農政:緊急企画:TPP11 12月30日発効-どうなる、どうする日本農業
【森山裕・元農相に聞く】自由化過度に恐れず わが国農業守り抜く2018年12月17日
自由民主党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部本部長
米国とのTAG交渉では首脳同士でしっかり約束しているからTPPを超えることはない、と森山元農相は強調する。地域政策と産業政策が農業政策の両輪、新自由主義的発想では解決しないと農政の根幹を指摘する。(聞き手:小松泰信岡山大大学院教授)
小松 自民党の対策本部長として、自由化にどのような姿勢で立ち向かっていますか。
森山 不安のある農家もいらっしゃるとは思いますが、過度に自由化を怖がってはいけない。農業分野は国際競争力が弱い、という意識が強すぎたようです。我が国の農畜産物が食味や安全性で国際的に評価されることが分かってきました。
もちろん、TPP関連の予算措置も、低コスト化に向けた対策も集中的に行っており、成果も出始めています。仮に価格が下がっても牛豚のマルキンを拡充して法制化しました。
小松 自由化に関する情報が乏しく、議論も広がらないのが不満です。
森山 国内においてもっと関心を持ってほしい。アメリカとのたTAGの交渉に関しては、首脳同士でしっかり約束してもらっていますから、TPPを越えることはない。
小松 本当ですか。心配ですよ。
森山 もしあなたの心配が現実となったら、自民党農政は持ちません。自民党と政府の考えは一致していますから。
小松 一部品目でTPPを上回る譲歩を受け入れる可能性を示唆した茂木大臣の発言もあるわけですから。
森山 TPPではアメリカから米を輸入することになっています。もしTAG交渉でTPP水準を超える要求が出たら、議論はゼロからやり直しです。結果としてTPPより減るかもしれません。そんなことはしないはず。かなり詰めてTPPの枠を決めましたから。
小松 農水大臣の時に、産業政策に軸足を置きすぎる官僚に地域政策の重要性を説かれたようですが。
森山 地域政策と産業政策が農業政策の両輪です。産業政策だけを追求しても取り残される地域が出ます。新自由主義的発想では、農業や農村の問題は解決しません。
小松 規制改革推進会議の強引な意見が目立っていますが。
森山 本気で改革しようと思えば牽引力は必要です。でも、間違った改革をしてしまうと取り返しが付かない。現場を知っている人がいないとそうなる。今回、新山陽子氏(立命館大学教授・京都大学名誉教授)に入っていただいたので少しずつ変わっていくはずです。 農村は、農業が営まれてはじめて持続できます。地域政策と産業政策の連携を常に意識して取り組むべきです。
小松 総合農協というバランス重視の協同組織は、重要な役割を果たすはずですが。
森山 その通りです。日本の農業用資材が韓国と比べて高いと言われるから、調べにいきました。例えば、日本の肥料は地域の土壌や立地条件に合わせた細やかな作り方。韓国製と比較すれば高くなる。しかしその価格差以上の価値をもたらしています。的外れな農協批判が多いです。
小松 関連して、准組合員問題と総合農協の是非についてはいかがでしょうか。
森山 准組合員問題については、自民党は8月24日に出した「農協改革の推進に関する決議」で、「准組合員の事業利用に関する規制の在り方の検討に当たっては、......農協組合員の判断に基づくものとすること」としています。
JAのあり方についても、総合農協でやらないと農家組合員が持ちません。総合農協でいくべきでしょう。
小松 米価についてはどのような認識ですか。
森山 米価は再生産が可能な水準に落ち着きつつあります。米作りの手間と、公共インフラとして水田が果たしている役割などを総合的に考えたら、米は安い。消費者にはご理解いただきたい。流通業界には、「買いたたき」などをされないようお願いしたい。
小松 需要動向についてはいかがでしょうか。
森山 主食用米の消費は伸びていません。自給率向上のためにもう少し食べてほしい。米粉、酒米、焼酎の麹米といった多様な用途での利用拡大も大切にしたい。
小松 農業という産業は、「持続力」こそが命ですが、この点については。
森山 効率よく持続していくために農業農村整備事業があります。予算が一時期大幅に減ったんですが、最近やっと補正も含めて戻しました。
小松 人材不足の中で農業後継者への支援も手厚くすべきだと思うのですが。
森山 後継者を大事に育てていくための手厚い支援は必要です。外国人労働者の雇用についても、「安い賃金だから外国人を雇用する」という時代はもう終わりました。悪徳ブローカーが介在できないような制度設計が求められています。
それから農閑期がありますから、JAが受け入れ主体になって、さまざまな作物を異なる経営体で研修するシステムづくりも一考に値するでしょう。
小松 地域政策がらみで注目される動きは出てきていますか。
森山 鹿児島県の事例をふたつ紹介します。ひとつは産業政策が地域政策につながった例です。移住農業者たちがピーマン作りに取り組んだ。夜なべ仕事もなく、一ヶ月ほどの農閑期もあり、趣味や旅行でリフレッシュできる。移住者も増えそこの小学校は生徒数が増えました。
もうひとつは南種子町の留学制度です。大変好評で25人の定員に130人ほどが応募。子どもの頃から農村や農業に触れるため、地域政策が産業政策に連続する可能性は大です。
小松 来年の参院選に向けて農政の課題は。
森山 農家にも消費者にも納得していただける政策を打ち出したい。とくに、安心して米が作れる体制づくりです。飼料米については批判もありますが「水田フル活用」という理念にしたがってやっていきます。
小松 党内きっての農政通としてのご活躍願っています。
※森山裕氏の「裕」の字は正式には、示に谷です。
(関連記事)
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・【総括】連続インタビューから学ぶべきもの(小松泰信・岡山大学大学院教授)
※このほか本特集、【緊急特集:TPP11 12月30日発効】まとめページもぜひお読みください。
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