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農政:田園回帰~女性と子供たちの笑い声が聞こえる集落に~

定住者1%で地域維持 "消滅"防ぐ処方箋を示す2016年1月12日

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新春インタビュー:島根県中山間地域研究センター研究統括監(研究プロデュ―サー)藤山浩氏

 集落の消滅を指摘するのではなく、実際にどうしたら地域を活性化できるか。島根県中山間地域研究センターで過疎問題に取り組んできた藤山浩さんがその「処方箋」をつくった。小学校区の生活圏のデータを分析し、毎年1%の人口を確保することで地域を維持できると割り出した。その根拠は、そしていまなぜ田園回帰なのか、その対策は。長年、過疎問題に取り組んできた藤山さんに聞いた。

◆「3・11」が契機 田舎の田舎こそ

 ――最近の田園回帰をどうみますか。

女性と子どもが増えている島根県邑南町の遠景 2010年ごろから、田園回帰が全国的に増えているのは確かです。島根県でも全体では増えています。しかも入り先は「田舎の田舎」です。島根県での集落調査でみると、市役所や役場の所在地までの距離に関係なく29歳以下の定住者が増えています。
 大きなきっかけは「3・11」の東日本大震災でしょう。人が集中した大都市に住み続けることが、自分の将来や子どもを育てる上でいいのだろうかという懐疑が広がったのだと思います。
 人口移動にはプッシュとプルの要因があります。田舎は高齢化の進展や空き家、荒廃農地の増加など、厳しい限界的な状況に直面しています。しかし同時に、昭和1桁世代の引退で人手不足になり、集落のレギュラーポジションに空きが出始めています。
 従って地域の人にとっては、IターンでもUターンでもいい。一緒に頑張ってくれる人がいれば、という気持ちが強くなっています。そして島根県の場合、市町村も定住者確保に勝負をかけています。
 これをプル要因とすると、プッシュ要因として、いまの30代の人の考えの変化があります。"東京双六"の幻想を信じない世代の登場です。これらが一緒になって回帰現象が起きたのだと思います。


◆幻想の東京双六 見えない2周目

 ――東京双六といいますと。

島根県中山間地域研究センター 研究統括監(研究プロデュ―サー)藤山 浩 氏 双六には「上がり」があります。それが東京での生活です。しかし、それは湾岸タワーマンションの最上階のようなもので、そこは災害時には一番やばいところでもあるのです。また、お金を持っていても都会では人のつながりがありません。このことは人の記憶が、周りにも次の世代にもつながらないということを意味します。われわれはそんな社会を作ってしまったのです。
 都会にこのまま住んでいても、年金はどうなるのか。年金があっても、それではお金の勝負になってしまいます。高度経済成長という一周目はよかったかもしれないが、それに続く二周目が、いま見えない。それならつつましく、自分で自分の生活を作っていくほうが納得できるし、そのほうがリスクが小さいだろうと思う人が増えています。
 
 ――著書にある『田園回帰1%戦略』の理論とはどういうことですか。

 毎年、人口の1%に当たる定住者を増やせば地域は維持できるということですが、この1%は腰だめの数字ではありません。実際に島根県で公民館、小学校区の一次生活圏、227エリアで独自に調査し、解析した人口解析のプログラムです。一次生活圏とは、基本的な生活条件、診療や買い物のできる定住を受け入れる舞台になりえる単位のことです。
 「市町村消滅論」が取りざたされていますが、それには処方箋が示されていません。あと何組入れはいいのか。私のプログラムは、データを入れるとそれが出せます。毎年、あと何組、何人、どの世代を取り戻せばいいのかが分かります。
 それをやってみると島根県の中山間地域で平均1%と出ました。ただ人口を安定させるには条件があります。人口全体が安定すること、減っても9割まで。高齢化率は上がっても40%は超えない。子どもは14歳以下がいまのまま減っても9割の3つです。9割とは、減っても1割程度であれば大丈夫ということあり、それならほぼ現在の社会システムで対応できるということです。


