない。
 そのために消費者は何をすれば良いか。素性の明らかな農産物の購入である。
 今も国産品は貴重だがTPPが効力を発揮し始めた暁には、更に貴重なものとなろう。国産の農産物を確実に入手できる場所や手段が欲しい。そのためのネットワークを全国に張り巡らせることは出来ないものか。TPPに心を痛め安全を求める消費者の要求であるはずだ。
 農協や生協、労働組合等々、心ある人々や組織の連帯で何とかこの難関をしのぐ手立てが出来ないものであろうか。

なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。

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