農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【鼎談】「地域活性化」へ共に歩む JA糸島×糸島市×稲作農家(上)2016年10月12日
TPPは情報開示を
農を軸に豊かさ維持
糸島市長・月形祐二氏
JA糸島組合長・中村俊介氏
元全国稲作経営者会議会長・井田磯弘氏
TPPで地域農業はどうなるか。JAと自治体、それに大型稲作経営者それぞれの立場から、福岡県JA糸島の中村俊介組合長、同糸島市の月形祐二市長、元全国稲作経営者会議会長の井田磯弘会長に語ってもらった。司会は元JA福岡中央会農政部長・高武孝充氏。
――本日は、JA解体に繋がる農協法の改正やTPP大筋合意による農業・農村の疲弊が予測される中、地域の現場からこれをいかに乗り越えて活性化させるのか、JA糸島の中村俊介組合長、糸島市の月形祐二市長、元全国稲作経営者会議会長の井田磯弘氏の御三方にそれぞれの立場から大いに語っていただこうと思います。まず、皆さん、今回のTPP大筋合意をどういう風に受け止めていますか。
◆ ◇
月形 TPPについては、国や参加国の動向、農業その他の産業への影響等について情報収集に努めることが第一だと考えております。2013年4月の国会決議では、重要品目について「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外または再協議の対象とすること。10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含めて認めないこと」としています。
国としては、まず、国会決議を遵守することが基本と考えます。その上で、今回の合意で、重要5品目が守られるように生産現場等にどれだけ影響することになるのかをしっかりと分析することが必要だと考えています。また、悪い影響が出るのであれば、具体的なセーフガードを示し、必要な財源の確保など、国として十分なフォローを行うことが欠かせないでしょうね。
市としても、TPPが地域の農業に与える影響については心配しております。影響が最小限になるような、施策を検討しなければならないと考えております。
井田 私は、水稲作・麦作を専門に50年以上農業一筋で生きてきました。現在は長男が後継者として水稲30ha程度、麦作40ha程度を耕作し、自宅から10分程度で全ほ場へいけるように集積しています。政府は、一昨年から県農地中間管理機構を介して農地集積に力を入れていますが、私は数十年前から実践しています。効率的な集積という点では全国でもトップクラスと自負しています。今回のTPP大筋合意はひどい内容です。主食用米が毎年8万tも減少しているのに、このTPP設定枠には全く納得できません。私の得た情報では、米国と豪州の設定枠7万8400tは、この枠が3会計年度のうち2会計年度で不落札が生じた場合は、マークアップを15%下げるという約束までしています。
そして、この枠と同じ量の国産米を政府が買い上げて流通を遮断するから国産米価格には影響しない、と言っています。誰が考えてもおかしな言い訳です。農水省はこの枠は消費量の僅か1%程度だと言って影響がないこともアピールしていますが、毎年8万tの主食用米が減少するのですから、1%程度だったシェアはだんだん増えていくことになります。このTPP枠の米が国内で流通するのですから、米価格下落を誘導していくことは間違いありません。
一方の麦類に関しても、小麦では国内生産量は50万~90万t、輸入量は500万~650万tで自給率は13%程度です。2011~13年の国別では、米国310万t、カナダ135万t、豪州98万t、すべてTPP参加国で合計量は543万t。その他に飼料用小麦の輸入量が約50万t。カレントアクセスが574万tでしたから、このTPP参加国で95%を占めています。
さらに、生産条件不利補正交付金の大きな財源となる2014年の麦のマークアップ徴収額は894億円です。TPP合意では、現行マークアップ(キロ17円)が最終的に45%削減されて、9.4円となります。従って、徴収額は894億円から494億円と大幅に減額することになります。
