農政:コロナ禍 どうなるのか?日本の食料 変動する世界の農業生産
鼎談 コロナ禍と世界の食料・農産物貿易(3)【コロナ禍 どうなるのか?日本の食料 変動する世界の農業生産】2020年9月7日
新型コロナウイルス感染症が長期化すると世界の農業生産と農産物貿易の影響が広がる可能性もある。一方、わが国は3月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画では農林水産物・食品の輸出額を令和12年までに5兆円とする目標を掲げている。コロナ禍のなか、輸出を日本農業の戦略にどう位置づけるか。ビジネスの変化も含めて課題と見通しを話し合ってもらった。
【出席者】
佐々木伸彦日本貿易振興機構(JETRO)理事長
高橋千秋高橋総合研究所代表取締役、日本農産物輸出組合理事長(元参議院議員、元外務副大臣)
谷口信和東京大学名誉教授

意外な食品が売れている
佐々木 一方でアメリカでよく売れる日本の食品は「お菓子」です。また今回、巣ごもり需要で中国へのパンケーキミックスの輸出が増えたといいますが、これらはいずれも必ずしも高級レストランで食べるものではありませんね。しかし、向こうできちんと需要があり、船賃をかけて持って行っても見合うだけの値段で売れ評価されているということです。
ですから何を持っていったら売れるかというマーケティングをもっとしっかりやればまだまだ可能性があるということだと思います。金額では非常に小さい農産物や食品かもしれませんが、これまであまり輸出してこなかった日本のような国にとっては、それを集めれば非常に大きな金額になる。やはり「マインド」を変えていけば新しい可能性が出てくると思います。
高橋 たしかにマーケティングが重要です。
昨年、中国のある食品メーカーに呼ばれてパスタ工場を見学してきました。そこでは何億円もするイタリアの機械を買ってパスタを作っていたのですが、試食したらおいしくない。そこで日本から持っていったレトルトのパスタソースを出したらみんなびっくりです。彼らはパスタを食べたことがないわけで、むしろここに輸出するチャンスがあると思いました。
佐々木 日本人があまり気づいていないちょっとした具材などは今後の中国や韓国でものすごく需要があると思います。
10年前に北京駐在の経験がありますが、フランス料理やイタリア料理を食べたことはありませんでした。彼らは日本料理を除くと中華料理以外おいしいと思わず、関心がないため食べる場所がないわけです。しかし、先ほどのパスタの話のように、日本人があまり価値を見出してこなかったものに外国人が価値を見出し、高いお金を払うという層が出現してきているということを考える必要があると思います。
高橋 昨年、中国で日本酒を売りたいという相談も受けましたが、今「獺祭」が上海では1万元(16万円)することもあります。それでも買う。それをみて日本のお酒を輸入したいという企業もあり、2年前にJETROもかかわって上海で開いた輸入博の会場に日本酒の常設展示をしてほしいというオファーがありました。ただ、相談を受けるなかで、これは日本国内の問題になりますが、輸出ルートがバラバラであることが分かりました。慣習に縛られ簡単にそれをまとめられないという話でした。つまり、いろいろなところを整備しないと売るチャンスはあるのに売れないという課題もあるということです。
鍵を握るデジタル化とオンライン化
佐々木 農産物輸出の文化がまだ十分に広がっていないわけですから、これをぜひ1兆円目標のなかで整理し、国としてどんどん輸出をしていくという体制に入っていかなればならないと思います。
先ほども言いましたようにわれわれはオンラインでのマッチングを始めようとしています。手始めに香港でJETROのコーディネーターが現地バイヤーをめぐってどういうものがほしいか探ってきてもらい、その情報をオンラインで日本全国に流し、手を挙げた人は現物をどんどんJETROの香港事務所に送ってもらう。バイヤーはJETROの香港事務所に行けば、そこで現物を見ることができるー、というようなことをやろうとしています。出品者にとって展示会は旅費も相当かかることなどから敷居が高かった面もあったかもしれませんが、それが居ながらにして海外へ情報発信できるようになるわけです。
コロナが収束したとしても、オンライン化は進んでいるだろうし、その時、「居場所がない」ということにならないようにしなければならない。われわれとしても「デジタルJETRO」を進めていこうということです。
農家の方も直売所に自分で持ち込めば、誰かがそれを見て買うという流れができていますが、同じように「デジタルJETRO」に持っていけば世界中に広がる。そういうことができるようになるとずいぶん農産物輸出も敷居が低くなると思います。
谷口 そういう取り組みに期待します。実は、1991年は相次ぐ台風による大雨で秋冬野菜が不作になって価格が暴騰し、大手量販店がアメリカや中国からレタス、キャベツ、エンドウ、セルリー等を初めて緊急輸入しました。生鮮野菜の輸入はできないとされていたのがやってみたらできて、以降、中国から生鮮野菜が入ってくるようになったわけです。これは日本の生産者にとっては打撃となりましたが、一方で生鮮物の貿易は無理と決めつけないことが大事だということを逆に教えた例だと思います。
今後の見通しは?
谷口 最後にコロナ禍のなかで、今後にどんな見通しを持っておられるかをお聞かせください。
佐々木 ワクチンの開発とその有効性など分かるまで今の状況は続くことになるのではないかと思います。
ただ、その間にやらなければならないことはたくさんあり、人と人の接触がなくてもオンラインで、以前と同じような取引きができる術を追求していかねばなりません。逆にそれをやってみたら意外にコストが少なくてその方がいいということもあるでしょう。したがって、コロナ収束後は、完全に昔に戻るのではなく、いい部分は残っていくと思います。生産者の皆さんもとにかく生き延びなければなりません。輸出の面でその支援を引き続きしていきたいと考えています。
高橋 いつ元に戻るかとよく聞かれますが、たぶん元には戻らないと思います。昨日ある企業の創立式典に出席しましたが、初めてオンラインで開いたそうです。昨年の今頃はこんなことになるなんて誰も考えていませんでしたが、一方でこれだけオンラインが進んだのは、コロナが原因でしょう。やらなきゃならないとみんな思っていたが、避けていた節もあります。農産物輸出もそれと同じでやはり1兆円、さらに5兆円の輸出目標をきちんと持って取組んでいくべきだと思います。
(鼎談を終えて)
新型コロナウイルス禍は農産物・食品の需給と流通に大きな影響を与えたが、それは人の移動に関しては重大だったが、物流においては意外に小さかった▼日本はもっと早くから長期的な戦略をもって輸出に取り組んできたならば、多様な農産物・食品にチャンスが開けていただろうという佐々木理事長の指摘に我が意を得た思いがした▼高橋代表取締役が強調されたマーケティングの重要性を物流のあり方・確保と結びつける視点は清新だった▼国内生産とのバランスを考えながら農産物輸出の意義を考えることが大切だと感じた(谷口信和)。
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