農政:特集
コロナ禍から「新たな生活様式」へ一歩を NPO法人ウィメンズアクションネットワーク 上野千鶴子理事長【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】(上)2020年6月2日
非常事態で社会的弱者に及ぶしわ寄せ
新型コロナウイルス感染拡大で多くの課題が露呈する中、社会的弱者にしわ寄せが及んでいる。休校になった子どもの世話を担う母親、密着性のある介護を必要とする高齢者などには、行政からの救いの手も乏しい状況でケア軽視の日本社会を浮き彫りにした。上野千鶴子NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長(東京大学名誉教授)は、ジェンダー問題の観点から、コロナ禍から学び望ましい新たな生活様式を確立すべきだと説く。
◆コロナで潜在的問題が「見える化」非常時には平時の矛盾が拡大・増幅して表れる。「もうコロナの前には戻れない」という声も聞かれるが、そんなに驚くべき事態が起きているわけではない。日本ではなぜPCR検査が極端に少ないのか? なぜならSARS(重症急性呼吸器症候群)、MARS(中東呼吸器症候群)で被害が少なかったために、諸外国が学んだようには日本は学ばなかったからである。
なぜ、医療現場がこんなに疲弊しているのか? もともと人口当たりのベッド数を削減し、医師の養成を抑制してきたツケが表れた。
なぜ、日本の行政機構はこんなに非効率なのか? 行革路線で公務員を徹底的に削減し、先進諸国の中でも人口当たり公務員数が少ないからである。
なぜ、遠隔授業がうまくいかないのか? それ以前から日本の教育のICT化が、圧倒的に後れをとっているからだ・・・と。
コロナ禍はグローバリゼーションのもとで世界が否応なくつながっていることとともに、世界が国境によって分断されていることを明らかにした。国境内外における政治的リーダーシップの違いも、赤裸々に示した。思いつき、専門家軽視、中途半端で非一貫的な政策、どさくさ紛れの強権政治・・・を推し進める愚かなリーダーを持ったことで、わたしたちは心底情けない思いをした。
国内でも地方自治体の首長のリーダーシップの違いが際立った。地域差があるのに地方の主体性を発揮せず、国に一律に決めてもらいたいという自治体首長の横並び意識にもがっかりした。
コロナ禍のもとで、元々あった問題が「見える化」したことと、元々起きていた変化が加速したことの両方がある。既にさまざまな論者が、政治、経済、農業などについて論じているから、私の目に映ったジェンダー関連の問題を指摘したい。
◆聞こえてくるのは母親の悲鳴だけ
2月29日専門家会議の諮問を待たずに、突然安倍首相が発した「全国一律休校要請」によって、働く親たちはパニックになった。子どもが学校へ行かなくなったら、いったい誰が世話をするというのか? 預け先の祖父母がいればよいが、そうはいかない。学童も保育園も閉鎖する。こういうときに浮上するのはいつも「母親」である。
休業補償も出されたが、働かなければ子どもを食べさせていけないシングルマザーはどうすればよいのか。しかも、この休業補償の対象からは当初風俗業の女性が排除されていた。風俗業にシングルマザーが多いことは周知の事実である。
休業補償金の対象は雇用者のみ。派遣やフリーランスは含まれない。だが、非正規労働者に女性が多いことも周知の事実。派遣切りはまっ先に女性に及んだ。2020年3月の非正規労働者は前年同月比で女性が29万人減、男性が2万人増。「景気の調整弁に使われている」と指摘されるが、元々労働者派遣を合法化した「雇用の規制緩和」は、それを政策設計の意図とし効果としていた。安倍首相は、自分の政権下で雇用を拡大したと胸を張るが、増えたのはもっぱら非正規雇用で正規雇用は横ばいのまま。男性の非正規雇用増は、正規雇用からの転換とみるべきだろう。
職を失い、家にいる夫や子どもの世話を一手に引きうける女性の間からは、直ちに悲鳴があがった。3食作る家事負担が増えた。食費がかさむ。夫婦がともにテレワークをする場合でさえ、夫のテレワークが優先され妻のテレワークは寸断された。そのうえ、夫のストレスは妻や子どもに向かう。DVの増加も懸念された。
シングルマザーの間からは、明日子どもに食べさせるものがない、自分は1食に減らして子どもに食べさせているという切迫した声もあった。
子どもは一人で勝手に育っているわけではない。食べさせ、着させ、世話をやく者がいて初めて育つ。非常時のもとで聞かれたのは「母親」の声ばかり。父親たちは何をしているのか。
重要な記事
最新の記事
-
【第46回農協人文化賞】資金循環で地域共生 信用事業部門・埼玉県・あさか野農協組合長 髙橋均氏2025年7月14日
-
【第46回農協人文化賞】組合員の未来に伴走 信用事業部門・秋田やまもと農協常務 大鐘和弘氏2025年7月14日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 三重県2025年7月14日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2025年7月14日
-
主食用米の在庫なし、農機の修理・メンテナンス年3000件 JA常総ひかり2025年7月14日
-
【'25新組合長に聞く】JA岡山(岡山) 三宅雅之氏(6/27就任) 地域を元気にするのが農協の役割2025年7月14日
-
JA全農ひろしまとJA尾道市、ジュンテンドーと 売買基本契約を締結、協業開始2025年7月14日
-
蒜山とうもろこしの宣伝強化 瀬戸内かきがらアグリ事業も開始 JA全農おかやま2025年7月14日
-
酪農の輪 プロジェクト 夏休み親子で「オンライン牧場体験」開催 協同乳業2025年7月14日
-
大阪府泉北郡に「JAファーマーズ忠岡」新規開店 JA全農2025年7月14日
-
食農と宇宙をつなぐイベント あぐラボとMUGENLABO UNIVERSEが共催2025年7月14日
-
岩手県産のお肉が送料負担なし「いわちく販売会」開催中 JAタウン2025年7月14日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(2)2025年7月14日
-
「とちぎ和牛」が7年ぶりに全国最高位 "名誉賞"獲得 「第27回全農肉牛枝肉共励会」2025年7月14日
-
【役員人事】北興化学工業(9月1日付)2025年7月14日
-
第148回秋田県種苗交換会キャッチフレーズ決定 全国906作品から選出2025年7月14日
-
無料でブルーベリー食べ放題 山形・鶴岡の月山高原で地域活性イベント開催2025年7月14日
-
農地調査AI支援サービス「圃場DX」デジタル庁「技術カタログ」に掲載 LAND INSIGHT2025年7月14日
-
クマ対策用電気さく線「ブルーキングワイヤー」販売を本格化 未来のアグリ2025年7月14日
-
屋外作業の暑さ対策製品など展示「第11回 猛暑対策展」に出展 サンコー2025年7月14日