農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】農の継承の大切さを確信<2>尊い協同の価値を伝える教育が重要【座談会:厄災下の協同組合の役割は何か】2021年4月12日
左からJA全中菅野副会長、JA全中田村課長、福島大学小山教授、(一社)農協協会村上会長
田村 副業を解禁が必要ですが、就業前後や土日などに職員が農作業を手伝うと、農家の営農や暮らしぶりが見えてきます。また働いてお金をもらうところに、お互いに真剣さがうまれ、より意味のある仕事になると思います。その経験に基づいて発する言葉には重みがあるはずです。こうした農業の副業をJAの職員教育の柱として位置づけたらどうでしょうか。
もちろん強制ではなく、現在認められていない就業規則を見直し、農家組合員の下で農作業に従事することを認め、組合員との絆づくり、対話力強化に向けた教育機会としてJA経営者が自らの言葉で、その大切さを訴えていただけないものかと考えています。
農協職員は多様な能力
(一社)農協協会会長(JA全中元副会長) 村上 光雄氏
村上 JAにはさまざまな能力を持った職員がいます。それをJAは上手く活用すべきです。JAはさまざまなサービスを実施していますが、まず、それを有料化したらどうでしょうか。例えば、各種の補助金制度の申請は、高齢化した農家にとって大きな負担です。その事務を有償で支援するのです。それによって、自分の給料は稼ぐということを考えてもいいのではないでしょうか。JAが地域で生き残るためには、そうしたことをしなければ、一金融機関として組合員から見捨てられてしまいます。
管野 その通りです。JAには大工やエアコンの設置が得意だという職員が必ずいます。それを事業化するのです。JAには経済、購買、販売、信用・共済事業のほか、暮らしの活動があります。それをサポートし、新しい事業にするべきです。
小山 新規採用者の8~9割が、地域外を含め非農家出身ということも珍しくなくなっています。その職員が正組合員になって、どこかの時点で農家になることを考えてもいいのではないでしょうか。政府の農協改革の矛先は、JA本来の営農経済事業を疎かにしていることにあります。だったら、都市型JAでも農業ができる仕組みをつくったらいいのです。
JA間の連携で、郊外に農地を求めたり、極端に言えば、東京と北海道のJAが合併したりしてもいいのではないでしょうか。
社会の変革時こそ相互扶助の具現化を
田村 JA職員として総合事業に従事し、地域の協同組合活動に積極的に参加し、さらに農家組合員の下で農作業に汗を流す。"売り"になりますね。新規就農者が増えるなかで、マッチングしないケースも少なくありません。その点で就農を希望する職員にはJAが全面サポートするというと、若い世代にPR効果があると思います。
例えば、農業を本業として、農閑期に副業としてJAで働くといった逆転の発想も考えられます。農家出身者だけで後継者を確保するというのはもう限界ですね。
農に触れる仕組み必要
菅野 その通りですね。農協の職員でありながら、ともに汗を流す。そこでお互いが認め合うという関係がいい方向にいくと、農業に活力が期待できます。JAの職員として働き、定年を踏まえて副業で農業のノウハウを磨く。時間はかかるかも知れませんが、仕組みができると、案外早く広がるかも。
小山 100年に1度と言われるような大きな変化に直面している今日、協同組合だからできることがあると思います。新しい社会にJAはどういう役割を果たすべきでしょうか。
管野 エネルギー問題で、原子力をどうするかは、大きな課題です。太陽光の将来性は景観上の問題もあり、本来は水力、風力など小エネルギーの活用で、具体的な道筋を立てる必要があります。国連のSDGs(持続可能な開発目標)がありますが、具体的な行動にはなかなか結び付いていないのが実態です。
またエネルギー問題には、農水省や総務省、地方創生のまち・人・仕事づくりなど、いろいろ政策が絡んでいます。具体化するには、勉強して仕掛けなければ前へ進みません。それは単位JAの職員にはできません。それは中央会がリードし、どの地方にはどの方法がふさわしいかなど、提案してもいいのではないでしょうか。
JA全中教育企画課課長 田村 政司氏
田村 経済評論家の内橋克人氏はFEC(フェック)自給圏構想を提案しています。食料(フード)、エネルギー、ケア、教育など、人が生きていく上で必要なものは地域で自給することです。その担い手になりうるのは地域の経済と人々の暮らしにコミットしているJAです。
JAは、株式会社のように、だめになったからといって地域から撤退することはできない。よくも悪くも農家や地域の人々の営農と暮らしに根差したJAは「夜逃げ」ができません。時間はかかっても協同組合として地域づくりをめざして努力しなければなりません。商業ベースの強いSDGsでなく、これはJAが地域において、これまで理念として掲げ、取り組んできたことでもあります。
地域を守る協同の理念
村上 私たちには、農業を守り地域を守るという使命があります。その意味でいうとJA共済の価値を改めて認識すべきだと言いたいですね。阪神・淡路大震災や東日本大震災のとき、JAは加入者に共済金の支払いをちゃんとやりました。これはすごいことです。この意識をせめてJAの中で共有すべきです。相互扶助、助け合いの協同組合の思想を、具現化したものです。堂々と打ち出すべきです。
菅野 JA共済は、いろんな人の支えがあって成り立っているものです。共済に入っていたから保障があるのではなく、保障は組合員の運動の積み上げの結果だということを忘れてはいけないでしょう。
小山 その通りですね。共済と一般の保険の違いですが、共済は、支えている誰かの顔が浮かびますが、保険は投機、貯蓄目的という性格があります
最後に次の時代のJAをどう考えていますか。アフターコロナに限らず、世界はこれまで通りにはいかない大きな変化の時代を迎えているように思います。エネルギー、職員教育、農業者の育成など、日本の農業の方向性などについてどうでしょうか。
菅野 少子高齢化、農業の担い手の高齢化など、厳しい現実がありますが、いつまでも厳しい、厳しいと言っていてもだめ。どういう組み立てができるかを考えるべきだと思います。福島県13万9000haの農地を維持するには、1年に600人の新たな担い手が必要だと仮定しております。その人材をどうやって確保するか国、県、JAの役割を明確にして、取り組む必要があります。
<3>農村を活躍の場に働き方に多様性も【座談会:厄災下の協同組合の役割は何か】
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