農政:コロナ禍 どうなるのか?日本の食料 変動する世界の農業生産
鼎談 国民の食料 支えるのは農協組織(2)【コロナ禍 どうなるのか? 日本の食料 変動する世界の農業生産】2020年10月9日
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは終息を予想することがいまだできない。ただし、農業生産や食料供給への打撃を回避しようとする各地の取り組みから、今後の予測と私たちが進むべき方向についていくつかの重要な視点が明らかになりつつある。コロナ禍での世界の動きと日本が考えるべき課題は何か、緊急特集の鼎談第2弾として話し合ってもらった。
【出席者】
平澤 明彦氏
農林中金総合研究所取締役基礎研究部長
谷口 信和氏
東京大学名誉教授
川崎 浩之氏 JA全農参事(=写真)
※川崎氏の「崎」の字は正式には異体字です
穀物在庫は中国に集中
谷口 今回は2008年のときと違い世界的な穀物在庫率は高いですね。
川崎 在庫率は、トウモロコシ・大豆ともに25%以上、小麦・米はともに40%前後と合計としては潤沢なレベルになっています。ただ、問題があるとすれば在庫の偏在性です。世界の穀物在庫はどこにあるか? ほとんど中国です。中国は、価格安定、安定供給といった食料の安全保障が国家統治の礎であると位置づけています。この間、中国は米国をはじめとする世界中からトウモロコシや大豆を積極的に買っています。
その背景は、洪水などの自然災害による国内生産への影響や、畜産生産の回復で需要が増えていること、さらにポストコロナの経済回復などにより、中国政府が考える食料安全保障に必要な在庫レベルを下回ることのなきよう国家戦略的に海外から調達を強化しているということだと思います。
世界の在庫量に占める中国の割合はトウモロコシ60%、大豆30%、小麦50%、米60%ですから、世界の主要穀物の半分以上は中国にあります。したがって、トータルでは在庫があっても偏在性を考えるとリスクは従来以上に高まっている。まして、異常気象・自然災害、害虫被害、家畜や人間への伝染病、その他外交問題も頻発するなど従来想定できなかったリスクが世界を襲っているのですから、日本は食料の安全保障の意識をもっと高め、国の施策としてもしっかり取り組む必要があると思います。
谷口 日本も決して小さな国ではありません。人口1億人の国ですから。しかし、それを忘れて食料の重要性に対して国民や政治家の意識が少し低いところがあると思いますね。
平澤 中国は、やはり何か起きたときに一気にかき集めようと思ってもできません。日本だったら今のところ何とかなっている。しかし、人口1億人の日本がこれで大丈夫かどうかというのはグレーゾーンだと思います。
谷口 その通りですね。
川崎 日本が最も輸入に依存しているのは、トウモロコシなどの飼料穀物です。それがなければ家畜の飼料が供給できなくなり、肉・卵・乳製品の国内生産ができなくなります。全農は、自らのネットワークで北米や南米の穀倉地帯から穀物を調達すべく取り組んできました。また、今回のコロナの広がりを受けて早めに船を日本に着けて全農グループのサイロに飼料原料の積み増しを行うなど、何があっても飼料が安定調達・安定供給できるような準備をしました。東日本大震災のときも飼料穀物の備蓄を活用するなどの緊急対応をしましたが、どんな事態でも国産の畜産物・乳製品を安定的に消費者に届けることができるよう、その原料調達にまでリスクマネージメントを行っています。
今後もイレギュラーな事態は頻繁に起こりうることを考えると、国内生産を支える資材である飼料原料や肥料原料で、海外から調達せざるを得ない品目の安定調達・備蓄・代替原料確保など、食料安全保障をどう盤石なものにしていくのかを、国や関係機関と協議し、今から先を見据えた対応策を準備していくことが大事です。
谷口 米国やドイツなどでは食肉処理場で集団感染が発生し、それが食料の供給にも大きな影響を与えました。どんなことが起きていたのでしょうか。
海外労働力依存に限界
平澤 食肉処理場は冷蔵庫のなかというそもそも風邪を引きやすい環境で、しかも密集して重労働をするわけです。
谷口 そういう環境だから本国の人は働かず、欧州では外国人労働者が働くというわけですね。
平澤 しかも米国では外国人労働者が込み合ったバスでやって来るという指摘がありました。
谷口 もうひとつ欧州では5月にホワイトアスパラガス収穫の労働力不足が問題になりました。日本でもそうですが、外国人労働力への依存も大きな問題になっています。
平澤 外国人労働者に依存するというモデルの持続性を考えるべきだと思います。メキシコと米国の関係はすでに変わってきています。1つは移民の規制が厳しくなったこと、もう1つはメキシコの所得が相対的に上がったので、米国で長期間働きたいという人が減ってきたことです。メキシコには雇用はあるわけですから。だからメキシコから来た労働者は高齢化しています。このようにこのモデルの先行きには懸念があります。
今回のことで日本も米国も10年先が見えたといいますか、労働力の出し手の国の経済成長と世界的な高齢化でこれから労働力が不足する時代に入っていったとき、いつまでも安い国から調達することはできるのかということです。
以下、「(3)複合化する食のリスク」に続く
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