農政:緊急特集:「小泉進次郎が挑む農政改革」批判
痛々しささえ感じる進次郞「農政改革」2016年3月18日
小松泰信氏岡山大学大学院環境生命科学研究科教授
昨年10月27日に開かれた自民党農林水産戦略調査会・農林部会合同会議において新農林部会長の小泉進次郞は「今まで農林部会で農政のためにご努力されてきた誰よりも農林の世界に詳しくない」と挨拶し、「農業の可能性は大きい。…1次産業の発展なくして日本全体の活性化なし、…復興のためにも地方創生のためにも、日本の将来のためにも農林部会長として全力で汗をかきたい」と決意を示した(JAcom農業協同組合新聞2015年10月27日)。今年2月に発売された『週刊ダイヤモンド』(2月2日号)と『エコノミスト』(2月6日号)におけるインタビュー記事が、その後の地方行脚や学習の成果報告だとすれば、素人の域を出ない内容といわざるを得ない。以下、補助金と農林中金に関する発言内容に絞ってその問題点を明らかにする。
◆補助金漬け農政と決別?!
まず、『週刊ダイヤモンド』で強調されている補助金問題である。要約すれば、"「農業は弱い立場であるから守らなければいけない。そのために補助金が必要だ」という発想に立った補助金まみれの農政が農業の競争力を弱めた。だから補助金漬け農政とは決別する"となる。
誤解を恐れずに言えば、農業者も消費者も一人ひとりは弱者であり、その弱者性を克服するための一つの手段が協同組合である。さらに農業をはじめとする第一次産業は、国の経済が発展するに従ってその生産要素(土地、労働力、資本)を他産業に供給し続けることが運命づけられている。つまり、農業は弱い立場にある。しかし疑いようもない重要な産業であることから、生産要素の自由な移動を制限するために農地法などの岩盤規制が敷かれる。
さらに残された生産要素をより効率的に活用することを目指し農地の整備などが求められる。しかしそれらは私有財であることと多額の整備コストがかかるために、政策誘導手段として補助金の投入が不可欠となる。この流れを補助金"漬け"や補助金"まみれ"という表現で、ネガティブキャンペーンを張るのは、農林行政に責任を持つものの発言とは思えない。もし"莫大"な補助金と感じるとすれば、それは"莫大"な生産要素が農業から他産業に移転していることの証左と思うべきである。
もちろん補助金が収入の多くを占めることを心から望む経営者はいない。なぜなら、政権や政治家の腹一つ、さじ加減で多くも少なくもなるリスクを持っているからだ。まさに農政リスクの象徴である。そんなリスクの多い、先行き不透明な産業に投資意欲は喚起されにくい。安定した農業政策が求められていることこそ、肝に命じるべきである。
◆農林中金はいらない?!
つぎに、「農林中金はいらない」という指摘である。この発言で明らかになったのは、農林中金に集まる資金の多くが、組合員がJAに貯金したお金であることが彼の頭から抜け落ちていることである。この資金を大切に運用し、他の金融機関と遜色のない利息をつけてお返ししなければならない。その運用の一つに農業関連融資があるが、農業経営の特質、すなわち資本回収期間が長期にわたり収益性も高くないことから、長期、低利、据置期間付きの融資が求められるため、資金運用上、必ずしも合理的な融資対象ではない。そのような特質を持つ農業融資のために存在しているのが、制度資金である。
"内部留保は1兆5千億円もあるのに、農林中金の貸出金残高のうち農業融資は0・1%しかない。ならば農林中金なんて要りません"という信用事業の一面しか見ていない発言に、拍手を送る関係者も少なくないだろう。しかし、農林中金に対する不満と、農業金融の問題は分けて考えるべきである。組合員の余裕資金に関する協同運用機関としての位置づけを裏切るリスクを冒すことはできない。そのジレンマの中で農林中金は、安全安心を心がけた資金運用を行い、組合員世帯の資金運用と安定したJA経営に貢献していることへの理解が求められる。
◆二宮翁を出汁に使うな!
最後に、人口減少の時代に村落の再生を手がけた偉人として二宮金次郎翁を勉強し、農業の世界に明るい希望を見いだすヒントが隠れているはずだということに気づき、人口減少に歯止めをかける一つの解が農業の復活だという思いから部会長を引き受けているそうで、今後は小泉金次郎になる、というオチを自画自賛している。
しかしこの人には無理。部会長になってたかだか数ヶ月で、雑誌記者におだてられての父親譲りの上滑りな発言は、痛々しいだけで誰の心にも届かない。
焦りからか、わが国における農業協同組合の一つの源流である二宮尊德翁の都合の良いところだけを取り出して、農業協同組合の原理も勉強していますよと出汁にする迷惑千万な"小泉損得"の提案を"シンジロウ"という気にはなれない。困ったものです。
(写真)岡山大学大学院 環境生命科学研究科 小松 泰信教授
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日