このことを考えると、「販売価格+ゲタ交付金≒全算入生産費という仕組みのなかで関税徴収が減額していくのに麦の本作化の財源をどういうふうに確保し実施するのか」「また、マークアップが下がれば製粉業界等に対する政府売り渡し価格が下がり、連動して内麦の販売価格も下がる傾向となり、生産者手取りも下がってくる。このことについても本作化が進むかどうか」「さらに、麦のカレントアクセスに加えて、新たにTPP合意枠が設定され小麦粉等の小麦加工品・小麦粉調整品に対しては、TPP枠として5000tから7500t、小麦の調製品・調整食料品に対しては同じく7500tから1万tの輸入増」、以上を踏まえると本作化はなかなか進まないと同時に私たちがいつまで麦を続けていけるのか? 不安を感じている農業者は多いと思います。
◆ ◇
中村 まず、政府・与党のTPP大筋合意へのいきさつは農水省も含めて大いに不満です。何か密約があるのではないかと疑っています。我々はどこかの時点で反発していく必要があると考えています。さて、糸島管内では米麦も盛んですが、その他にも様々な農産物を生産しています。JA糸島の平成27年度の販売品の実績を紹介しますと、約106億の実績のうち米穀は12.2%、果実1.2%、野菜25.8%、花き8.2%、畜産16.0%でその他にJA直営の直売所の売上実績があり、野菜類、花き類、加工品などが多くを占めています。現在、ほとんどの野菜の関税率は3%です。TPPでは、締結国から輸入される野菜の関税率は協定発効後、即時撤廃されます。トマト、ネギ、ブロッコリー、キャベツ、ハクサイ、レタス、ニンジン、キュウリ、ナス、ピーマン、トウガラシ、ホウレンソウ、カボチャなど糸島で生産されている日常野菜の大部分が対象です。特にブロッコリーは福岡県第1位の生産です。TPP参加国では、米国からブロッコリー、レタス、トマトなど、メキシコからはブロッコリーやカボチャなどが輸入されています。
また、最も気になるのが「食の安全性」です。国会決議では「残留農薬・食品添加物の基準、遺伝子組換え食品の表示義務、遺伝子組換え種子の規制、輸入原材料の原産地表示、BSE(牛海綿状脳症)に係る牛肉の輸入措置等において、食の安全・安心及び食料の安定生産を損なわないこと」としていました。BSEについては、米国産牛肉の条件付き輸入が2003年末から実施されていました。その後、TPP参加に際して、BSEに伴う牛肉の輸入条件についてこれまで20か月齢以下としていたものを、米国から「TPP交渉に入りたいのなら30か月齢まで認めろ」といわれ、交渉に入る前に規制を緩めてしまいました。今度は、それを撤廃、月齢制限なしにしようとしています。また、米国は「遺伝子組み換え食品でない」という任意表示をやめさせようと圧力をかけているのも不安です。
さらに輸入農産物に使用される防腐剤や防カビ剤などポストハーベスト(収穫後)農薬についても、日本は基準が厳しすぎるからもっと緩めろ、と日米間平行協議の重要な検討項目になっていました。今後もこの問題は米国から緩和を要求され続けるでしょう。私たちは、生命産業である農業を基本とした協同組合ですから消費者にこのことを伝えていく責任があると強く感じています。
――TPP大筋合意の批准について9月下旬から11月にかけての臨時国会で論議が交わされます。月形市長は国会議員秘書、福岡県議会議員を経て糸島市長になられたわけですが、政府の情報開示についてどう感じていますか。
◆ ◇
月形 積極的な情報開示、国民に分かりやすく説明していくことはとても必要だと思います。TPPについては農業をはじめ、多種多様な産業に影響を与えるものだけに、このことは絶対に欠かせないことだと思います。本市においても、様々な施策を展開していく上では市民の理解と協力が必然であり、広報活動はとても大切です。特に市民生活に大きな影響を与えかねない事項については、地元説明会などで積極的な説明を行うことにより、市民の皆さんに理解と協力をいただく必要があり、とても重要なことだと思っています。
(写真)左から中村俊介組合長、月形祐二市長、井田磯弘元会長
・【鼎談】「地域活性化」へ共に歩む JA糸島×糸島市×稲作農家 (上) (下)
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