農政:東日本大震災10年 命を守る協同組合
【特集:東日本大震災10年 命を守る協同組合】組合員参加で安心の地域づくりを担う厚生連医療・農協福祉 東 公敏 日本文化厚生農業協同組合連合会代表理事理事長2021年3月15日
「地域とは空間であると同時に人と人のつながりである」と東理事長は位置付ける。そして、「いのちを守る協同組合の姿」が厚生連病院であり「全国各地の現場に息づいている」とも。そうした厚生連病院の現状と課題、これから目指すべき姿を、文化厚生連の東理事長にご執筆いただいた。
日本文化厚生農業協同組合連合会
代表理事 理事長
各地に息づく「いのちを守る協同組合」の姿
筆者は日本文化厚生農業協同組合連合会の機関誌で厚生連病院の院長インタビューを続けている。「人が触れ合わない社会だからこそ、協同を広げ不安を解消しなくてはならない。厚生連病院の未来は、安心の提供にある」(茨城・T院長)、「カチカチになった地域社会を、私たち厚生連病院が解きほぐしていくことをしていきたい」(長野・Y院長)、「当院の理念は、支え合い共に生きる。貢献する対象は地域でなく地域づくりだ。能動的な姿勢を持ちたい」(三重・N院長)――。公的医療機関としてコロナへの対応に日々奮闘される中、厚生連医療の本質を院長先生方からお聞かせいただくことが多い。
「福祉の協同」の取り組みを1例紹介したい。長野県上田市豊殿地区では20年前に住民の願いを農協に集めて、厚生連関連の特養と診療所を誘致した。その後「安心の地域づくりセミナー」を続ける。600人の人々が学びつながってきた。卒業生たちはボランティアや地区サロン、そして旧農協支所に独居のお年寄りが集うカフェをつくり自主運営している。最近そのスタッフの一人が、自分が認知症であることを告白した。
地域とは空間であると同時に人と人のつながりである。「いのちを守る協同組合」の姿が、全国各地の現場に息づいている。厚生連医療、農協福祉は単なる民間の一医療機関、一介護事業者ではない。日本文化厚生連は厚生連と単位農協の出資による全国連合会のひとつで、医薬品などの共同購買と情報教育の事業を行っている。「文化厚生」の"文化"は暮らしの意であり、安心の地域づくりを会の理念の中に掲げている。
「組合員のため」と「地域住民みんなのため」
全国に105ある厚生連病院は、「ムラに安心してかかれる病院がほしい」という組合員・住民の思いから設置されてきた。医療・健診は第一義的には単協自身の事業(定款に明記)であり、単協が協同で実施しているのが厚生連医療だ。
厚生連への出資金は、見方を変えれば単協を通じて組合員が出資して病院の施設と運営を支えているとも言えよう(ある県の厚生連における出資金110億円は組合員1戸当たりに直すと5万6000円でまさに"おらが病院"=准組合員戸数は正組合員戸数の3分の1にウェイト付けして調整)。
地域密着の総合事業体をめざすJAグループの方針は、農協「改革」への対抗としてのJA自己改革の柱である。農協は、農村・地域協同組合として、「農家・組合員のため」の性格(共益性)にとどまらずに、「農家を含む地域住民みんなのため」の事業活動を行う性格(公共性)へと役割を広げてきたのであり、厚生連医療・農協福祉はその典型だ。
農協法改正5年を経て、総合事業を守るため准組合員の運営参画が課題となっているが、正・准組合員の利害のバランスをとる相互理解のためにも、農業への投資と並んで医療介護などへの投資が大切なテーマとなってくる。
地域からの病院再編・連携づくりと組合員参加
超高齢社会に向かう中で、政府の社会保障制度「改革」がコロナ禍にもかかわらず断行されようとしている。その処方箋は、(1)医療介護需要の削減(年をとっても健康なままで)(2)生産性の向上(少ない人材・施設で何とか回して)(3)財源の確保(高齢者も働いて保険料負担して)だ。
公的病院の機能分化・集約化が進められ、再編統合リストまで公表された。介護では、データに基づく「科学的介護」を打ち出し効率化が叫ばれる。医療機関の再編・役割分担、早期退院後の地域の受け皿づくりは待ったなしとなる。
「何でも、いつでも」の病院として住民が安易なコンビニ受診や不要な長期入院を続ければ、医師もスタッフも疲弊し病院の存続も危うくなる。医療の適切な利用の仕方を組合員・住民で学び合い、病院と地域医療を支えてもらう取り組みが課題化する。「地域からの」病院再編構想づくり、医療介護のネットワークづくりを構えることなしには安心して暮らせる地域は守れない。
地域包括ケアの時代のフロントランナーである厚生連医療・農協福祉には、はじめから組合員参加という「共益性」が埋め込まれている。組合員が患者・利用者として声を上げてよりよい施設にしていくこと、組合員自らが励まし合い支え合い健康づくりを進めること、そして組合員の学習により医療介護連携・再編への住民理解を醸成すること。こうした共益性に基づく取り組みがむしろ厚生連の公共性を高め、収支改善・経営展望を開くことにつながる。
なお、厚生連病院がない農協、自ら介護事業をやっていない農協でも、地域の病院や介護施設との連携によって安心の医療介護を支える取り組みはいくらでもあると思う。コロナ禍での風評や差別・偏見を許さず、正しく恐れて協力・協同する取り組み(感染予防対策の学習と実践、つながりが希薄化するお年寄り対策、経済的ダメージを受けた組合員への相談活動など)も急いで広げる必要がある。
住民自治の基盤としての協同組合
医療介護と農協の「改革」という二つの環境変化の交差点に、厚生連医療・農協福祉としての地域づくり課題が位置することを見てきた。
昨今の国の様々な政策・制度には、住民参画がビルドインされている。新自由主義のもとで地方と人々のくらしが疲弊する中で、公共サービスを継続・実現(安上がり化の政策意図を含む)するには、住民の協力が必須とならざるを得ないからだ。
一方で、為政者が意図するしないに関わらず、住民の協同、自治の強化が必然化し地域づくりを厚くする土台となっていく。協同組合は憲法価値に基づく住民参加・自治の基盤となれるのか。公共性と共益性を併せ持つ厚生連医療・農協福祉の独自の存在意義もそこで問われる。
東日本大震災10年を経ても被災者の生業とくらしの回復は途上にあり、福島をはじめ震災関連死は続いている。
コロナ禍は所得や健康をめぐる深刻な格差社会の実態をあぶり出した。人々の支え合い・助け合いは、社会保障の手抜きの肩代わりに利用されてはならない。公的な社会保障を手厚くしていく方向でみんなが声を上げ、知恵も手も出し合う。そんなうねりの中に農協・厚生連の事業と協同活動が存在している。
多くの人々が「協同組合のようにやればいい」と気付き行動するような新しい社会がもうそこまで来ているように思う。
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