農政:コロナ禍 どうなるのか?日本の食料 変動する世界の農業生産
鼎談 国民の食料 支えるのは農協組織(4)【コロナ禍 どうなるのか? 日本の食料 変動する世界の農業生産】2020年10月9日
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは終息を予想することがいまだできない。ただし、農業生産や食料供給への打撃を回避しようとする各地の取り組みから、今後の予測と私たちが進むべき方向についていくつかの重要な視点が明らかになりつつある。コロナ禍での世界の動きと日本が考えるべき課題は何か、緊急特集の鼎談第2弾として話し合ってもらった。
【出席者】
平澤 明彦氏
農林中金総合研究所取締役基礎研究部長
谷口 信和氏(=写真)
東京大学名誉教授
川崎 浩之氏 JA全農参事
※川崎氏の「崎」の字は正式には異体字です
コロナ禍があぶりだしたサステイナビリティ問題
谷口 これまでの議論をふまえて今後の社会、そして食料、農業についてどんな課題があるのかを話していただきたいと思います。
平澤 いちばんの変化は不確実性です。すべてのことを不確実である前提でやらなければならなくなりました。ここ1,2年はそうせざるを得ないと思います。
そのなかで、この先どう変わるべきかを考えるといかに柔軟性を確保するか、だと思います。アジャイルといってもいいかも知れません。やはり高付加価値路線で一点集中では、リスク分散できていなかった。ここははっきりしたと思います。輸出で伸ばしていこうといっても結局、中国沿岸部に期待せざるを得ないと思います。インバウンドも中国からです。では中国との間で何かあったらどうなるのか。そう考えると米国など食料輸出国は外需に依存しているため、輸出がだめになるとアウトという農業です。それで痛い目にあっていて、競争相手の他国に市場を取られてしまったりなど、外需というのは不安定なところがあります。
柔軟性や多様性、あるいは何かあったときにすぐ対処できるというのは非常に重要なことだと改めて感じます。
実はそこが農協組織のすごい強みです。縦横の連携があって何かあったらその場で縦横無尽にいろいろ組み換えて対処していける。川下との連携まで含めて今回は農協組織の強みが発揮されたと思います。
川崎 日本という国が未来に向かって持続するには農業の生産基盤がしっかり維持されなければなりません。そのためには、まず需要が確実にあること、そして生産するための資材が競争力あるコストで安定的に供給されるということです。
原材料の供給という点では、前述のように配合飼料原料は国際マーケットから調達せざるを得ないのですが、安定的に調達するために米国やカナダ、ブラジル、豪州といった輸出国に全農が自らのネットワークを持ったり、海外の農協とパートナーシップを構築したりしています。消費者には見えない部分ですが、備蓄も含めたこうした体制づくりは極めて重要です。しかもますます国際的な不確実性が出てきますから、調達先を多元化してきています。肥料の原料でも国際的な取り組みを展開しています。
需要については、国内での需要をしっかり確保し国産率を高める努力は当然ですが、国内需要の縮小が予想されるなか、輸出により世界の成長を取り込む必要があります。全農グループは、オールジャパンの取り組みや他企業との連携強化、海外の消費者に接近した取り組みとなる海外拠点の拡充、物流・商流の見直し、マーケットインによる輸出専用産地やリレー出荷など生産部分での取り組みなど、生産者手取り最大化・地域活性化につながるよう政府と連携しながら、輸出に積極的に取り組んで参ります。
農業の生産基盤をしっかりと維持拡大することこそ、サステナビリティ―であると確信しています。
谷口 今日の議論で強調されたのはサステナビリティだと思います。コロナ禍は気候危機ともつながっていて、災害の多発なども含め、サステナビリティは追求すべき最高の価値観になっていると思います。地球が維持されるかどうかという危機感がどれだけ共有できるか。このままでは地球がもたないという意識のもとで考える時期に来ていることをコロナ禍は明らかにしたとも言えると思います。ありがとうございました。
【鼎談を終えて】
四字熟語で鼎談の雰囲気を表現してみた▼自由闊達。談論風発。気分爽快▼何故だろうかと思案したら、コロナ禍のおかげだと膝を叩いた▼絶えて久しくなった居酒屋談義がそこにあった▼お二人の意見はいずれも現場実態に根差した豊かな経験・知識をもとに、世界を視野に収めながらも日本の将来を見据えていた▼この間、日本に欠けていたのは事実にしっかりと立脚しながら、科学的な思考方法で行う「丁寧な議論」であって、繰り返し同じことを話す「丁寧な説明」ではない▼丁寧な議論の結論がサステナビリティの重要性であったことが何よりも心地「酔い」ひとときとなった。
(谷口信和)
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