農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】普天間朝重 JAおきなわ理事長:「さあ、始まりだ」。協同組合が終息後の社会の中心軸に2020年4月28日
新型コロナウィルスの脅威と農業への影響
コロナウイルスは、農業の生産現場にも直接的に大きな負荷をかけている。普天間JAおきなわ理事長に、いま農業生産現場に何が起きているのか、そしてその対策として何が必要なのかを分析するとともに、終息後の世界に向けて協同組合人が心すべきことは何かを提言してもらった。
◆戦争映画のワンシーンような国際通り
きっと誰かが「パンドラの箱」を開けたに違いない。世界は今、新型コロナウィルスと戦っている。米国大統領が「私は戦時の大統領」というように、このウィルスが世界に蔓延し、多数の人が感染、死亡している。各国で非常事態宣言が発令され、国民には外出自粛が求められ、企業においては一時休業の要請が出されている。本県観光のシンボル国際通りもほとんどの店舗でシャッターが下ろされ、人影もまばら。さながら戦争映画のワンシーンのようだ。
金融市場の動揺も大きかった。各国の株式相場が軒並み暴落、あわてた中央銀行はどこも一斉に金融緩和に乗り出した。マイナス金利は当たり前で、その他の国もほぼゼロ金利だ。だが金利のマイナスは政策的なものでわかるが、実物価格である原油価格までマイナスになるとは(いくら先物価格とはいえ)。
◆国際市場での食料不足を懸念
これを戦時というなら、不安なのが食料貿易だ。感染症対策のための移動制限で物流が寸断される一方、国内市場を優先する産出国が輸出規制に乗り出している。こうした輸出規制が広がれば国際市場における食料不足が起きかねない。さらに各国における都市封鎖などにより食料の出荷や農業労働者の確保が困難な状態が続けば、需給ひっ迫から食料を輸入に依存する国は厳しい状況におかれる懸念がある。米国ではすでに大型農家の労働力確保が困難となっており、生産にも影響しているという。
食料自給率37%がいかに心もとないか、真剣に考えるべきだ。4月22日開催のテレビ会議によるG20の農相会議では日本の江藤農相が新型コロナを理由に、不必要な輸出規制をしないよう各国に呼びかけたが、可能だろうか。これまで本誌の紙面で幾度となく食料安全保障について指摘してきたが、あえて繰り返せば、08年(あの2008年)にイタリアのローマで開催された「食糧サミット」で世界的な穀物価格高騰への対応を協議する中で、日本の総理大臣が穀物輸出国に対して輸出規制を自粛するよう要請したが、輸出国からは「自国民の食料を守ることは当然のことであり、自国の食料確保を優先する」と反論され、日本の要請はあえなく一蹴された。同じことが繰り返されようとしている。今回の農相会議で各国が理解を示したとすれば、輸出国の食料事情がまだそこまでひっ迫していないだけだ。
政府はこのたびの「新たな食料・農業・農村基本計画」において食料自給率の向上に今まで以上に力点を置いていることを評価したうえで、今回の世界的なコロナウィルスの蔓延によるサプライチェーンの寸断と自国優先の食料輸出規制が食料自給率向上の機運を高める契機になることを期待したい。今度こそ。
◆下落する和牛、花き価格
コロナウィルスの蔓延は国内農業にも大きな影響を及ぼしている。畜産においては和牛の価格が急落している。各地で観光客の減少から地域ブランドの和牛の消費が落ち込んでおり、枝肉相場(東京相場:去勢A4等級)はキロ単価が3月末の2,101円から4月下旬には1,200円台に急落している。その影響で子牛価格も急落しており、従来の1頭の平均価格が概ね80万円台から直近は60万円台に下落している。
花卉類においても冠婚葬祭の縮小化や各種イベントの自粛、大手量販店の休業などにより仲卸の荷動きが鈍化して販売に苦戦、4月に入り単価は急落している。「菊類は平年比16円安の25円。カーネーション類は同20円安の27円。旬のガーベラは同9円安の14円」(日本農業新聞)という状況だ。
沖縄県においては、主流である3月までの県外端境期出荷品目が終了しているものの、今後の出荷品目については大きな影響が出るだろう。何と言っても航空便が大幅に減便している影響で本土市場への出荷が滞り、今後旬を迎えるパインやマンゴーなどの販売が苦戦しないか、不安が広がっている。
花卉においてもこれから夏秋菊の収穫が始まるが、本土市場への輸送問題や量販店の休業を受けて販売単価が大きく下落しないか、戦々恐々である。JAとしては今後、船舶輸送への切り替えや場合によってはチャーター機の導入も視野に入れなければならないかもしれない。
畜産においても、まず家畜市場の運営が不安材料だ。現在の状況を鑑みると子牛価格の下落はある程度やむを得ないとしても、本土から購買者が来ていただけるのか、もし来ていただけないような事態にでもなれば家畜市場の開設ができるのか。できない場合、繁殖農家は経営を維持できるのか、など不安は尽きない。肥育牛にしても県産和牛で様々なブランドがあるが、販売不振から多くの牛が滞留しており、ブランドとして独自に設定した基準の範囲を超えないか、農家には緊張が走る。
