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農政:許すな命の格差 築こう協同社会

【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】提言:協同組合の特性 IT化で発揮を-高齢化先進国のモデルケースに 小山良太 福島大学食農学類教授2021年6月11日

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協同が必要とされる時代に日本型総合農協は何をすべきかをテーマに、福島大学食農学類の小山良太教授に協同組合の方向性について提言してもらった。

農村の可能性 コロナ後注目

2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルスへの対応として、働き方、生活様式、貿易構造など、グローバル化を前提とした社会の在り方が大きく変化している。ポストコロナの世界では、食料、農業、農村はむしろ大きな可能性を秘めているのではないか。

まず、官邸主導の農協改革で標的となっている日本の農協の総合的事業展開は、実は時代にあったサブスクリプション(subscription)システムであり、協同組合に出資、利用、参画する組合員にとっては一定の出資・参画で全サービスを利用できる極めて利便性の高い仕組みであるともいえる。

市場を細分化し、それぞれの財・サービスごとに契約、課金される仕組みではなく、農村、農業において必要なサービスを総合的に担保するシステムである。サービス間(各事業間)で資金調達をしながら、総合的に事業を維持するのは他の経済主体と同様であり、当然の仕組みである。

地域(地方・農村社会)投資にあたる営農指導事業や販売事業の低収益性を、収益性の高い信用・共済事業で補填(ほてん)する持続性の高いシステムを構築してきたのである(現在はこの構造も厳しくなっているが)。

このことを前提に、JAを取り巻く大きく四つの課題を解決できないかと考えている。

第1は、高齢農家や農業との関わりが弱くなった自給的農家等のIT化を推進するJAの事業戦略の構築である。多くの農村で多数を占める高齢農家や自給的農家への対応が、JAにとっての重要な課題となっている。

リタイヤ後に事業利用機会などが減少する中で、JAへの親しみも低下している。これはJAへの関与・関心が大幅に後退していることを示していると考えられる。JA合併や支所の統廃合、人員削減などを経て、JAへの関与の機会が減少している実態が推測されるのである。

現在JAグループでは対話運動、全戸訪問などを推進している。毎月全戸訪問を行い、准組合員を含めた面談率が5割を超える神奈川県の「JAはだの」のような事例も存在するが、同JAの全戸訪問は半世紀にわたる歴史の積み重ねを有しており、これから始める全てのJAが同様の成果を得られるまでには時間がかかるだろう。高齢化はいま進行しているのである。

そこで、組合員との対話、関与の方式、内容に関して新しいテクノロジーの導入が必要なのではないか。スマートフォンのチャットアプリや診断システム、スカイプやライブ配信などテレビ会議的なシステムは非常に利便性が高い。

しかし新技術に関しては高齢者ほど懸念が強い。JAも同様の傾向がある。明治大学教授の大高研道氏が分析した、全労済「勤労者の生活意識と協同組合に関する調査報告書<2020年版>」では、協同組合理念に対する勤労者のイメージとして、保守性、新しい取り組みを受け入れない、時代に合っていない、体質が古く閉鎖的などネガティブなイメージが指摘されている。

しかしJA自己改革を標榜(ひょうぼう)するのであれば、あえて高齢者への新技術の導入、IT化を世界に先立てて、日本の総合農協が成し遂げたとしたらどうだろうか。高齢化が進む先進工業国のモデルケースとして先導できたとしたら、そこに新しい世界がみえてくる。

囲い込み戦略 准組は構成員

JAグループが協同開発した高齢者モデルのスマートフォンを組合員に提供し、組合員はLINE的なチャットアプリで日常の会話を行う。意向調査や各種データ、事業報告はGoogleフォームのようなツールを用いて行う。全戸訪問は年1回で、JA職員はZOOMのような同時双方向オンライン会議システムを用いて、組合員との対話を恒常的に行うことができる。

このことはJA職員の働き方改革にも寄与できる。日常の健康相談や生活相談も行うことができ、農作業などの注意事項は電子掲示板で常に確認することができる。判子決済はもちろん廃止である。支払いはJAペイで完結する。JAカードは全国共通化し、Paypay、SuicaやTポイント、NANACOのような電子マネー化の中で組合員の経済活動を囲い込む。経済活動の低成長期には囲い込み戦略しか生き残る道はない。まさしく協同組合の特性を発揮できる時代だといえる。

