農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
【座談会・与党議員に聞く】食料自給は国の責務 「田舎」守る政治を(3)2018年7月27日
地域を全体で見る政治に竹下
農地確保と生産性向上を根本
農業に国の支援は不可欠萬代
自民党は「本来の保守」に谷口
【出席者】
竹下亘・自民党総務会長・地域の農林水産業振興議員連盟会長
根本幸典・自民党衆議院議員
萬代宣雄氏・新世紀JA研究会名誉代表・前JAしまね組合長
谷口信和氏・東京大学名誉教授(司会)
世界の主要国の中で最低水準の食料自給率38%の日本。なぜか最近、国や政治家からも「食料自給」の声が聞かれない。地球的規模での気候変動や人口増のなかで、政権与党には、将来にわたって国民に対して安全な食料を、安定して確保する責任がある。自民党総務会長で、今年3月に発足し、現在100人近くの自民党議員を有する地域の農林水産業振興促進議員連盟会長の竹下亘氏、日本でトップクラスの園芸産地、愛知県選出の衆議院議員の根本幸典氏、それにJAサイドで新世紀JA研究会名誉代表(前JAしまね組合長)の萬代宣雄氏の3人に討論してもらった(司会は谷口信和・東京大学名誉教授)。JAcomでは3回に分けて掲載し、本日はその第3回。
◆議連で「地域」議論
【竹下】農業や農村に対する国民の意識を変えるため、政治が果たすべき役割があると考えました。議員連盟には100名近い議員が集まりました。水田や野菜、水産など個別の課題では議員連盟はありますが、今回の議連はトータルとして地域を考えるというところに特徴があります。100名もの議員が集まったのは、みなさんそれだけ危機感を持っているからです。
農協は農業を支えています。村祭りやPTA活動、消防団など地域に必要不可欠な活動の多くは、農協の職員がいるから続けられるのです。こうした活動を地域の中でしっかり位置づける必要があります。経済性だけで考えてもらっては困るのです。道路の普請などの共同作業は、田舎では当たり前のこと。そうした意識を育てるために政治家が努力しなければなりません。
私の地元、島根県の中山間地域では高齢化が進み、70代は若手に入ります。耕作放棄も増え、休耕田に樹木が生えているのを見るのは耐えられません。こうした状況で農業改革は大変です。現状維持では将来展望は拓けません。なんとかしなければならないという思いで議員連盟をつくりました。
◆農家の苦労理解を
【根本】「安くて美味しいものが欲しい」と消費者はいいますが、私の地元の野菜農家をみると、朝早くから農作業に出ています。農業を産業としてだけで考えるのは一面的です。渥美半島では花の栽培が盛んですが、花は人の心を豊かにして、気持ちを和らげます。それを農業者は苦労して作っているのだということを消費者に理解してほしい。この思いで議員連盟に入りました。
【萬代】議員連盟ができて、少しはよくなったと思いますが、昔と違い、自民党にも農村の現場が分かる議員が少なくなったように感じます。農業や食料の問題に関して、いま必要なのは教育です。スイスでは少しくらい値段が高くても、食料は自国産を買うと聞いています。日本はどこまでこういう教育をしているのでしょうか。修学旅行ならぬ修農旅行、あるいは農業体験を義務付ける徴農制度のようなものを設けて、農作業の楽しさと苦労、そして農畜産物自給の重要性を教えるべきではないでしょうか。
いまの農水省の政策は、あまりにグローバリズム一辺倒です。田舎の生活を昔のようにしろとはいいませんが、議員連盟には、地域にとっていまなにが不足しているか、大事なことを具体的に三つか四つくらいあげ、国に対して着実に実施するよう求めてほしい。それが国民から選ばれた政治家の役割ではないでしょうか。積極的に発言していただきたい。
(写真)萬代 宣雄氏(新世紀JA研究会名誉代表、前JAしまね組合長)
◆「農は国の基」で
【竹下】世界の距離が短くなっています。しかしそれに振り回されてはいけない。「農は国の基」です。同時に考えなければならないことは、いま議論しているように、国家にとっての農業の骨太方針を打ち出すことです。
【萬代】JAや農家がついて行けるような方針であってほしい。一寸先は闇であっては困る。
【谷口】6月15日に決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針 2018」では、農地集積の役割を農地中間管理機構に一本化する方針を出していますが、実績はダウンしています。現場ではJAによる農地利用集積円滑化事業が大きな役割を果たしているからです。それはJAには農地所有者からの信頼があるためです。このように現場は動いています。国には柔軟な対応が求められます。
