農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:JAいぶすき(鹿児島県)(1)「夢と活力ある農業・地域社会」をめざす 福吉秀一JAいぶすき組合長に聞く2021年8月16日
JAいぶすき(いぶすき農業協同組合)は、鹿児島県薩摩半島南端に位置し、平成5年3月に指宿市と旧指宿郡内の5農協が広域合併して発足した。指宿市(指宿地区、開聞地区、山川地区)、鹿児島市(喜入地区)、南九州市(えい地区)と3市にまたがる広域を管内にしている。組合員数1万140人(うち正組合員6022人)、役職員数229人、農畜産物販売高186億円(うち生産牛・肉用牛など畜産が87億円)である。管内の耕地面積約8400haのうち9割は畑で、九州最大のカルデラ湖「池田湖」の水を利用した畑地かんがい施設が整備されており、茶が40億円、野菜が45億円の販売額である。野菜は日本一の生産量を誇るそらまめやオクラ、かぼちゃ(同2位)、紅さつまいも、マンゴーなど多彩で、これに観葉植物が加わり、鹿児島県内の農協のなかでは野菜の生産量が大きいのが特徴である。「南の食料基地」の役割を担う農協事業の先頭に立つ福吉秀一代表理事組合長と若手担い手2戸にインタビューしたので、2回に分けて掲載する。(聞き手・構成:村田武・九州大学名誉教授)
福吉秀一JAいぶすき組合長
農業、地域と住民のくらしを支援・貢献
――まず、コロナ禍のなか、ご苦労の多いことと存じます。
畜産部門が最初に影響を受けました。業務用牛肉の需要急減で、屠場がストップ寸前までになったのには慌てました。幸いにも最高級牛肉の輸出が伸びたことで在庫がさばけ、危機を脱することができました。次いで影響が大きかったのが茶です。コロナによる開催予定のイベントがいずれも中止となり、お茶が売れず、在庫の増加で価格が崩れました。例年は3、4番茶まで収穫するのですが、昨年は2番茶で生産を自粛し、調整を図りました。野菜に関しては、食卓にのぼる野菜は問題がなかったのですが、JAいぶすきの主幹野菜であるそらまめは嗜好性が高く、業務用需要が中心なので、販売に苦しみました。
――JAいぶすきは経営方針で「地域農業の振興と地域経済の活性化」を使命としておられますが、その意図するところをお聞かせください。
JAの位置
私は4年前の第26回通常総会で組合長に選任されました。その時以来、私のテーマは「支援・貢献」です。農協の位置を、私は図のように考えています。農業はもちろん、地域と住民のくらしを支援・貢献できない農協はありえないと思うのです。農協は、2年前から買い物難民の住民に移動購買車「スーパーなのはな号」を走らせています。その一日の売上高は10万円を超えており、これは県下トップです。住民の期待がどんなに大きかったかがわかります。職員の積極的な地域活動も奨励しています。たとえば若手職員が地域の消防団員となり、積極的に地域貢献をしています。指宿市と南九州市からは、消防団活動に感謝状をいただいています。
――JAいぶすきの「アグリスクール」の取り組みもなかなかのものですね。
アグリスクールには力を入れています。コロナ禍でこの2年は開催できていませんが、管内の小学生のイモ堀体験や野菜出荷のしくみを学ぶアグリスクールだけでなく、県立山川高等学校の協力を得ての「JA×山川高校あぐりスクール」はユニークな取り組みだと考えています。農協の職員や青年部員だけでなく、高校の先生や生徒も参加する「豆腐づくり」教室などは、子供たちに喜ばれています。山川高校の園芸工学・農業経済科には、紅サツマイモのバイオ苗づくりや実エンドウなどの新品種の試験栽培でも協力してもらっています。
出向く営農体制-総合サポート室と営農指導員
――さてそこで、「夢と活力のある農業」の実現です。
昨年度、「総合サポート室」を独立した部局として設置しました。室長(部長相当)のもと7名の職員を配置しました。JAいぶすきの支所は7支所ですが、東部(指宿地区・喜入地区)、中央(開聞地区・山川地区)、西部(えい地区)3つのブロックそれぞれに経済課と、合計34人(野菜20人・茶4人・畜産10人)の営農指導員を配置しています。この「総合サポート室」が、経済課に配置された営農指導員と連携してのJAいぶすきの「出向く営農体制」の拠点です。農家の農協への要望・期待を積極的に聞き取り、関係部署につないでいます。
「農協の農業資材価格が高い」というのが、農家の不満の中心です。そうした不満に応えようと6年前に、「あっど!いぶすきみのり館」という生産資材&農畜産物直売所を開設しました(「あっど」というのは、「ありますよ」という意味)。(1)品質重視の資材を提供する、(2)選択肢が少ないという不満に応えて、品揃え機能を大幅にアップする、(3)営農指導員を配置して、農家にも家庭菜園をやっている顧客にも即相談できる、(4)50名余りの生産者に野菜や果物を出荷してもらい、店頭精米、肉・魚・加工食品がある周辺消費者にも便利な直売所、(5)早朝午前8時からオープンして、ホームセンターには負けない、といったコンセプトです。金山祐一店長をはじめ、職員にがんばってもらっています。
家族経営こそ農業の担い手
――JAいぶすき管内の畑地は昭和40年代に始まった池田湖を水源とする畑地かんがい事業のおかげで、集約的な野菜栽培が可能ですね。
そのとおりです。畑地かんがいの結果、管内の畑地の大半ではパイプかん水が可能となり、それまでのさつまいも・麦・ナタネに代わって、まずはダイコン、そして茶、さらにカボチャ、オクラ、そらまめ、サツマイモといった野菜の大産地になりました。とくにオクラは管内で100haを超える栽培面積があり、露地栽培の夏野菜としての基幹作物といえます。そらまめも70~80haの栽培はあるでしょう。
ところがサツマイモに基腐病(もとくされびょう)が発生するようになりました。集約的野菜産地ならばこその連作障害でしょう。土壌消毒はもちろんのこと、連作する野菜の収穫後から苗植え付けの間にソルゴーを栽培し緑肥として鋤き込んだり、テントウムシなど害虫の天敵を活かす工夫など、連作障害を防ぐ努力をしている農家もあります。しかし、まもなく対症療法だけでは間に合わなくなるでしょう。農協には、抜本的な土づくり指導が求められています。すでに研究チームを農協内に発足させました。
これまでは畑地経営面積1ha未満でも、りっぱな野菜専業家族経営が可能でした。私は、この家族経営こそがこれからの管内農業の担い手であり、農協は家族経営を守ることに全力をあげる必要があると考えています。というのも、家族経営だからこそ共選共販で農協とタイアップしてくれるのであって、近隣農家との共同園芸ハウスの導入や農地荒廃を防ぐことを自らの役割だと考えてくれています。
近年、管内にもキャベツやレタスを栽培する企業型の大野菜農場が生まれています。ところが、彼らと農協の関係は希薄です。何よりも、周辺の条件が少し悪い農地が放棄されたままになっているのにも我関せず、効率を優先します。もちろん、今後の家族経営の減少は不可避であって、離農にともなって農地余りが発生します。そこで、それを生き残る家族経営の規模拡大にうまく活用し、余裕のある畑地利用ができるように、新たな農地の再編なり基盤整備が必要だと考えています。
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