農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業
ごまめの歯軋り2015年10月26日
JA松本ハイランド代表理事専務理事髙山拓郎
多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載しているが、今回はJA松本ハイランド(長野県)の髙山拓郎専務理事のご意見を掲載する。
私は常々農業は損得産業ではなく生命産業であると語っている。同時にコミュニティーや地域社会を守ることに協同の力や絆が無くてはならないものとも伝えている。
「お互い様」こそ私たちにとって最も大切にしなければいけない言葉でもある。ところが、今の政治はどうだろうか。リスクだけを生産者に押し付けようとしてはいないだろうか。生命産業が消滅したらおしまい。リスクはみんなが共有しなければ都市も含めた地域社会は成り立たない。
◇
TPPが大筋合意となった。薄氷の交渉だったとのことであるが、閣僚会見でも美辞麗句ばかりが並び大筋とは何なのかさっぱりわからないのが一般国民の感情ではないだろうか。特に我が国だけが先へ先へと急いでいたような気がするが気のせいかどうか。
交渉の後半は日本が行司役に回ったと思ったらどうもそれも怪しい。前回までの交渉で切れるカードはすべて切り切った「充足感」に浸っていたとも...
◇
そもそも、TPP交渉参加に際し、首相は「オバマ米大統領との会談で、聖域なき関税撤廃は(交渉参加の)前提ではないことが明確になった」と語った。
TPPそのものがまさにすべての産品に対する関税撤廃が前提でないことくらい初めから承知していたにもかかわらず、そのようなことが交渉入りの判断材料になったとしたあの会見に込められた意味をもっと深読みすれば事態は異なっていたのだろうか。
この発言についてどこの報道機関も異を唱えずお友達記事ばかりであったような気がする。報道の権威も洞察力も落ちたもの。そうはいっても、私たち自身ももっと発言に対して鋭い感性をもって受け止める必要があったのではないかと、今更嘆いても後の祭りではあるが。
◇
重要品目ばかりに着目した結果、「8割の農産品が関税撤廃」との報道に接し、「まさか」と思った農業者がほとんどではなかろうか。
こうなったからには、国会が決議したことが本当に遵守されているのか、まず、国会が検証するべき義務を負っていると感じている。
そして、私たちは国会の検証結果について精査し選挙を通じてその意思を明確にしていく必要がある。その上で、我々としても重要品目のみにこだわったのは果たして正しかったか内部の検証も必要であり、その結果は組合員に対し当然説明されるべきであると思う。
◇
今後、農業対策についての議論が本格化してくるだろうが、少なくてもEU諸国のように国民全体が農業支援に対する思いを共有できる対策でないと、その場しのぎの繰り返しに終わってしまう。
まさか、札びらで農民のほっぺたをたたけば選挙に勝つと思ってはいないだろうが、全中もこのままでは批准に賛成できない、国民運動を起こすことくらい言ってほしいと思っているのは私ばかりではないはず。国の機嫌を損ねたら、農業支援はできないぞと暗に言われているのではないかと勘繰りたくもなる。
TPPがあろうがなかろうが農業の革新に向けた取り組みは我々に課せられた大きな命題であることは言を俟たないのは当たり前のこと。
◇
一方、農協改革については来年4月の法施行まであと半年。私たちがどうしても胸に落ちないのは、JA改革が誰のためのものか、何のためにするのかよくわからないことによる。
JAのせいで地域の農業や経済振興が阻害されているのなら大問題であるが、具体例がない。農業従事者の高齢化、耕作放棄地の増大など日本農業が抱える課題は長年に亘る農政の付けが回ってきたのが主因で、JAに責任を押し付けたりJA全中の監査権限を排しても解決にはならない。
JAグループの営農指導はもとより、販売、購買、信用、共済、医療、福祉など組合員から必要とされているから総合事業が成り立っている。
◇
過日、農水省主催の説明会に参加したが、説明をする官僚の発言に唖然とした。
協同組合の自主性、主体性を尊重といいながら、5年間検証させていただくと、上から目線ばかり。とりわけ准組合員規制に関しては、規制するぞするぞと攻め込んできて、当面棚上げとなっているだけなのに、何も決めていないと言い、口の根も乾かぬうちに5年間JAが正組合員である農業者の所得向上にどう取り組むか見させていただくと、その結果によって判断しますよと。今後あらゆる場面でより一層人質の価値は高まるだろう。
◇
JAには多様な組合員が集まって互いに自主性を尊重しながら連携を取って強い農業を創っていく使命がある。そして、マーケットにも充分に対応する組織でなくてはならない。地域のきずなを大切に自立した組織でありたい。
組織の中には違うことを考えたり主張する人がいてもいいはず。若い人、高齢者、女性、いろんな人を積極的に取り込んでみんなで知恵を絞りだし議論しながら足腰の強い農業を創っていくことがあるべき姿と認識している。
持続可能な農業と地域社会の創造こそ今必要で、国家百年の計に立った政治を期待したい。
なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。
(関連記事)
・【緊急提言】 TPP「大筋合意」の真相と今後の対応 食料・農業の未来のために 戦いはこれから (15.10.07)
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