農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【JA改革の本質を探る】農業協同組合の解体――新自由主義の本質 農協「改革」とTPPは一体(下)2016年9月20日
農家の金融資産一致団結し守れ
田代洋一
横浜国立大学名誉教授
◆准組利用規制都市農協潰す
筆者はこの間、20数の単協の総代会資料を拝見した。いずれも優秀な農協だが、部門別損益計算で農業部門が黒字なのは半数弱(北海道、東北、九州)、うち営農指導部門の赤字を農業部門でカバーできるのは2割しかなかった。大半の農協は准組合員利用を例えば正組合員の半分に制限されたり、支店・代理店化による手数料収入が例えば現在の運用利回りの半分に下がったりすれば、農業・営農指導部門の赤字をカバーできない。
とくに准組合員の割合とその出資割合が高い都市農協は、出資配当も3%程度(農業県では1%)、貯金残額、貸付利子等を基準に事業利用分量配当もすることで、かろうじて市中銀行等に対する金融競争力を保っている。准組合員利用規制は端的に都市農協潰しであり、都市農協が「悔い改めて」農業振興に努めたところで、残念ながら日本の農業所得の増大への寄与率は低い。「准組合員利用規制→農業所得の増大」という農協「改革」は、間違った仮説に基づくものである。
◆企業農業化で農水省を解体
安倍内閣がアベノミクスの切り札にする「農業の産業化」とは「農業の企業化」だ。安倍首相のイデオロギーは、「新自由主義」というより、「企業第一主義」だ。農業が株式会社化すれば、もう家族経営、家族経営を支える農協も要らない。
安倍首相の得意技は「後出しじゃんけん」(選挙前は改憲を伏せ、選挙に勝ったら改憲)と慣例無視の強引人事だ。すなわち官僚人事では、農協「改革」派を次官に据え、食料産業局長を経産省から出向させた。第三次安倍内閣の農水省の副大臣・政務官4人のうちの3人は経産省出身だ。自民党の「総合政策集2016 J―ファイル」は「省庁再再編」をうたっており、次官は「農業が産業として自立し農水省が要らなくなることが理想」とうそぶいている(ダイヤモンド・オンライン)。
要するに農水省の経産省部局化だ。農協を潰した後で、今度は自らを葬る。すなわち農水省を分割して一産業部門として経産省に吸収する。しかし総合農協をかかえたままでは経産省が農水省を「飲み込む」のは難しい。そこで総合農協の各事業部門を分解し、生協、社団・財団、株式会社等に移行させ、金融庁、消費者庁、総務省、環境省、国土交通省等の管轄に移せば、残る農業部門は経産省が飲み込める。農産物輸出が強調されているが、輸出は経産省担当だ。生産資材価格の引き下げにはメーカーにメスをいれる必要があるが、メーカーを所管するのも本来は経産省だ。そして農水省が分割解体されれば固有の農業政策は消え、企業的農業のみが生き残るか、あるいは全滅だ。
◆消費者と共に結束強め対抗
農協「改革」の仕掛けは、かくも大掛かりなものだ。農協陣営はその布陣をしっかりと見据え、今、何をなすべきかを肝に銘じる必要がある。個々の単協が、ウチはこれだけ成果をあげた、ウチだけは大丈夫、と思っていられる時代ではもはやない。
先の総代会資料をみても、北海道、東日本、大都市近郊、西日本と、農業・農協の地域差は拡大している。そういうなかで今、大切なのは、地域や単協の独自性を尊重しつつも、農協系統が一致団結して、消費者にも訴えつつ、対抗していくことだ。中央会の負担金問題、どこの監査法人を選ぶか、さらなる合併か支店・代理店化かなど、分断の種には事欠かない。規制改革会議、農林部会長、農水次官の連合軍に農協陣営も取り込まれて、「カルテット」などとマスコミに揶揄されるような隙を絶対に見せてはならない。
・農協「改革」とTPPは一体 (上) (下)
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