農家の資金繰りも心配である。JAでは農家向けに無担保・無保証で低利の融資を行っており、当面はこれで乗り切れるだろうが、コロナウィルスの感染拡大が長期化すれば融資だけでは農家は厳しいだろう。既往貸付金の条件変更やハウスのリース料支払いの猶予などの対策も今後必要になってくるかもしれない。その間に政府が示した経済対策において農家支援に向けての具体策が示されるだろうが、JAの支援策と合わせてより効果が高まるよう工夫していきたい。
◆離島問題、労働力確保の具体策を
生産基盤の問題もある。本県には多くの離島があり、万が一にでも離島で感染が拡大するようなことになればどうなるのだろう。
本県の基幹作物であるさとうきびの8割は離島であり、肉用牛も離島が7割を占めるが、そうした地域で感染拡大ともなればもはや農業だけの問題でもなくなるだろう。実際、離島は安全だということでコロナウィルスからの避難を目的に観光客が訪れるケースもあるという(「コロナ疎開」と呼ばれている)。
本県の離島問題を通じてこれまで何度も「産業政策と地域政策は車の両輪である」と指摘してきたが、今度の新たな基本計画ではこの認識がかなり強調されているのは心強い。本気で離島問題を考えてほしいし、きちんと具体策を示してほしい。
また、農業現場においても人手不足から外国人研修生が大きな力を発揮しているが、外国からの受け入れが滞る事態になれば農家の労働力確保が困難となる。現に当JAでも4月から受入予定の10名のベトナム研修生がいまだに自国から出国できない状態が続いている。新たな基本計画では従来の農業の成長産業化、あるいは大規模化・法人化というだけでなく、中山間地の小規模農家、家族農業の役割も重要であるとの認識が示されており、そうであれば、農家が高齢化する中、労働力確保が喫緊の課題であり、JAでもこの数年特に力を入れてきた事業でもあるので、その環境整備に政府も強力に支援してほしい。
◆JAの経営体力ぎりぎりまで全力で対策
JA全中は4月9日、「持続可能なJA経営基盤の確立・強化に向けた基本的対応方向について」を示し、今後の重点取組みとして、(1)経済事業の収益力向上・収支改善、(2)店舗・ATMの再編、(3)市場運用を踏まえた貯金の調達管理を挙げている。その通りだ。
当JAにおいても現在、農業事業収支改善PTを立ち上げ、実践に入っているところであり、店舗再編計画についても去る3月開催の経営管理委員会で決定した。だが、何にしても今はコロナウィルスの影響下、まずは農家の経営支援を優先に取り組むべきだろう。すでに農家から悲痛の訴えが数多く寄せられている。
マイナス金利の長期化で信用事業収益が落ち込み、農産物販売価格の急落で農業事業も低迷するなどJAの経営も厳しさを増しているが、経営体力ぎりぎりまで全力で対策を講じるつもりだ。
◆民族、人種、宗教の違いは些細なこと
一方で終息後の世界、社会がどう変化するのかも今から考えておくべきだ。わかったことがある。
人類にとって生存の危機をもたらす共通の敵(さらに進化したウィルスかもしれないし、宇宙人かもしれない)が現れた時、民族や人種、宗教などの違いはごく些細なことだということを世界が認識したことだ(そうであってほしい)。そんなことで紛争している場合ではない。
扉が閉じると、もう一つの扉が開く。閉じられた扉を悔やんでいては別の扉が見えなくなる。先の見えない危険な時期にあって、効果的な解決策は少ないが、最悪なのは何もしないこと。「もう終わりだ」と思うのも、「さあ、始まりだ」と思うのも、どちらも自分だ。
「共存共栄」という言葉が輝きを増し、「相互扶助」が勇気を与え、「一人は万人のために、万人は一人のために」が世界共通の行動指針となるなら、それはまさに協同組合の世界そのものではないか。
別の扉が見えてきた。コロナウィルス終息後の新たな社会システムにおいて協同組合が中心軸になれるよう、「さあ、始まりだ」。
【緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたちの記事一覧】
・田代洋一 横浜国大・大妻女子大名誉教授:日本の「歪み」映し出すコロナは「鏡」
・鈴木宣宏 東京大学教授:一部の利益でなく国民の命が守られる社会に
・山下惣一(農民作家):多極分散国づくりめざせ
・金子勝 立教大学特任教授:東アジア型に新型コロナ対策を転換せよ
・普天間朝重 JAおきなわ理事長:「さあ、始まりだ」。協同組合が終息後の社会の中心軸に
・姉歯暁 駒澤大学教授:コロナ禍の真の災禍とは何かを考える
・森田実 政治評論家:コロナショックによる世界の大変動と日本の選択
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