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農政:許すな命の格差 築こう協同社会

【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】提言:「ばらける」社会脱却へ 「協同の力」を信じて 田代洋一 横浜国立大学名誉教授2021年4月5日

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新型コロナウイルス感染症の拡大の中で、格差拡大が大きな社会問題となっている。田代洋一横浜国立大学名誉教授は改めて、これからの次代を築いていくうえでの農業や協同組合の役割を重視している。

食料も命も...安全保障を怠る姿勢を問う

田代洋一・横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授
田代洋一
横浜国立大学名誉教授

新型コロナ、中間総括の時

新型コロナ感染症は4月はじめ、日に日に感染者が増加し、東北・四国などの地方都市でも増え、関西を中心に変異株が高まるなど、第4波が始まった。ワクチン頼みが強まっているが、効果が発揮されるのは来年以降とも言われる。今しばらく渋滞道路をノロノロ運転するような状況が続く。そのなかで国民は既に多くのことを学んだ。その経験知を生かし気を引き締めて次にたちむかう中間総括の時だ。
 
経済格差から命の格差へ

コロナ禍が格差を深めたことが広く指摘されている。中小零細企業を倒産に追い込み、失業を生みつつ大企業への集積を強めた。デジタル化がGAFAを先頭に情報産業の集中を一挙に進めた。ワクチン開発がメガファーマを潤わせた。マネーの大量供給が株価や資産価値の上昇をあおり、ビリオネア(億万長者)を潤した。

この経済格差を「健康と命の格差」に至らしめたのが新型コロナだ。慢性的飢餓が2014年から増大し、世界の飢餓人口は2019年6.9億人から2030年には8.4億人に増加するとされている。日本でも食べ物に難儀する若い人らが増え、子ども食堂が奮闘している。

日本はもともと農工間・企業規模間・男女間の格差が大きな国だが、それを利用して農村から低賃金労働力を調達することで高度成長を成し遂げた。1980年代あたりから農村のプールが枯渇しだすと、今度は女性労働力の動員と現役労働者の中に正規・非正規の差別を持ち込むことで新しい低賃金基盤をつくり出した。結果、非正規が今日では38%にも達している。

とくに飲食業ではパート比率が8割に達し、その大半が女性である。コロナ禍のなかでシフトが5割以上減、休業手当なしの非正規の女性が100万人を超すといわれる(野村総研)。コロナ回避のためのテレワーク比率は、非正規は正規の半分以下だ。デジタル化は非正規を増やすだけで、彼らを守らない。

生活に苦しむ人々の急増に対して、菅義偉首相は2度目の「宣言」には給付金を支給せず、「生活保護があるさ」とうそぶいた。生活保護はあくまで平時のセーフティーネットで、緊急時にはその上に幾重ものセーフティーネットをはる必要がある。多少は配慮されるようになったが、条件が厳しく、使い勝手が悪い。

第2波から自殺が増えだした。男性は減るのに女性は前年比15%以上も増加し、また20代以下の若い層で増加している。失業、DV、学習の遅れ、孤独感などが原因とされる。また60歳以上の3割で認知機能の低下がみられ、要介護者が増える。コロナの矛先は格差最底辺や弱者に向かう。

医療体制がひっ迫すれば、救命数・生存年数を最大化するための「命の選別」(トリアージ)が求められ、高齢者からふるいにかけられる。そういう事態に陥らないよう体制を整備しておくことが国の責任だ。

危うい命の安全保障

しかるに国の対策は、「和」を重んじる国民性につけこむ「自粛」を基本とした。手厚い補償を講じつつロックダウンという厳しい規制をした欧州と対照的だ。しかし自粛要請では人の流れを抑制できず、罰則の導入に踏み切った。罰則は自粛方式の破綻を意味する。

PCR検査の対象を徹底的に絞り込み、検査も入院もできない感染者を増やし、ケースによっては死に追いやった。変異株のチェックも当初は陽性者の10%に限定した(その後に40%へ)。飲食店重点のクラスター対策を偏重しているが、感染経路不明者が過半を占める状況下では、そもそもクラスター対策には限界がある。

これらの背景には、保健所数をピーク時の半分に減らし、集中治療室・人工呼吸器数が欧米に比べ圧倒的に少ないという(宮坂昌之『新型コロナ 7つの謎』)医療体制の貧困がある。結果、宣言・宣言解除ともに、感染者数の推移よりも病床使用率を決め手にせざるをえなかった。

日本はGDP第3位の国でありながら、自前のコロナワクチン開発ができていない。ワクチン開発には巨額のコストと多大の時間がかかるが(宮坂・前掲書)、ワクチンは日本の医薬品市場の1%強しか占めない(朝日、2月8日)、などの理由が指摘されている。要するに「もうからない」というわけだ。食料自給率38%と新型コロナのワクチン自給率0%。日本は食料の安全保障も命の安全保障も怠ってきた。