ところで、消費者は安くておいしい野菜をといいます。しかし、安くてよいダイヤモンドはないのです。安全でおいしいものは高い。先ほどのスイスの話でも出ましたが、このことを認識してもらうのには教育が必要です。
【萬代】その意味で、特に子どもたちの農作業体験は必要です。国会議員が田植えして話題になっていますが、国民も関心を持ってみていますよ。ぜひ続けていただきたい。
【竹下】都会の子どもを対象とする農山村体験留学が機能しつつあります。極論をいうと、学校を卒業するとき、1年くらい就農して農業を体験する。体で分かってもらうことで人間としても強くなります。
【谷口】青年農業者給付金事業は成功例だと思います。ぜひ続けていただきたい。かつて新規就農の支援は県立農業大学校などでやっていました。つまり行政系統の仕事だったのですが、いまそれを効果的にやっているのはJAとその出資法人です。新規就農者を育てるには単なる座学ではだめです。自分で作って自分で売るところまで教える必要があります。こうした教育は現場に密着したJAでなければできません。その農協を政府は叩いているのです。
【竹下】Iターンには300万円くらい援助して、農業経営のノウハウをつけてもらわないと田舎は守れません。農業者は高級技術者です。誰かが指導し、ビジネスとして成り立つようにしなければなりません。田舎に住み、農業で500万円の所得があげられるようになれば、放っておいても若者は就農するのではないでしょうか。
【谷口】その辺はJAの後押しが必要になります。新規就農者の話を聞くと、大変なのは土地と技術の取得、それに農業機械の確保だといいます。加えて地域づきあいの難しさがあります。こうしたなかでJA出資型農業法人が頑張っています。特に経営に不可欠の帳簿の記帳などをきちんと支援できるのはJAしかありません。
座談会の風景。
写真は右から、根本幸典・自民党衆議院議員、
竹下亘氏・自民党総務会長・地域の農林水産業振興議員連盟会長、
萬代宣雄・新世紀JA研究会名誉代表・前JAしまね組合長、
谷口信和・東京大学名誉教授(司会)
【竹下】経済合理性は一つの判断だと思います。しかしそれで全てを割り切ってもらっては困ります。
【谷口】その通りです。利益を目的とする企業にも社会的に責任があります。農業もそうですが、儲けるだけでいいと考えるのは、もう限界だと思います。
◆45%達成へ道筋を
【萬代】日本の政治を司っているのは何者かといいたい。その政治がグローバル化ばかりをめざすものであったら、その仕組みを変えないと将来に禍根を残すでしょう。全国には650のJAがあります。政府は准組合員を邪魔者扱いしていますが、JAをうまく使い、政治の力で、それは違うのだということを主張していただきたい。
いまは官邸の力が強くで、われわれの目からは、政治家のみなさんは子猫が縮こまっているように見えます。自給率をどうすれば向上させることができるか、その方法を、具体的に道筋を立てて実行し、少なくとも当初目的の45%は実現するようにしていただきたい。
【谷口】今日は農業や農村、地域のことを真剣に考えている「本来の保守政治家」が率直に心情を吐露されながら議論したという点できわめて有意義であったと思います。願わくは、現場が元気になるように、国家百年の計にもあたる農業政策の確立に向けた議論の小さいながらも確かな一歩になることを期待致します。国会開会中でお忙しいときにもかかわらず、出席いただきありがとうございました。
【座談会を終えて】
今の日本の現状に多くの国民がそこはかとない不安とフラストレーションを感じるのは誰の胸にも全くストンと落ちることのない不思議な「議論」があちこちで大手を振って罷り通っているからだろう▼そんな状況に"待った"をかけ、先進国でこそ農業・農民・農村は豊かで美しいという素朴な現実に向き合い、"田舎を守る"というシンプルなスローガンで国家百年の農業政策の方向への軌道修正の烽火をあげた議員連盟に「本来の保守政治家」の心意気を垣間見た▼萬代氏が言うように、議連が、"JAや農家がついていけるような"現実的で、実現可能な政策を三つ四つ提起し、実施できたとき、日本の姿は農政の枠を超えて少なくとも今とは大きく変わるのではないか▼新たな議連はそうした可能性を秘め、期待されていることにノーブレス・オブリージュを見出すべきであろう。(谷口信和)
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日