農政:どうするのか?コロナ禍のオリンピック
仮想的商品になったオリンピック 内山節(哲学者)【どうするのか?コロナ禍のオリンピック】2021年5月6日
実体のない仮想通貨や仮想商品が市場経済を攪乱しているが、オリンピックも平和のためのスポーツ大会という実体のある理念から変質し、仮想的商品のようになっている。「仮想的商品が市場を支配し、実体のある経済が壊されていく今日の状況を変えていくためにも」オリンピックは廃止すべきときにきていると、内山氏は提起する。
内山 節氏(哲学者)
オリンピックは現在の市場経済と同じようなものだと思っている。
今日の市場経済を象徴する「商品」に、仮想通貨とか暗号通貨と呼ばれているものがある。何種類もあるが、ビットコインが一番知られている。この仮想通貨の特徴は、いかなる意味でも実体の裏付けがないところにある。私たちの知っている商品は、作物や生産物といった実体に裏付けられて市場で取引される。作物や生産物がもっている価値を基盤にして、その価格も決められてくる。もちろん作物の価格はときに暴落し、農家を苦しめるというようなことも起こるが、それでも作物があってこその価格であることに変わりはない。
ところが仮想通貨には、この作物や生産物にあたるものがないのである。にもかかわらず市場で売買され、買いが多ければ値上がりし、売りが多ければ値下がりする。こうして実体を伴わない取引が実現していく。
しかも問題は、仮想通貨のような性格が他の商品にも波及し、そのことが今日の市場経済を攪乱しているところにある。たとえば企業が発行する株もひとつの商品であるが、元々は企業業績という実態に合わせて株価は上下するものだった。ところが今日では単なる投機の対象になり、実体の裏付けなしに値上がりしたりするようになった。さらに困ったことに、日本では日銀が株の大量買いをつづけ、国の政策も動員しながら実体から乖離した株という商品の世界がつくりだされてしまった。さらに、いまでは金属や石油などの資源も投機の対象になり、仮想商品的性格をもつようになった。そうやって生まれていったのが現在のグローバル経済であり、ここでは仮想化した商品の世界が実体のある経済をときに破壊し、ときに損傷を与えるというようなことが日常的に起こるようになった。
オリンピックは、もともとは平和のためのスポーツ大会という実体のある理念をもっていた。ところが次第に変質し、商売と政治のための大会に変容していった。IOCや各国のオリンピック委員会は利権団体化し、他方で誘致する国(形式上は主催者は都市なのだが)は開催を政治的に利用しようとする。その道具としてオリンピックやパラリンピックが利用されている。こうしてもともとの開催の意義からすれば、すでにオリンピック、パラリンピックは仮想的商品のようにものになってしまったのである。もともとめざされていたような本質は失われ、しかしその本質があるかのような仮想の大会。残念ながらそれが今日の姿である。だからコロナ下においても、コロナに打ち勝ったオリンピックなどという仮想の空論が語られつづける。
私はオリンピックそのものを廃止すべきときがきたと考えている。仮想的商品が市場を支配し、実体のある経済が壊されていく今日の状況を変えていくためにも、である。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】チャ、植木類、果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農業被害を初めて確認 東京都2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
京都府産食材にこだわった新メニュー、みのりカフェ京都ポルタ店がリニューアル JA全農京都2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日
-
クミアイ化学工業と米国Valent社、水稲用除草剤エフィーダの米国開発で業務提携2025年1月22日