カネもうけ第一の資本主義は退場の時

グローバル大企業が地球の隅々まで掘り起こしてカネもうけを追求する新自由主義の時代が始まって、既に40年たった。その行動が、気候変動と経済格差を深め、人類とウイルスのすみ分け・共生関係を崩した。そこで起こったコロナ・パンデミックは、カネもうけ第一の資本主義が、人類生存のレッド・ラインを超えてしまい、退場を宣告されていることを意味する。

とくに日本経済は、バブルが崩壊した90年代以降、売上高や設備投資が横ばいになるなかで、労働条件の切り下げによる減収増益の確保にまい進した。98年以降、賃金と家計の可処分所得は減少に転じた。カネもうけ第一の資本主義の行き詰まりは、とくに日本で顕著だ。

変異株のまん延は6~7兆円の経済損失をひき起こすとされている。コロナ貸し付けが返済期に入るなかで貸し渋りが起これば金融危機が起こる。マネーの大量供給のうえにポストコロナ需要が重なればインフレと財政破綻が起こり、とくに貧困層や年金生活者に追い打ちをかける。

それでも財界や菅首相は、脱炭素化を図る「グリーン成長戦略」で経済成長に邁進しようとし、世界は「グリーンバブル」に突入しようとしている。しかしもうけのためのグリーン化は、化石燃料関連企業からの莫大(ばくだい)な資金引き揚げ(サブプライム危機とは桁が違う)を伴い、「座礁資産危機」をひき起こしかねない(年末年始の週刊東洋経済「2021年大予測」)。

問われているのは、カネもうけ第一の資本主義の延命ではなく、そこからいかに脱却するかだ。

食と農 つなぐ理念 今こそ

「ばらける」から協同へ

そもそも新自由主義は、国から集落に至る「共同体」(人びとのまとまり)をバラバラな「個」に解体して自由市場に投げ込み、敗者には「自己責任」をとらせる。あげく、まとまっていたものがバラバラになる「ばらける」社会がつくり出された。そのバラバラな「個」の「群れ」を襲ったのが新型コロナだ。

カネもうけ第一の資本主義の仕組みから脱却するには、この「ばらける」状況を変える必要がある。その大きな道筋が「協同」だ。「協」の字は三つの「力」を合わせている。三つ(多数)が協力して物事(事業・経営)に取り組むのが「協同」であり、協同組合はそのような組合員の協同行為を事業化したものだ。

しかし組織が巨大化すると原点を見失いがちになる。JAぎふの「推進から相談へ」の活動が紹介されているが(JAcom、11月30日)、原点回帰の一つの試みだ。労働者協同組合が法制化されたが、対人サービスに携わる人々の協同化といえる。

そこではあまり人数が多くなると組合員の話し合いが難しくなるとして、例えば200人程度のグループ化がもくろまれている。農協女性部などの小グループ活動も盛んだ。

コロナ禍のなかでオンライン化が効率化・合理化の決め手とされたが、社会的動物としての人間には、ボディーランゲージ、学習や仕事の合間の雑談などの「遊び」が欠かせないことが分かってきた。「協」はリアルな人間関係をとりもどす道でもある。
 
変革の気概で協同の芽を

コロナ禍のなかで希望の芽生えや新たな課題がみえてきた。

国連開発計画の「気候変動は地球規模の緊急事態か」に対する「イエス」の回答は、世界平均64%に対して、災害列島化した日本は79%と高い。コロナ禍による経済活動の低下で日本の再生エネ比率が21.7%に高まった。やればできるのだ。とはいえ欧州は44.3%、かつ脱原発が明確だ。政府は、発電の5~6割を再生エネ化、その半分を農山村で確保するとしているが、原発依存から脱却し、農地をつぶさず食料自給率向上と両立するグリーン化が求められる。

食料安全保障への関心も高まった。しかし農業への関心は必ずしもそうでないという。食料と農業のつなぎ目の役割を果たすのは農協の使命だ。

農協などの直売所、移動販売車の導入、職員による地域の見守り、スーパーとの事業連携、子ども食堂への取り組み、農福連携なども進んでいる。集落営農は組合員協同の実践でもある。労働力不足のなかでのスマート農業は、高額機械を共同購入しないと採算が取れない。農業の雇用吸収力も地域で注目され、ハンディを持つ人の雇用も進められている。内需も輸出も家庭食シフトを強めたが、和食継承も地域ぐるみで取り組む必要がある。

本特集ではさまざまな試みが紹介されるが、協同の取り組みが、カネもうけ第一の資本主義の仕組みを変革するという気概をもって、ひろがることを期待したい。


特集:許すな命の格差 築こう協同社会

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