農政:東日本大震災10年 命を守る協同組合
【特集:東日本大震災10年 命を守る協同組合】命を守り地域社会の発展に貢献―JA厚生事業の取組みと使命 中村純誠 全国厚生農業協同組合連合会代表理事理事長2021年3月11日
東日本大震災や地震、気候変動によって大型化する台風やゲリラ豪雨など21世紀は「災害の世紀」だといえる。その上に新型コロナウイルス感染症の拡大によるパンデミック。そうした災厄の最前線で、人びとの命を守るために奮闘しているのが、地域医療の要であるJA厚生連病院だ。命を守る協同組合であるJA厚生事業の取り組みの実情と今後のあり方について、中村純誠JA全厚連理事長に寄稿していただいた。
1.全国から医療班を派遣し救急医療に貢献-東日本大震災等への対応
東日本大震災は、JA厚生連の病院・施設にも大きな被害をもたらした。特にJA福島厚生連の各病院は被害が大きかったが、うち双葉厚生病院は、東京電力福島第一原発事故により立入り禁止区域に指定されたため休院となり、再開の目途は立っていない。
被災地に立地している厚生連病院は、自ら被災し、ライフラインの確保もままならないなかで、地震による負傷者の受け入れ等、懸命に診療を継続した。
被災を免れた県域のJA厚生連では、行政庁からの依頼に基づき震災当初からDMAT(災害派遣医療チーム)や医療救護班の派遣を行った。日本赤十字社の活動が広く報道され、JA厚生連が多くのチームを派遣したことはあまり知られていないが、厚生連全体でDMATでは19チーム延べ447名、医療救護班では46チーム延べ2539名の派遣を行い、震災直後の救急医療に貢献した。
また、2019年に発生した北海道胆振東部地震の際には、震度7を観測した震源地に近いむかわ町鵡川厚生病院が大きな被害を受けたが、JAやホクレン、自治体から必要な物資の支援を受け、地域に欠かせない医療機関として診療を継続した。
令和2年3月現在、105の厚生連病院のうち44病院が災害拠点病院に指定されており、災害時の地域医療に貢献している。
2.率先して感染者を受け入れる-新型コロナウイルス感染症への対応
新型コロナウイルス感染症についても、厚生連病院は公的医療機関として、率先して多くの感染者の受け入れを行ってきた。
相模原協同病院(神奈川県)が令和2年1月に国内初の感染者の対応を行ったほか、複数の厚生連病院でダイヤモンド・プリンセス号の感染者の受け入れも行った。12月31日までに、67の厚生連病院で3049人のコロナ入院患者の受け入れを行っている。
患者の受け入れが増えるにつれ、院内感染によるクラスターも発生した。旭川厚生病院において国内最大規模のクラスターが発生したほか、複数の厚生連病院でもクラスターが発生したが、役職員の懸命の努力により速やかに収束を図ることができた。
一方で、感染を恐れての受診控えや、感染者を受け入れている病院への風評被害等により、厚生連の経営状況は非常に厳しくなった。
影響は厚生連病院にとどまらない。全国に33設置されている厚生連のうち12厚生連は健康管理事業を専門に行っているが、緊急事態宣言時には健康診断が実施できず、解除後も受診者の減少に苦しんだ。
また、医療従事者に対する差別・偏見もあり、子供の保育園の預かり拒否や委託業者の撤退、職員が退職を強いられた厚生連病院もあった。
そのような状況のなか、JA厚生連の医療従事者をサポートしたいと、JAグループを中心に多くの寄贈や支援が寄せられた。改めて皆様のご厚意に感謝を申しあげたい。
関係者の方々からの支援や、国の補正予算や予備費による各種交付金、福祉医療機構の緊急融資等もあり、厚生連全体でみると、何とか令和2年度末に向けては経営が改善されつつある状況である。
2月下旬から、先行して医療従事者に対して新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されているが、全国民に対して接種が行われるには相当の期間を要するとされている。
厚生連病院の約4割は人口5万人以下の中山間地に立地しており、これらの地域はほぼ例外なく、重症化が懸念される高齢者が多い。地方に行けば行くほど医療体制は不足しており、クラスターの発生等で瞬く間に病床が逼迫してしまう恐れもある。
また、健康診断の受診がなされないことにより、がんなどの重大な疾患の発見が遅れてしまうリスクも指摘されている。高齢者においては外出自粛によるフレイルの懸念もあるため、安心して健康診断等を受けることができる環境の確保が必要である。
一刻も早く地域住民にワクチン接種が行き届き、コロナ禍が終息に向かうことを祈念してやまない。
3.来るべき災害に備えて
21世紀に入り、日本は新型インフルエンザ(2009年)、東日本大震災(2011年)、新型コロナウイルス感染症(2020年)と、大きな災害や感染症を経験してきた。また、地球温暖化が要因とされるゲリラ豪雨や大型台風等の自然災害も年々規模が大きくなる傾向にある。
将来に目を向けてみても、グローバル化により人の流れが活発になったことから、新たな感染症が発生した場合、再び今回の新型コロナウイルス感染症のように世界的なパンデミックとなる恐れがある。また、向こう30年以内に首都直下型地震が発生する確率は70%とも言われており、南海トラフ地震の発生も懸念されている。20世紀が「戦争の世紀」なら、21世紀は現在のところ「災害の世紀」といった様相を呈している。
現在、国は2025年度に向けた医療体制の確保として「地域医療構想」の実現に向けた検討を進めている。この構想は、将来的な人口減少・少子高齢化の進展をふまえ、各医療圏における医療資源の最適化を目指し、医療機関の統合・再編等を促すものであるが、震災や新型コロナのような「イレギュラー」への対応をより一層考慮することが求められる。
公的医療機関であるJA厚生連は、行政や地域の医療機関と連携・調整を図りながら、地域のあるべき医療体制の姿を目指しつつ、JA組合員・地域住民に対してしっかりとした保健・医療・高齢者福祉サービスを提供していく役割を負っている。
本会(JA全厚連)は、この1年新型コロナウイルス感染症に対して、いかに会員であるJA厚生連に支援ができるかを最重要課題として業務を行ってきた。
今後も厳しい状況が続くことが想定されるが、引き続き関係機関やJA厚生連と連携を取りながら、厚生連病院が感染症や大規模災害発生時にも地域医療の要として、地域から信頼される医療機関であり続けるよう、情報連絡体制や支援体制を強化していきたい。
最後にJA厚生事業の使命を掲げ本稿の結びとしたい。この使命を胸に、JA厚生連グループはこれからも「命を守る協同組合」としての不断の取組みを行っていく所存である。
「我々JA厚生連の使命は、組合員および地域住民が日々健やかに生活できるように、保健・医療・高齢者福祉の事業を通じて支援を行うことにより、地域社会の発展に貢献することです。」
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