農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
浜矩子 同志社大学教授 「今以上の歪みを許すまじ」【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】(下)2020年5月13日
「世のため人のため」よりも「我がため」優先の安倍政権
浜矩子 同志社大学教授
◆非常事態下で独裁強化の国も
この暴挙によって、この国のかたちはポーランド化しつつある。筆者はそう思う。ポーランドは現在のEU(欧州連合)の中にあって、その政治の強権体質が大問題となっている。極右排外主義的な「法と正義」党の党首であるヤロスワフ・カチンスキが事実上の独裁体制を敷いているのである。
ことのほか問題視されているのが、彼の司法への介入だ。カチンスキ氏が強行してきた制度変革によって、司法官の任免に関する政治の影響力は大幅に強化された。政府の政策に対して批判的な見解を表明する裁判官については、政府による解任が可能になった。そのための新法には、誰言うとなく「さるぐつわ法」のあだ名がついた。最高裁判所長官については、「法と正義」の息がかかった裁判官たちによる選任がやり易くなるよう体制が整えられた。
検察官と裁判官。いずれも、政治の関与から完璧に隔離されていなければいけない存在だ。政治からの独立は、完全に守られていなければならない。それが、まともに機能する民主主義の根幹であることは言うまでもない。だが、ポーランドそして日本において、この不可侵であるはずの原理が侵されようとしている。しかも、日本ではこのとんでもない展開が、パンデミックのさなかに持ち上がっている。今は、政治と政策が全身全霊を傾けてこの災禍への対応にまい進しているはずの時だ。ところがその時、検察の私物化への道を開くための企みが、国会の中を駆け抜けようとしている。この国のかたちを、独裁体制に向かって作り替えようとする行動が具体化しているのである。
ポーランドのカチンスキ氏と並んで、強権的独裁をほしいままにしているのがハンガリーのビクトル・オルバン首相だ。新型コロナウイルス対応で導入された非常事態法の下、オルバン首相は自らの権限を大幅に強化した。
この法律に基づいて発令された非常事態宣言は、政府が新型コロナウイルスによる危機が収束したと判断するまで、無期限延長することができる。議会の議決を経る必要はない。非常事態宣言の発令期間中は選挙は行われない。非常事態宣言が無期限で続けば、選挙もまた無期限で実施されないわけだ。
新型コロナ関連で流言飛語を流布したとみなされた者は、最高5年の禁固刑に処せられる。何が流言飛語なのか、何をもってフェイクニュースとみなすのかは、むろん政府が判断する。反骨のジャーナリストや人権活動家たちが、「流言罪」で大量に収監される恐れがある。
オルバン首相は、ここ10年ほどハンガリーの政治を牛耳ってきた。彼が率いる与党フィデス・ハンガリー市民連盟(Fidesz)は首相の完璧な下僕だ。そして、議会で3分の2の議席を占めている。オルバン氏は、自分が追求しているのは「自由無き民主主義」だと公言してはばからない。事実上の独裁者の地位をほしいままにしている。
既にして、ここまで来ているのである。何も、ここでさらにまた権力の拡大強化に乗り出さなくてもよさそうなものだ。だが、権力亡者の欲には限りがない。権力を得れば得るほど、さらにもっと権力を得たくなる。
事実上の独裁では満足できないのだろう。独裁体制を制度上も確立する。それをずっと狙ってきたに違いない。そもそも、独裁者は法の支配を求めないのであるから、これもおかしな話ではある。だが、とにもかくにも自分の権力基盤を微動だにしない絶対的なものにしたかったのだろう。この思惑を抱くオルバン首相にとって、パンデミックの到来はどんな好機にみえていることだろう。よこしまな野望を抱く下心政治家の心理とは、何と恐ろしいものであることか。
◆「指導力の無さ」には警戒を
永遠に続く非常事態宣言の中で、言論が抑え込まれ人権と民主主義を守ろうとする人々が弾圧される。このような国のかたちが日本で出現するようなことは、決してあってはならない。日本の善良で賢い市民たちがそんなことを許すはずはない。そう思いたいし、そう確信する。
ただ、気になることが一つある。それは、ここに来て安倍政権の「指導力の無さ」に対して世論の批判が高まりつつあることだ。今求められているのは、もっと「強いリーダーシップ」だ。このような声もしばしば聞かれるようになっている。これは、実に要注意現象だと思う。
検察庁法の改正案を、どさくさに紛れて国会通過させようとする。政府のこのやり方につけられた「火事場泥棒」の異名は、実に言い得て妙だ。ポーランドの「さるぐつわ法」に勝るとも劣らない。このようなネーミングがぴったりな政府与党に、指導力の強化を求めてはいけない。彼らに、この国のかたちをこれ以上、歪めさせてはいけない。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日