農政:年頭のあいさつ2020
江藤 拓 氏(農林水産大臣)2020年1月1日
明けましておめでとうございます。
令和二年の新春を迎え、皆様の御健勝をお祈りいたしますとともに、我が国農林水産業及び農山漁村の一層の発展に向けて所感の一端を申し述べ、年頭の御挨拶とさせていただきます。
昨年は、度重なる大雨や台風など、多くの災害が発生し、農林水産業も大きな被害を受けました。被災された方々が、一日も早く生業を再開できるよう、都道府県や市町村、JA等の関係者と一体となって、本年も全力で取り組んでまいります。
農業者が未来に夢や希望をもてるように
農林水産業は、国民に食料を安定供給するとともに、その営みを通じて、国土の保全等の役割を果たしている、まさに「国の基」であります。
一方、我が国の農林水産業は、人口減少に伴うマーケットの縮小や、農林漁業者の減少、高齢化の進行など厳しい状況に置かれています。加えて、近年では、頻発する自然災害やCSFの発生など多くの政策課題にも直面しています。
こうした様々な課題に対応し、農林水産業を次の世代に確実に継承していくためには、生産基盤の強化を図ることが何よりも重要であります。しっかりとした生産基盤を確立してこそ、成長産業とすることが可能になります。
このため、昨年12月には、生産基盤の強化を図るための11項目の関連施策を政策パッケージとして取りまとめた、「農業生産基盤強化プログラム」を策定しました。今後、これに則して、肉用牛・酪農の生産拡大や新たな需要に応える園芸作物の生産体制強化など、生産基盤の強化と成長産業化のための改革を一体的に進め、自然災害や国際競争にも負けない強い農林水産業・農山漁村を構築してまいります。
以下、本年における農林水産業行政の主な課題と取組の方針について申し述べます。
【食料・農業・農村政策】
本年1月1日に発効した日米貿易協定については、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限との考え方の下、粘り強く交渉に取り組んできた結果、農林水産品に係る日本側の関税について、TPPの範囲内とすることができました。
TPP、日EU・EPAに続くこの日米貿易協定により、我が国は名実共に新たな国際環境に入ります。農林漁業者をはじめとする国民の皆様の懸念と不安を払拭するため、引き続き、合意内容について説明を尽くしてまいります。
また、昨年12月に改訂された、「総合的なTPP等関連政策大綱」に基づき、規模の大小を問わず、農林漁業者が持つ可能性と潜在力を最大限発揮して生産の拡大や所得の向上を図りつつ、国内外で高まるニーズに応えられるよう、万全の対策を講じてまいります。
TPPなどの経済連携協定の発効は、おいしくて、安全な我が国の農林水産物や食品の輸出を拡大するチャンスをもたらします。GFPを通じた輸出業者とのマッチングへの支援や戦略的なマーケティングを強化してまいります。同時に、海外に和牛遺伝資源や植物新品種が流出し、日本の強みが失われないよう、戦略的な知的財産の保護について、法制度の整備を進めます。
更なる輸出の飛躍のためには、輸出先国による規制の緩和・撤廃に向けた対応を加速していく必要があります。このため、先の臨時国会で成立した、「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」に基づき、農林水産省に設置する「農林水産物・食品輸出本部」を司令塔として、輸出先国との協議、輸出を円滑化するための施設の認定、輸出のための取組を行う事業者の支援等を、政府一体となって行う体制を整備します。
農業の持続可能性を確保し、次世代に確実に引き継ぐためには、担い手の育成・確保が何よりも必要です。就農の検討・準備段階から経営を確立するまでの総合的な支援などにより、就職氷河期世代も含め、若者や女性など多様な人材の育成・確保を進めます。
担い手への農地集積・集約化を加速するため、農地バンクと農業委員会など関係機関との現場レベルの連携を徹底し、人・農地プランの実質化を進めます。
農業の競争力強化や農村地域の国土強靱化を実現するためには、農地や農業用水などの農業・農村の基盤整備が欠かせません。農地の大区画化・汎用化、農業水利施設の長寿命化やため池等の豪雨・耐震化対策を推進してまいります。また、収入保険の更なる普及推進・利用拡大などを通じ、激甚化する自然災害への対応の強化を進めます。
ロボット、AI、IoT、ドローンなどの先端技術は、農業の更なる体質強化への貢献が期待されています。大規模農業だけではなく、中山間地域でも活用できるスマート農業を実現するため、新技術の開発や実証、実装を推進します。
農業者の努力で解決できない構造的な問題を解決するため、引き続き、生産資材業界や流通・加工業界の再編・参入を促進するとともに、関連制度の見直しを進めます。
地域の農業を発展させていくためには、農業者の所得向上に全力で取り組む農協が欠かせません。農林水産省としても、JAグループが自己改革の取組を着実に進め、具体的な成果を上げるよう、改革に協力してまいります。
