農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【現地ルポ】三鷹市(東京都) 21世紀型都市農業を拓く JA青壮年部が先駆者2016年10月13日
JAと自治体の信頼と挑戦
東京都三鷹市(都心の新宿から西に15キロの位置、現在の人口は18.5万人)は、市政の特徴として1950年の市政施行以来、参加民主主義・協働型自治が構想され、70年代から住民協議会などコミュニティ政策が展開、継承されている。
同市は1968年新都市計画法によって、全域が市街化区域に決定された。このため、市総面積の20%を占める農地に宅地並み課税が適用されると、農業経営が崩壊する危機に直面した。そこで旧三鷹市農協青年部が先頭を切って都市農業確立のための法制改正と宅地並み課税反対運動を展開し、野菜を直販するための三鷹市農協野菜直販協議会の設立、システム化などを進めた。
このような地域からの運動と全国的運動が、市街化区域の農地に「農地並み課税」を適用する旧生産緑地法、長期営農継続制度を経て現在に至る生産緑地法の改正につながった。注目されるのは農業者、農協、市、市民、さらに商工会との協働の輪の広がりで農業者・農協の結集力と誇りが高まった点である。
都市化を先取りしながら、1955年ころから三鷹市農協による西洋野菜研究会、植木生産振興のための園芸振興会など作目別生産者団体づくりと営農指導、緑化センター開設、三鷹キウイフルーツ協会の設立やそのワイン加工など、都市農業経営と都市型農協づくりが進んだ。
三鷹市は、高環境、高福祉のまちづくりを2本柱とし、「農地を都市の貴重な資源として計画的に保全し、都市型農業を育成する」と明示。農業委員会の機能強化、JAと農業生産者組織の支援、援農ボランティア養成講座の開講、農に関わるNPO組織の支援などに取り組んでいる。
一方、JA東京むさしは、1998年に三鷹市、小平市、国分寺市、小金井市、武蔵野市の5市を区域とする広域合併JAとして発足し、「農」を基としたまちづくりをめざし、都市農業の継続・発展のため、指導・経済事業を主軸とする総合事業を展開。JA東京むさし三鷹支店管内は、農地158.9ha(市総面積の9.7%)のうち生産緑地が143.5ha(指定率90.3%)、2013年の作付延べ面積は野菜、果樹、植木、花卉など199.7haとなっており、農地利用率126%である。
農業の担い手である正組合員は2015年度末現在1132名、正組合員世帯数は621戸(准組合員は8563名)。2015年で農業経営体214戸のうち58経営体の100人が認定農業者になっている。
JAの三鷹地区青壮年部は年間で60を超える多彩な活動を展開し、都市農業の理解を高めるPR看板づくり、小学生を対象にした「農のある風景画」の募集と「食育カレンダー」の作成、三鷹市農業祭では市内産農産物の模擬店・農産物の宝船・宝分けなどで先駆的役割を発揮しており、JA三鷹地区女性部の活動も活発である。
三鷹市とJAの連携で作成した市民向けの「直販MAP」(地図帳)には、三鷹ふれあい農園(直販農業者148人)、体験農園、三鷹市市民農園、三鷹市農業公園、JA三鷹緑化センターなどが掲載されている。JA三鷹緑化センターは、2015年度に市内産の野菜・果物、植木、花き、卵など1億3000万円を直売し、隣接する三鷹市の農業公園(管理団体は当JA)は、三鷹緑化センターが直売組織(出店者会)と提携して植木の剪定や農作物の実習農園、ガーデニングエリア、自由広場の運営を行っている。2つのエリアは、地元市民と農業者・作目別生産組合等の地産地消と農のふれあいの拠点としての役割を果たしている。
都市農業振興基本法制定(2015年4月)という新段階におけるJAと自治体の課題は、第1に、三鷹市の市街化区域の生産緑地減少の抑制のために、担い手育成とともに、生産緑地指定下限面積の改正、相続税納税猶予制度適用生産緑地の貸借及び生産緑地法の改正や農業施設用地・屋敷林を保全する優遇税制などを実現することである。このため、JA青壮年部・住民協議会など市民団体・市民・市議会の合意を基に、都行政や政府にその実現のための提議や支援を要請することが重要である。
第2に、JAの支部組織(農家実行組合)における生産工程管理(GAP)をふまえた農地保全・営農拡充、JA青壮年部・女性部・作目別部会の若手リーダーの育成、さらに、准組合員の援農ボランティアづくり、准組合員の体験型農園・観光農園等の利活用の促進が重要である。
第3に、東京オリンピック・パラリンピックを見据えて大都市東京の緑ゾーンの中核を支える三鷹型都市農業・農のあるまちづくりが21世紀型の世界に誇れる姿であると、JAと自治体が連携して国内外に向けた発信を展開すべきであろう。(白石正彦)
(写真)農業公園での市民の実習風景。青壮年部の看板
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