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農政:緊急特集 TPP大筋合意―どうする日本の農業

地域に根差す「地球人」として考えを2015年10月29日

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北見畜産北見則弘

 多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意への意見や今後の日本農業の在り方などについて、多くのご意見が寄せられている。これらのご意見を逐次掲載しているが、今回は畜産農家である北見畜産の北見則弘氏のご意見を掲載する。

◆苦渋を味わってきた生産者

北見氏 日本の第一次産業にかかわる者で、今回大筋合意したTPPを歓迎する声がどれくらいあがっているだろうか。国内養豚業としては、不正の温床としてさまざまな関係者から指摘されていた差額関税制度が見直される見通しとなった。これは不正防止つながるかもしれないが、そもそもTPPの主旨とはまったく別の事項である。
 それ以上に、食料生産者の一人として、TPPによって進めようとしている基本的な考えについて、強い危惧を抱いている。1980年代のガット・ウルグアイ・ラウンド交渉以降、30年近くにわたって農業生産者は苦渋を味わってきた。
 たとえば、1990年代半ばまで1俵2万円を超えていた米の取引価格は、2014年産では一時1万2000円を割り込むまで下落した。生産者にとっては単純計算で収入が半分になったことになる。生産コストを踏まえれば、実収入の落差はさらに大きい。


◆日本農業に必要な「すそ野の広さ」

 政府や一部の識者は「大規模化や集約化にともなう生産効率の向上でTPP発効後も日本の農業は維持できる」と主張するが、それは「机上の空論」と断じたい。「これまで農業者はなにもしなかった」との前提からくるものであれば、それは大きな誤りである。土地改良等によって耕地を整理しても、耕地面積が増えるわけではない。米価下落をまかなうほど飛躍的に収穫量が増加し、コスト構造が劇的に改善されるはずもない。
 かといって、企業が参入するとどうなるか。これまでの事例を鑑みても、長続きするケースは少ないだろう。そして収益性が悪ければ、中途半端な規模の企業ほど事業から撤退する。さらに撤退後の土地が農業に使用される保証はなく、汚染などによって農地として再利用できなくなる事態も考えられる。
 これに対し、農家は先祖から代々受け継いだ農地を容易に手放すことはできない。何世代にもわたって土づくりに従事し、栽培と収穫を続けてきた。農業経営の大規模化を否定するわけではないが、こうした「すそ野の広さ」は、国内農業にとっても必要ではないだろうか。


◆休耕地活用で資源を循環

 自由貿易には、各国が役割を分担し経済を効率化させる狙いがある。工業やサービス分野と異なり、農業は人間の生きるために不可欠な食料を生産している。食料はそうあってはならない。
 近年は世界的に大規模な自然災害が増えている。災害による不作が世界の複数の産地で同時に発生することは、十分考えられる。そのとき、ただでさえ自国で不足している食料を他国に差し出すことがあるだろうか。2006年から08年にかけた穀物価格高騰と各国の輸出規制は記憶に新しい。畜産業としても飼料として欠かせない穀物の不足は、死活問題である。
 飼料不足に陥った場合に備え、北見畜産では、生活協同組合のパルシステム千葉と共同し、飼料用米を与えた豚肉の生産に乗り出している。地元の休耕田を活用することで、エサから豚肉、さらに消費までを巻き込んだ地域における資源循環を実現している。国全体からすれば小さな規模だが、生産者のひとりとしてできることを考え、実践していくしかない。


◆農業が疲弊しても「国益」は守れるのか

 自由貿易は、大企業の寡占を生む。食料の寡占は、支配にもつながりかねない。TPP交渉を通じ、政治家を含む日本政府関係者は「国益」という言葉を何度も口にしてきた。TPPによってこのまま農業が疲弊すれば、いつしか食料が不足するときがくる。そのとき、政府は日本の「国益」を守れるのだろうか。
 農家は50年後を考えて土づくりに励んできた。それと同じとまではいかなくても、せめて目先の利益だけにとらわれない制度整備をめざしてほしい。地域にしっかり足をつけながら、地球人として考える時代が来ているように思われる。

なお、皆さまのTPPに関するご意見を下記までメールでお寄せ下さい。

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