米政策については、米の需給及び価格の安定を図っていくため、需要に応じた生産・販売を促していく必要があります。引き続き、麦、大豆、飼料用米などの戦略作物や高収益作物など水田フル活用に向けた支援を行うとともに、きめ細かい情報提供などを行います。
農山漁村は、都市に先行して人口減少・高齢化が進んでおり、その活性化は喫緊の課題です。美しい棚田や田園風景が守られ、中山間地域をはじめ活力ある農山漁村を実現するため、日本型直接支払制度の充実により地域の共同活動を支援しつつ、都市と農山漁村の交流人口の拡大やデュアルライフの促進、鳥獣被害対策や安全で良質なジビエの利活用、農泊や農福連携の推進など、地域の特色を活かした多様な取組を総合的に推進いたします。
食の安全と消費者の信頼を確保するため、引き続き、科学的根拠に基づく食品の安全性確保と、正確な情報伝達による消費者の信頼確保に取り組みます。
CSFについては、その封じ込めに向け、都道府県や関係省庁と連携し、防疫の基本となる飼養衛生管理の徹底、予防的なワクチン接種、捕獲強化や経口ワクチン散布といった野生イノシシ対策などにしっかりと取り組みます。
また、アジア各国で発生しているASFにつきましては、CSFと異なり有効なワクチンが存在しません。このため、農林水産省を中心に、関係省庁一体となって、国内に持ち込ませないための水際対策を徹底するとともに、野生動物侵入防止対策の義務付けを含む飼養衛生管理基準の改定など農場に持ち込ませないための対策を強化していきます。
更に、今般のCSFの国内における発生状況やASFのアジアにおける感染拡大状況も踏まえ、家畜伝染病予防法を検証し、必要な法制度の整備を進めていきます。
【森林・林業政策】
林業については、戦後造成された人工林の多くが利用期を迎える中、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を図るためには、国産材の安定供給体制の構築と木材需要の拡大を促進することが必要です。
このため、昨年9月から譲与が始まった森林環境譲与税も活用しつつ、森林経営管理制度と改正国有林法に基づき4月から開始する樹木採取権制度により、意欲と能力のある林業経営者への森林の経営管理の集積・集約を進めます。
また、林業イノベーションを進めるとともに、CLTの普及などにより木材の需要拡大を図ります。さらに、森林組合の経営基盤を強化するため、組合間連携手法の多様化などに向けた法制度の整備を進めてまいります。
【水産政策】
水産業については、水産政策の改革を着実に推進し、水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させ、漁業者の所得向上と年齢バランスのとれた漁業就業構造を確立する必要があります。
このため、本年中に施行される改正漁業法も見据え、将来の水産資源の持続的な利用を目指して国際的にみて遜色のない資源管理を推進するとともに、外国漁船による違法操業への取締を強化します。また、輸出の一層の拡大にも対応するため、戦略的な養殖業の振興、若者に魅力のある漁船漁業の構造改革、生産・加工・流通・販売が一体になったバリューチェーン構築等を進めてまいります。さらに、近年の不漁や災害にあっても、漁業者が安心して漁業を営むための漁業者の収入安定を図る措置を講じてまいります。
【東日本大震災からの復興】
昨年九月に訪問した福島県では、原発事故の影響を受けつつも、震災前のように立ち直るため、懸命に取り組んでおられる方々の声を直接お伺いしました。復興に向けて一歩一歩前進していますが、まだ道半ばであることも実感しました。前向きに取り組む農林漁業者の方々を後押しするため、地域ごとの多様な課題に対応できるよう市町村への人的支援など、きめ細かな支援を行います。被災者の方々の気持ちに寄り添い、将来を見据えた復興・創生を実現できるよう全力で取り組んでまいります。
以上、年頭に当たり、農林水産行政の今後の展開方向について、私の基本的な考え方を申し延べました。
国民の豊かな食生活とそれを支える農山漁村を次世代に引き継ぐため、産業政策と地域政策を車の両輪として実行し、「強い農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」を実現する。そのことを通じて、食料自給率を向上させ、食料安全保障の確保を図ります。
そして本年は「食料・農業・農村基本計画」の五年に一度の見直しを行います。現場の声に真摯に耳を傾けながら、農政における様々な課題に的確に対応し、農業者が、農業・農村の未来に夢や希望を持てる計画としてまいります。
本年も、農林水産行政に対する皆様の御支援と御協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。
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