農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:組合員目線で都市農地守る あってよかったモットーに(1)飯田勝弘 JA世田谷目黒(東京都)経営管理委員会会長に聞く2021年8月10日
東京都のJA世田谷目黒は典型的な都市農協で、新都市計画法による農地への宅地並み課税が最初に実施されたところでもある。現在の管内農地は30ha余り。多くが観光や体験農園として活用されている。JAでは信用・共済事業に頼らない経営として、総合事業による組合員の農地保全と相談業務中心の経営をめざしている。「常に組合員目線で、『あってよかった』といわれる農協をめざす」という飯田勝弘・経営管理委員会会長に聞いた。(今回から3回に分けて掲載する)
JA同士"小さな協同"
生産緑地重要 食料政策正せ
飯田勝弘
JA世田谷目黒
経営管理委員会会長
――就農された当時の世田谷区の農業はどのような様子だったのでしょうか。
昭和53(1978)年に東京農業大学を卒業し、農家の跡取りでもあり、すぐ就農しました。父と一緒に果菜類や軟弱野菜を作っていましたが、1年後にブドウ栽培に挑戦しました。当時既に宅地化が進んでいましたが、世田谷区内にもまだ多くの農地があり、真剣に取り組めば都市近郊の農業として十分食べていくことができました。
大きく変わったのは昭和39(1964)年の東京オリンピックのころからです。経済成長の波にのみ込まれて宅地化が進み、昭和44(1969)年には、宅地を確保するための新都市計画法ができ、そのころから農業がおかしくなりました。宅地並み課税がスタートしたのです。
10㌃当たり100万円を超える固定資産税が課せられ、最初に反対の声をあげたのはわれわれ世田谷区内の農家でした。その後、宅地並み課税対象の農地が広がり、農協の運動として取り組むようになりました。
新都市計画法では市街化区域内の農地はA、B、Cの3ランクがあり、世田谷区の農地はA農地で、最初に宅地並み課税が課せられたところです。昭和50年代に入って課税対象農地が拡大するにつれ、農協の反対運動として広がり、昭和50(1975)年に生産緑地法、昭和57(1982)年の長期営農継続農地制度、そして平成4(1992)年の新生産緑地法では、30年間農地を維持することで宅地並み課税を課税されないようになりました。
私たちが最初に宅地並み課税反対の声をあげたのは、生業としての農業経営とはかけ離れた高額の税金が実際に課せられ、ぎりぎりの状態に追い込まれていたからです。平成27(2015)年、都市農業の多様な機能を評価する都市農業振興基本法ができ、都市農業の大切さが認められた形になっています。
しかし、これは来年の2022年に指定解除となる生産緑地が宅地として市場に供給されると地価が下がるので、その地価の調整だと思っております。新都市計画法の時とは逆です。このように都市農業振興基本法は国の政策の歯車の一つです。その狙いをよく見定めなくてはなりません。
――食料自給率38%についてはどのようにみますか。
38%の食料自給率は、国の食料軽視政策の結果だと思います。経済のグローバリズムで、食料は外国から安く買えばよいというスタンスです。JAグループのなかにはこれ以上悪い数字にならないと思っている節がありますが、38%で賄っているのはカロリー量です。それより大事な世界の食料システムをどのように考えているのか、作物の種子や肥料はどこから仕入れるか、それに必要な権利を持っているのでしょうか。それらを考えると、本当の自給率は数パーセントあるいはゼロかも知れません。
食料自給の旗を振りながら、一方で「みどりの食料システム戦略」では輸出の拡大と言っていますが、その具体的戦略が見えません。食料の確保は関連する知的財産権をどれだけ確保するかが重要です。農薬とか種子・苗木とか、それが海外の資本に押さえられたらどうするのでしょうか。つまり、最新の農業技術が知的財産であり、それが押さえられたら動きがとれません。「みどりの戦略」にはその視点がみられません。
米国やEU、中国は知的財産権の囲い込みをはかり、また食料システムに関し、自国の制度に合わせてグローバル基準をつくろうとしています。そうした考えもなく、みんなで持続的農業に頑張りましょうと唱えているのが、いまの日本の実態ではないでしょうか。
そもそも日本の食料自給率が上がらない理由ははっきりしています。国産に比べて輸入品が安いからです。国民は、食料自給が大事なことは百も承知です。しかし価格のギャップを埋める政策がありません。どうしても安い食料を求めます。
いま政府が進めているのは、企業的経営による効率化ですが、そうした経営が安い輸入農産物との価格競争ができるとは思えません。
逆にもうかるのは高付加価値農業です。従って、国民の基本的食料は輸入でよい、輸出してやるからもうかる農業をやるように、となるのです。その食い違いを直さないと、自給率の向上は望むべくもありません。
自給率を高めるに具体策の一つは価格補填(ほてん)です。モノ、ヒト、カネのグローバル化は、安ければよいということになり、基本的食料は当然、輸入になります。そこを考えなおすのは、大きな政策転換が必要ですが、それをせず、食料自給率を上げましょうと言うだけでは、政策になりません。JAグループのやるべきことはそこを正すことにあると思います。
――JAグループにはどのような取り組みが求められるでしょうか。
政府は経済のグローバル化を前提にいろいろ発信しますが、「今だけ、金だけ、自分だけ」の社会ではだめで、協同組合が大事だということについて、組合員は薄々感じているように思います。しかし、農協がその期待に十分応えられる組織になっているかについての反省も必要ではないでしょうか。
農協の主体はいうまでもなく組合員ですが、経営者も組合員も、実際にそのように行動しているのでしょうか。組合員は農協を単に商社代わりに、自分に都合のよいことのみ考え、自分が主体で農協をどうするか考えている組合員は少なくなっていると思います。経営者には組合員目線で運営しているかどうかが問われます。
※【特集 許すな命の格差 築こう協同社会】
現地ルポ:組合員目線で都市農地守る あってよかったモットーに(2)に続く(8月11日掲載)
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