◆20、30、60代で バランスが大事

 このなかで、総人口のハードルは高いが、子どもの数の安定には1%もいりません。0.5%あるいは0.6%でも子どもの数は維持できます。重要なのは1%の中身です。20代前半の男性、30代前半の子連れ、60代前半の定年帰郷、この3世代がバランスよく取り戻せると、極端な高齢化は抑えられます。60代の夫婦は総人口維持では貴重です。20、30、60代はそれぞれ大学卒業、結婚・産時、定年の年齢で、そのころが個人としても回帰しやすい年齢です。
 公民館・小学校単位の次は、集落ごとにどの世代が、どのくらい必要かということを算出するのです。集落によっては4、5年に1世帯増やせばいいところもあります。ゆっくりでいいのです。一度にたくさんの人口を流入させると、一斉の高齢化を招くだけです。
 
 ――定住者を迎える側に必要なことは何でしょうか。

 島根県でみると、例えば早くから過疎化が進んだ益田市の匹見地区に、最近多くの人が入っています。ここは広島県に接する「田舎の田舎」です。しかし、そこに入ったのは積極的に田舎での生活を求めて定住した人たちです。田舎の田舎には自然の息づき、人々のつながりがあります。山の中だといっても、車で30、40分もいけば買い物はできます。


◆田舎の厳しさも 定住者に説明を

 ――買い物のための商店や、行政、医療施設のある立派な拠点をつくるべきだという意見がありますが。

 それでは都会の町になってしまいます。田舎の意味がありません。役場の横に定住用のマンションをつくるなど、勘違いもいいところです。それでは誰も田舎に来ないでしょう。島根県の三郷町では、町内10か所以上に分散して計画的に定住者を受け入れています。
 ただ受入れは、希望者であれば誰でもよいというわけにはいかないでしょう。迎える側の基本は「ここで一緒に暮らそう」と言えなくてはならないでしょう。田舎のすばらしさや手ごたえと同時に、しんどさもちゃんと伝えなくてはいけません。
 このことを認識した上で来るか、そうでないかで、大きな違いがあります。価値観、心持ちをお互い共有しないとうまくいかないでしょう。そのうえで公民館ぐらいの地域エリアで学校、病院、交通機関の定住の土俵づくりをするのです。
 これを、われわれは「郷」(さと)と呼んでいますが、昭和の旧村くらいのエリアで窓口を設けて定住者に対応したらいいでしょう。単に空き家バンクのようなものでは、とんでもない人が来ても拒めず、家賃が安いとか報奨金があるからとかの動機で来る人は長続きしません。
 従って、定住者とそれを迎えた地域の生活設計などを行う郷(さと)単位の自治組織が必要です。それには事業組合のような組織がふさわしいと考えています。


◆事業組合方式で 多様なサービス

 この点で島根県邑南町の出羽(いずわ)地区の取り組みは参考になります。300戸あまりの地区ですが、住民出資の「LLC(有限責任事業組合)を設立し、農作業請負や空き家改修など、さまざまなサービスを行っています。
 集落営農でカバーできない農地の管理から始めた組合ですが、事業組合の定款では飲食店の運営、介護など地区の生活に必要なあらゆることができるようにしています。この地区では息子や娘など、30代が多く帰っており、ここは1%でなく、あと0.5%確保すれば人口を維持できるところまでになっています。
 いまのような縦割りでモノや人を運んでいては駄目でしょう。農作物は農作物だけ、新聞、郵便も別々の配達。これを変えれば劇的に改善します。みんなが一緒にやればいいのです。
 これから増える介護の世界でもそうですが、効率を求める規模の経済は働きません。高齢になると、一人前のことができなくなるのは当たり前で、そのできなくなった部分を、施設などの介護で補おうと考えるから費用が不足するのです。そうではなく、0.3あるいは0.5の半人前が集まって1人前のことができればいいのです。
 このように一人ひとりの小さな力や知恵を横につないだロングテールの考えに基づいた生活のモデルづくりが必要だと考えています。
 お年寄りが弱者、困っている存在としかみないのは人間への理解が浅く間違っています。素晴らしい野菜を作っている人がいっぱいいるではないですか。われわれもやがて、0.3人前になります。そのときには施設に入りなさいといわれるような社会にしたくないですね。

(写真)女性と子どもが増えている島根県邑南町の遠景

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