農政:2020年を振り返って
持続可能な社会実現に貢献する協同組合 栗本 昭・連帯社会研究交流センター特別参与【特集:2020年を振り返って】2020年12月4日
コロナ禍は一過性のものではなく、乱開発と地球温暖化のなかで今度とも起きることは確実だと言われているなか、未来に向けて持続可能な経済・社会・環境をつくることが迫られています。栗本氏は短期的な業績を求められる株式会社とは異なり、長期的な展望をもって人々のくらしを改善する潜在力をもつ協同組合がそのアイデンティティを実現することでそれが実現できると指摘しています。
![栗本 昭・連帯社会研究交流センター特別参与](https://www.jacom.or.jp/nousei/images/toku20120421_1.jpg)
連帯社会研究交流センター特別参与
危機のなか奮闘する協同組合
2020年は新型コロナウイルスの世界的な拡散による経済活動と社会活動の世界的な大収縮の年として歴史に記される年となるであろう。新自由主義によって医療や保健のシステムが大きく削減されたところにグローバリゼーションによる人と物の交流の活発化によってパンデミック(伝染病の世界的大流行)が急速に広がり、人類の生存を脅かす事態となっている。政治の分野でも自国中心主義、反グローバル化を掲げたアメリカやイギリスの政権はコロナ対策に失敗し、深刻な経済的・社会的危機に陥っている。さらに、世界の国々の協調と連帯が求められる時に、人種的・思想的対立をあおり、新しい冷戦を激化させている。
このような危機のなかで協同組合は人々のいのちとくらしを守るために全国各地で活動している。JA厚生連や医療生協の病院や診療所は文字通り最前線でコロナから人々の生命を守るために闘っており、福祉施設では感染を防ぎながら高齢者の生活を支えている。
JAは食料の安定供給に尽力し、パニックを起こすことなく人々の日常生活を支えている。生協の宅配事業は注文の急増に直面して一時は欠配や遅配を余儀なくされたが、現在は安定的に商品を供給している。大学生協はキャンパスのロックアウトによって営業が制約され、また協同組合の信用事業や共済事業も対面の接触が制約されるなかで新しい形が求められている。
一昨年に発足した日本協同組合連携機構(JCA)はコロナに対する協同組合の取り組みについて情報を集約して共有している。
食料自給力を高める
来年に向けて協同組合は大きな課題に直面している。
一つは国内における食料の自給力を高めることである。今回のコロナ危機を通じて国民は食料の6割強を外国に依存していることの脆弱性を実感したと思われる。1960年代以降の食料自給率の継続的低下には様々の要因が考えられるが、海外からの輸入の増大と併せて、生産者の高齢化やリタイヤによる耕作放棄地の拡大や生産基盤の弱体化が大きな要因である。
世界各地でITを使った食料生産の効率化や省人化など、デジタル・トランスフォーメーションが進められており、フランスではコロナによる失業者の就農が大規模に取り組まれ、国境封鎖による労働力不足に対応している。食料の自給に対する国民の意識が変わりつつあるいま、危機をチャンスに転換することが重要である。
さらに、協同組合で働く人々は欠くことのできないエッセンシャル・ワーカーとして感染の恐怖と闘いながら組合員への商品やサービスの提供を続けている。このような職員の頑張りを評価し、協同組合で働くことの価値を再確認することが求められている。職員が働く場の安全を確保し、燃え尽き症候群に陥らないように労働環境を整えることは理事や管理者の責任である。感染防止のための導線の確保や組合員・利用者とのコンタクト方式の整備など、安全のためのシステムを整備するとともに、緊張が続く職員のメンタルのケアをすることも求められている。
長期的展望を持ち人びとの暮らしを改善
また、2020年はICA(国際協同組合同盟)の創立から125年、「協同組合のアイデンティティ声明」の採択から25年という節目の年となり、アジアで初めて1992年に開催された東京大会に続いてソウル大会が開催されることになった(コロナ流行のため来年末に延期された)。これは韓国における協同組合基本法制定後の協同組合の爆発的な拡大に対する国際的な評価の賜物である。
ソウル大会のテーマは「協同組合のアイデンティティを深める」であり、私たちは協同組合のアイデンティティ(協同組合の定義、価値と原則)に基づいて事業と活動の点検をすすめるとともに、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて貢献することが求められている。そのため、ICAはウェビナー(インターネットを通じたセミナー)を開催し、各国協同組合の取り組みを支援し、2030年に向けての戦略計画を提案している。
また、ILO(国際労働機関)の協同組合部門(コープ・ユニット)も今年100周年を迎え、ウェビナーや特別インタビューなど、さまざまの記念イベントを行っている。
筆者はこれらのイベントにオンラインで参加して日本の協同組合からの発信に努めているが、国際会議がすべてキャンセルとなるなかで孤立するのではなく、世界中の協同組合の仲間とコミュニケーションができるというメリットを生かすことが重要である。
コロナ禍は一過性のイベントでは無く、乱開発と地球温暖化の中で今後とも人類は繰り返しパンデミックに晒されることが確実と言われおり、私たちは未来に向けて持続可能な経済、社会、環境を作ることを迫られている。協同組合は4半期ごとの短期的な業績を求められる上場株式会社と異なり、長期的な展望をもって人々のくらしを改善する潜在力をもっており、持続可能な開発に資するように活動することが協同組合のアイデンティティを実現することでもある。
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