農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【提言】安倍政権農政はヨーロッパ型農業から学べ(下)2016年10月7日
TPPからは離脱を
「直接支払」EU型へ
生き甲斐農業を積極奨励
真に「強い農業」をめざせ
北林寿信農業情報研究所主宰
◆ヨーロッパに学ぶことを忘れた日本農政
日本もフランス1960年基本法に倣う61年農業基本法により、農業だけで他産業従事者と同等の所得を確保できる「自立経営」の育成を目指す「産業主義」農政に乗り出した。しかし、何よりも60年代以降の米国の圧力の下での輸入自由化と関税引き下げが自立経営を吹き飛ばした。それでも、「99年食料・農業・農村基本法」は「自立経営」を「担い手」と言い換え、産業主義農政への傾斜を一層強めた。人としての農民は、農地、農業用水その他の農業資源と並ぶ単なる「生産要素」に還元され、非効率な生産要素(兼業農家)は切り捨てられた。農村も用排水路等の共同管理を通じて農業の持続的発展を支える単なる「手段」に還元された。
フランス・EU農業の命綱となった「多面的機能」支払は水路の泥上げなどの共同活動を行う共同組織・集落等に対する「日本型直接支払」に矮小化され、支払対象である共同組織や集落そのものの存続が危ぶまれている。「農林水産業・地域の活力創造プラン」は、「産業政策と地域政策(多面的機能を発揮するための政策)を車の両輪として、農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増させることを目指し...」と謳った。しかし、両輪の片方は既に外れかけているのである。
◆安倍農政の目標と基本的手段・根本問題
そんな素地の上に花開いた安倍農政の目標は、農業の産業としての自立と成長産業化を促すことにある。それは生産コスト削減、規制や補助金などの現行施策を総点検、農業・農村全体の所得を今後10年で倍増させるという。
しかし、米の生産調整見直しは米価暴落と生産調整協力農家への所得補償の廃止により、「担い手」経営の崩壊につながるだろう。主食用米から飼料用米への転換の誘導は膨大な財政費用がその持続性を疑わせる。
農地中間管理機構を通じた「担い手」への農地集積で生産コストの4割削減を目指すという。その実現のためには現在の107万の経営体数を10万ほどに減らさねばならず、こんな目標が実現した暁には、農家・農民あってこその農村社会が崩壊してしまう。
最近は、生産コスト引き下げのために農協や資材メーカーに生産資材価格引き下げを要求する規制緩和「新農政」が脚光を浴びている。問題は、こうした施策すべてが、食料品需要の飽和を無視するとともに、TPP(環太平洋連携協定)を前提に国際価格競争力の強化を謳っていることだ。安倍政権農政の根本問題がここにある。
農業の成長産業化には食料品需要の拡大が不可欠である。ところが、人口増加が止まる一方、日本人の一人当たり食料消費は、専ら輸入に頼る小麦・小麦加工品と飼料を輸入に頼る肉類以外、すべて減少傾向にある。輸出拡大もそれ以上の輸入拡大で、国産農畜産物市場は縮小するばかりである。TPPが実現すれば輸入はますます増えるだろう。それでも構造改革による生産コスト削減で輸入品に対抗できる?
それこそ安倍農政の根本的誤りである。最も競争力の強い世界の国々との競争力の差は、規模拡大や資材価格の引き下げで埋まるものではない。それこそ戦後フランス農業が実証したことではなかったか。
ではどうすればいいのか。最低限、小規模農家、兼業農家、"飯米農家"の切り捨て(その土地の「担い手」に向けた集積)をやめ、EU農村政策に倣い、こういう農家、生業的農業、生き甲斐農業を積極的に奨励すべきである。農協はこういう農村政策に寄り添う必要がある。「日本型直接支払」はEU型の真の多面的機能支払に改めねばならない。TPPからは離脱、規制強化でスーパーの買いたたきをやめさせ、ヨーロッパに見られるような新たな経営戦略に基づく、真に「強い農業」の構築を目指すべきである。
・【提言】安倍政権農政はヨーロッパ型農業から学べ (上) (下)
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