新しい世代、次世代の若者は閉鎖的で保守的な高齢組織の中で過去の事業方針を踏襲しながら働く環境に魅力を感じるだろうか。生まれた時からインターネット時代を生きる人類と共に新しい仕組みを設計する。日本型総合農協の形を地域社会の特性を考慮しながら構築する。これらのことは、高齢化する農村のテクノロジー化を世界に先駆けて実施することにつながるのではないか。

組合員対応を生業としてきたJAマンであれば、高齢組合員にスマホなどタブレット端末の利用方法を丁寧に説明することも可能だと考える。これは密接な人的関係性の上に事業を展開してきた協同組合だからこその提言である。

第2は、准組合員を食の組合員として位置付けられないかということである。准組合員制度は世界的にみても独自の制度であり、議決権のない組合員という実態は協同組合理念から考えても問題のある仕組みである。今回の農協改革の中で准組合員制度の廃止はペンディングとなったがいずれ標的とされる課題である。

そこで、正組合員である農家組合員は「農の組合員」として位置づける。地域住民であり、食に関心のある准組合員は「食の組合員」として再定義することができないかと考える。

農業協同組合を食農協同組合と名称を変更するくらいの英断が必要である。准組合員の組織化や参画についても運用しやすくなるだろう。食の組合員である准組合員に、食農教育や食文化などの地域活動について積極的に意思決定に参加してもらうようにするのである。

小山良太 福島大学食農学類教授小山良太 福島大学食農学類教授

第3は、経営面からの合併、単なる支店統廃合ではなく、新しい連携統合のシステムを構築できないかという点である。

JAの経営問題を踏まえると、新たなJA合併と支店統合の問題は避けて通れない。しかし、事業推進だけではなく組織活動の拠点として支店の機能と役割は存在する。ここでも物的拠点としての支店機能だけではなく、テクノロジーを利用し、仮想空間として、支店の組織活動の場としての機能、よりどころとしての機能を発揮する仕組みを構築できないかと考える。

理念を磨いて 新時代に挑戦

第4は、協同組合教育と普及である。2020年末に労働者協同組合法が制定されることになり、協同での仕事、組織、事業のあり方に注目が集まっている。

一方、既存の農協、生協に限らず、多くの協同組合組織の役職員は通常の業務量が多く、仕事をこなすのに精いっぱいであり、協同組合について学ぶ時間もなく、忙しいから自らの組織に対して愚痴も出てしまう。食文化や農業・農村や地域社会の発展に向けて、夢を語る余裕もない。

これは、組合員や地域社会の構成員に「協同組合とはなにか」を伝えるのを怠ってきたこと、すなわち自分たちのアイデンティティーである協同組合を学ぶことを怠ってきたことに起因するではないか。極論すれば、役職員は、組合員を事業を利用する顧客として扱い、組合員もそれを当然と考えるようになった。だから政府は、農協改革の中で「株式会社と変わらないじゃないか」と「弱点」を突いてくる。

政府の農協改革方針は協同組合に関わるものからすると筋が通っていない政策である。このような方針が通ってしまうのは、農協の役職員や組合員が協同組合の意義や強みを確認するのを怠ってきたことが理由の一つなのではないか。

行政補完機能を果たし、制度の一部として位置づいて農協は協同組合としての存在により真剣に向き合う必要がある。次世代の若者はオルタナティブな社会・経済、生き方、働き方に関心を持っている。それは新しい協同組合的な社会の実現に他ならない。農協は新しい社会の主要な構成員としてポジションを確保できるのか、今こそ次世代に対し協同組合の学習機会を広げる時だ。

協同組合が存続していくためには、教育と学習が必須である。多くの農協は、その重要性を長らく忘れてしまっていたのではないか。

いずれにせよ、新しい時代を迎えた日本型総合農協は、ITなど新しいテクノロジーに最も保守的、閉鎖的と言われる(実際はそんなことはない面も多いが)日本の農村、高齢組合員に対して普及・学習・利用・運用していくことが必要ではないか。協同組合としての発展のためにもこうした挑戦が期待される。


特集:許すな命の格差 築こう協同社会

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